第六話
馬車でゆっくりと街の中を進んでいくと、石畳が敷かれており建物もレンガ造りでそこだけ見ると、どこかのテーマパークにいるような気がしてこないわけでもないが、歩いている人たちの中に重そうな剣やら盾やらで、武装している冒険者が何人も目に入ってくるので、ここが俺の知ってる日本ではないことは間違いないのだということを思い知らされる。
「うわぁ……あんなデカい剣背負って将来絶対腰痛めるぞ……あのあんちゃん」
などと運ちゃん仕事をしてたせいで、身の丈以上の大剣を背負った青年をそういう目線で見てしまうのも仕方ない。
「いや、あれは見た目は確かに大きく重そうだが、素材に軽い物を使っているから私でも振り回すことが出来るよ」
口をあんぐり開けて冒険者を見ている俺に、シルビアが解説をしてくれた。
「そうなの!? てかなんだあの鳥、見た事もない色してるし大きいなぁ……ほんと俺の知ってる世界じゃない異世界ってやつに俺は来たんだな……」
俺は澄み渡る異世界の空を見上げる、するとそこには、見たこともない極彩色の鳥の群れが頭上を通り過ぎていくところだった。
「そうだね。ここは私たちにとっては当たり前の世界だが、君たち異世界人からしたら見るものの殆どが異世界に見えるのだろうね」
そんな風に目に映る色んな物にいちいち驚いたりしている俺の様子を見て笑いながらシルビアは話す。馬車はしばらくそのまま道なりに進み、途中積んでいた薬をお得意さんだという店に、納品しながら店の従業員に挨拶を済ませながら、また馬車を走らせ進んでいくと何度か曲がったり進んだりしていると最後の納品先へと到着した。
「ここだ、タケル悪いが荷下ろしをしていて貰えるか? 私は店の店主に顔を出しに行ってくるから」
「了解、とりあえずさっきの感じで店先に並べる感じでいいかな?」
「ああ、それで構わないよ。一旦店主に今までの店と同じで検品してもらうからね」
シルビアが頷くと店の扉を開け奥へと入っていった。
「検品かぁ・・・・・・その辺は異世界だろうが一緒なんだよなやっぱり」
運送業をしていると嫌というほどさせられる検品作業、だがこれをしないと万が一違う商品が納品されていたりすると店側も配達する側も、色々と面倒な事になるのでこういうのはしっかりしていた方が良い、それがたとえ小さな瓶数十本だろうがだ。
「とりあえず降ろしておくか、割らないようにゆっくり丁寧に……」
降ろしている最中に足音が聞こえてきたので、手に持っていた瓶をそのままにして音の方へ顔を向けると、シルビアとこの店の主人であろう中年のおっさんが、二人で談笑しながら歩いてくるのが見えた。
「それにしても災難だったなその兄ちゃん。 異世界に来た途端にそんな事に巻き込まれて、シルビアが手を加えなかったら木端微塵だったんだろ? いやぁ何が起こるかわかんないねほんと」
「彼自身が生きたいと答えたんだ、助けないわけにはいかないさ。ただあのまま何も言わずにいたら遠慮なく湖に投げ込んでいただろうがね」
うわぁ……口だけでも動いてくれて良かったぁ……。
「あ、どうもこんにちはシルビアに助けてもらった代わりにお手伝いしてるタケルです、よろしくお願いします」
俺は瓶を抱えたまま店の店主のおっさんに挨拶しつつ仕事の続きに戻る。
「おう、お前さんが異世界人のタケルか。俺はジギルってんだよろしくな!気楽にジギルって呼んでくれて構わないぜ?俺もシルビアと同じで堅苦しいのが嫌いでね。いやぁ災難だったなぁ……、まあでもシルビアのおかげでこうして生きてんだしきっと何か良い事あるさ!てか、そろそろ昼間じゃねえか、どうだいそれ片付けたら飯でも行かないか?歓迎会も兼ねてさ」
そんなわけでジギルの行きつけだという料理屋に向かうことになった。
四~五分ほどジギルの後ろを俺とシルビアがついていくと、軒先に木彫りの皿とナイフとフォークを模した看板が置かれた建物が見えてきた、どうやらここらしい。
「おう、シルビア連れてきたぞー後はまた新しい異世界人もだ」
ジギルは常連というだけあって慣れた調子で扉を開け、厨房に向かって声をかけたあと適当に空いてる席に行きここでいいだろ?と目で問いかける、俺たちは頷くとジギルの選んだテーブル席へ座る。
すると、薄い桃色のエプロンをした女の子が出てきた。
「あ、ジギルさんこんにちはー。シルビアさんはお久しぶりです、そしてえっと……はじめましてエルって言います」
この娘の名前はエルって言うのか・・・・・などと意識を逸らしていたので反応が遅れた。
「あ、どうも。 異世界から来ましたタケルです」
俺は会釈しつつエルって娘を改めてチラ見する。 神は緩くポニーテールにしており表情や仕草から快活さが伝わってくる。ちなみにシルビアよりは無い、何がとは言わないけど。
「ひとまず俺はいつもの頼むよ。あとはシルビアはこの間飲ませてもらった葡萄酒、タケルは酒はイケるか?」
このおっさん日もまだ暮れてないのに飲むのかよ……。呆れつつせっかくだし俺も飲みたくなってしまったので、俺もジギルと同じやつを下さいと言ってみる。
「はーい、それじゃ少々お待ちください」
エルは注文を受け取ると一旦厨房へと戻っていった。
「ジギル……まったく君はこんな時間から酒飲みかい? あとでクレアに怒られるぞ」
シルビアは白い目でジギルを窘めつつも、ハスキーでクールな印象の声も何処か弾んでいる上に、指先でテーブルを叩いてなにかリズムを刻んでいるし、口元が心なしか緩んでいる気がする。もしかして葡萄酒楽しみなのかな?
「いやほらタケルの歓迎を兼ねてだな、それに説明するったって堅苦しい空気でやってもタケルが疲れるだろうし、酒でも飲みながら気楽にした方がいいかと思ってよぉ……」
「クレアさんって人はジギルの奥さん?」
「そうだ、結婚してから……そうだなそろそろ5年目か」
シルビアは指のリズムを一瞬止め顔を曇らせたが、またリズムを刻みだし動かしてない手を、顎にやり思い出したように俺に教えてくれたけど、シルビアの顔が一瞬曇ったのが気になったが聞かない方がいいよな?
「それとタケル、ジギルが飲む酒はかなり癖がある酒でね、もし口に合わなかったら無理に飲まなくていい私が飲もう」
シルビアがこれから来る酒について注意してくるが、正直俺は異世界に来てから初めてまともな食事ということで無駄にテンションが上がっている。来て早々あんな事があったもんだから余計にだ。
「おまたせしましたー、ジギルさんとタケルさんのお酒とシルビアさんの葡萄酒です」
大き目の木製ジョッキに注がれた液体の色は琥珀色をしていて、香りはウィスキーに近くアルコール度数も最低でも45度前後は確実にありそうな酒だった。
「確かにこれキツそうだね……」
シルビアの葡萄酒は言うまでもなくワインだった。
「よし、そんじゃひとまず乾杯だ。タケル、ようこそ異世界へ街を代表して歓迎するぜ!」
「お前はここの領主かなにかか?_」
シルビアが冷静に突っ込むが、苦笑いを浮かべつつグラスを掲げる、俺も同じように持ち上げるとジギルが勢いよく当ててきた。
「乾杯っ!」
こうして俺への異世界勉強会?が始ったのだった。
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