第五十一話
外壁の修復を帝国側に、それ以外の内壁と建物などを住民たちでやるという分担で始まった復旧作業だったが、修復というよりも再建したほうが早いような有様の物が、何棟かあり大工たちは頭を悩ませていた。その傍で俺はシルビアと別れて各地区を廻って、ケガ人の手当や薬の提供をしながら彼らのやり取りを聞いていた。
「こいつぁ参ったな……。新しく建てるのはこっちとしても別に構わないし料金だってこの状況だ、格安にしとくよ。けどよ……肝心の材料が足りなくなるんだよなぁ」
嘆く大工衆にジギルが手を上げた。
「グラーフに頼んで持って来てもらえばいいんじゃねえか?」
「いや、グラーフには崩れたデカい石壁や建物の瓦礫とか、人力じゃかなりの人数がかかりっきりになる仕事をやってもらってるからよ。その作業を止めて材料を取りに行ってもらうってなると、今度は人数の問題が出てきちまうんだ」
頭を悩ませている大工衆とジギルの傍へ、帝国の軍服を着た一人の青年が近づいてくるのが見えた。 俺は何か揉め事を起こす気じゃないだろうなと警戒しつつも、あえて気づいてないフリを装い軽傷のおばさんと男の子の親子に薬の小瓶を手渡して見送った。
「あのー。建物の材料を切り出しに行かれるのでしたら、僕らの部隊がお手伝いしますよ?」
「え?ああ、いやでもあんた帝国の軍人さんだろ?お互い諍いを起こさないために、距離を置こうって分担を分けたんだし……。あんた自身は異世界人をなんとも思ってない人かもしれないが、あんたの部隊の誰かがそうでなかったらきっとよくない事が起きる。そうなった時また誰かが傷つく事になる……俺は、俺たちはそういうのはもう沢山なんだよ」
青年の申し出を、大工衆の頭と思われる顎髭を生やした精悍な顔つきのおじさんは、青年の屈託なく笑う笑顔にとまどいながらも不安を吐露しながら申し出を拒否する意思を示した。
「確かに帝国は異世界人を差別することで成り立ってきた国です。ですが、僕の居る部隊は全員が異世界人で、戦いの道具として扱われてきました。ですがこちらの国では異世界人も普通に暮らしていると聞き、どうしてもこの目で確かめたくてこの支援部隊に立候補しました。それと勿論僕もです……ほらっ!」
そう言いながら、頭のベレー帽を取った青年の頭にはぴょこぴょこ動く犬耳が生えていた。
それを見たおじさんは少し安堵した表情を浮かべると頭を下げて礼を告げた。
「気を悪くするような事をいって済まなかった。ぜひあんたたちの部隊に頼みたい」
「気にしないでください。僕らは帝国の人間なのだから警戒されて当たり前なんですから」
おじさんと青年はどちらともなく手を差し出し握手をすると資材の調達の段取りを煮詰める話をし始めた。数分後、話が決まり青年の所属する部隊に俺とジギル、自警団の何人かが加わって資材の調達に向かう事になった。
「改めまして、僕はこの部隊のリーダーを務めているヴォーリスです。 よろしくお願いします」
「俺はジギル。 よろしくな」
「俺はタケル。 よろしく」
俺やジギルに続いて、それぞれ自己紹介をしてから各々馬車の荷台に乗り目的に出発した。




