第四十一話
ラフィールを降ろした後、お得意さんのところを馬車で回り薬の補充と注文を受け取り、エルの店で昼飯を食べて休憩していると、ドアを開けて空席が無いか店内を見回しながら入ってきたのはモデナだった。
それに気づいた俺は手を挙げて手招きする。
「おいモデナここ空いてるぞ」
俺の声に気づいて、赤い髪を適当に後ろで纏め揺らしながら笑顔で歩いて来る。
「タケルも相変わらずここに来てるよね。お昼ってなると」
「いやだってここ値段はお手頃だし量もあるしなぁ」
座りながらやや呆れ顔で話しかけてくるモデナに俺は頬をポリポリ掻きながら答えつつあまり聞けてなかった俺とシルビアが首都にいっていた間に何か変わったことがないかを質問してみる。
「変わった事ってほどの事はないかなぁ。人間爆弾騒ぎも起きてないしね」
「そっか。なら良かった」
「それよりびっくりだよ。街中大騒ぎだったんだよ?デッカイ竜がこっちに向かってる!ってさ」
確かにグラーフのような強面の竜が、自分たちの街に向かって一直線に飛んで来たらそりゃ大騒ぎだっただろうな……等と想像して苦笑する。
「まあ事情は歓迎会の時に話した通りだよ。悪い奴じゃないから安心してくれ」
「それはシルビアとあんたが言うんだから信じてるけどさ」
「助かるよ……っとそろそろ午後の仕事に戻るか。じゃあお先」
「はーい。またそのうち皆で飲もうねー」
モデナに軽く手を振りながら休憩も程々に会計をエルに払うと俺は席を立ち午後の仕事に戻るため店を出る。強い日差しが照り付けてくるが元の世界の気温に比べたらどうってことない程度だったのが幸いだった。
「いやぁ地元の気温に比べたら本当に楽」
そう呟きながら残りの配達先を回り、ジギルの家に馬車を止め夕方のジギルとクレスタの鍛錬に勤しみ、日が暮れ。街中の家に灯りが灯る頃。鍛錬を切り上げ帰路に着いた。
「ただいまー」
馬車を片付け馬を小屋に戻して家に入ろうとしてふと、家の灯りに薄っすら照らされて浮かび上がる湖の周囲に目をやると、グラーフの気配がして声をかけたのだが返事が無かった。
「グラーフどうしたんだ?」
「む、すまん。集中していて気づかんかった」
自分でへし折った角の根元辺りを爪でポリポリ掻きながら、グラーフは誤ってくるが気にしてないので首を横に振ってその意を表しつつ何かあったのかと尋ねる。
「遠くで妙な魔力の気配を感じてのう……気のせいだといいんじゃが」
「妙な魔力……」
「うむ、今は感じぬが、ついさっきは確かに感じたのじゃ」
グラーフ自身確信が持てないようで首を傾げつつ唸る。
「とりあえず、夕飯を食べてから考えないかい?二人とも」
玄関の柱に寄りかかりながら、シルビアが声をかけてきた。
「お、もしかしてグラーフ、シルビアに頼んでみたの?」
「うむ!」
子供のように弾んだ声で答えるグラーフの尻尾は、犬のようにせわしなく動き、バシャバシャと水面を叩く様に俺とシルビアは笑ってしまう。
「今日はベランダで食べよう。タケルは皿を用意してくれ。グラーフの分は使ってない鍋を使おう」
こうして俺とシルビアとグラーフの三人で、楽しい夕飯が始まったのだった。もちろん味はいつものようにとても美味しく、グラーフも満足していたが、量が足りないという要望を解決すべく、シルビアは食後の紅茶を飲みながら顎に手を当て思考に耽るのであった。




