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第六十二話

 帝国からやってきたそれなりの人数の貴族たちが乗った馬車が街のすぐ近くに停車してゾロゾロと歩いて来る。それを少々緊張した面持ちで領主様とギルド長、その少し後ろに俺とシルビアが立ち様子を伺う。

 ヴォーリスは万が一に備えて街の外壁の傍に待機してもらっている、部隊の連中も同様だ。

 数分話すと更に険しい顔つきになった領主様とギルド長が天を仰ぎながらこちらに向かって歩いて来る、ギルド長に至っては駆け足で街へ戻っていく。


 「彼らはなぜやってきたのですか?」

 「それが……」


 シルビアが顔を隠しながら領主様に尋ねると、相手がシルビアだと気づき一瞬安堵した顔を浮かべるもすぐに暗い顔に戻り説明してくれた。


 「では、ここにもすぐに?」

 「彼らが言うにはそれほど時間はかからないだろうと……」


 領主様は一度屋敷に戻って首都に報告する書状を書くということで去っていった。やり取りが終わった貴族たちは一旦ここで物資の調達をしたあと更に移動する予定ということで、問題を起こさないように注意だけはされたようだ。

 そして肝心の彼らがやってきた理由だが、転移及び転生してきた異世界人たちの一部が反乱を起こし今帝国は、危険な状態に陥っていて身の危険を感じた貴族連中の一部が、我先にと逃げてきたという話だった。

 その反乱を起こした異世界人の言葉に賛同する人数は、どんどんと膨れ上がっておりいずれ連合国側にも何かしら宣戦布告、もしかしたらそれすらもなく攻撃してくる可能性があるという最悪な物だった。


 「一番帝国から近いこの街が最初の標的ってか……クソが」

 「誰だろうとこの街を、人々を傷つけるなどさせるつもりはないさ、一旦戻ろうタケル。装備を整えておこう」


 シルビアと俺は一旦ヴォーリスにジギルとクレスタ、ラフィールとモデナに馴染みの連中を集めるように伝言を頼み家へと戻った。


 「グラーフ頼みがある」


 家について早々シルビアがグラーフに声をかける。


 「分かっておる、帝国側の様子を見てくるといいだろう?」

 「ああ頼む。ただしどんな力を持った異世界人がいるか分かったもんじゃない、注意してくれ」

 「心得た。大まかな様子だけ確認したら戻ってくる、それまでにお主らは戦の用意をしておけ」


 グラーフの言葉にシルビアは無言で頷き、見送ると小屋に行き魔物討伐で使った大剣と薬品を確保して再び馬車に乗り街へと向かう。その道中でシルビアは俺にいつも使っているナイフを差し出してきた。


 「タケルがこれを持っていてくれ。万が一私が庇いきれない場面でも丸腰よりは遥かにマシだ」

 「でも、これシルビアがいつも使ってるやつじゃないか」

 「そのナイフは私がここに来てから使い始めた物なんだ。それより前は……これさ」


 シルビアは荷台に置いてある大剣を指さしながら言う。


 「だから、別にそれが無くても大丈夫さ。気にせず使ってくれ」

 「分かった。大切に使わせてもらうよ」


 俺は脇に下げておける鞘ごと受け取り装備して上着を羽織り直す。


 「出来る事なら同じ異世界人と戦うなんてことしたくなかったけど、今度ばかりはそんな事言ってられないね」

 「ああ、タケルがここにやってきたとき最初に聞かせた異世界人のように、ここを夢の中か何かだと勘違いしたまま襲ってくる者だっているだろう。そういう輩には現実を教えてやるしかあるまい」


 シルビアの話を聞いて、ここに来たばかりの事を思い出して懐かしさを感じながらも俺は気を引き締めた。

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