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第四話

  絶え間ない激痛の嵐に意識が遠のいて、どれくらい経ったのかはわからないがとりあえず俺は、今自分がまだ生きている事と、自分の意志で首を動かし周りを見渡せていることに心から安堵した。


 「俺、生きてる……?」


 見渡すと俺はベッドに寝かされているようだった。心なしか良い匂いがする。体の感触から衣類はほとんど脱がされているようだった、ちなみに下着はかろうじて履いていた。


「気が付いたようだね」


 そう言って俺に施された入れ墨を書き換えた女は、起きた俺が体を動かす音に気づいて隣の部屋からやってきた。


 「はい、ありがとうございました。 あなたのおかげで助かりました」

 「構わないさ、あのまま放っておいたらこの家が吹き飛ばされていたからね」


 そう言って肩をすくめる女は、身長は170ちょいくらいの身長に肩口で適当に切りそろえた黒髪を寝ぐせなのか、所々跳ねたままにしていた。目鼻立ちははっきりしており目を引くのは宝石のような碧眼。  

 そして女声にしては低めのハスキーボイスで、外見は若いのに声質のせいか年上のような錯覚に陥ってしまう。この短い間の会話で口調やら所作なども踏まえ、全体の雰囲気から男装とかしたら似合いそうな、そんな女性だった。ただし女性としてのスタイルは抜群なので、色々と誤魔化すたまにサラシ等は必須だろうけど。

 と、そこでしなきゃいけないことをしていないことに気づく。


 「あの、こんな体勢で申し訳ないですが自己紹介させてください。 俺の名前は小野(おの) (たける)といいます」


 俺はせめてお辞儀ぐらいしてから挨拶しようと体を起こそうとしたが上手く力が入らないのを感じて横になったまま名乗った。

 

 「ふむ……たける……」


 女は俺の顔をぼけーっとみながら俺の名を呟く。


 「信じられないかも知れませんが、こことは違う世界からやってきたんです。目が覚めた時点で、さっきの呪文か何かを埋め込むための施設のやつらに拘束されてしまっていて……、意識はあるけど俺にはどうにも出来ないままにいたけど、あなたのおかげでちゃんと自分の体を自分の意志で、動かせるようになりました。本当にありがとうございます」


 俺は感謝の気持ちをとにかく伝えたくて、早口気味に自己紹介とお礼を済ませる。


 「礼には及ばないよ、あの程度の刻印の書き換えなんて軽いものさ……。あとはそうだ自己紹介がまだだったね。私の名はシルビア、魔術師であり片手間に作った薬を、街に売りに行って生計を立てている。 それと異世界から来たと言ったね? 安心するといい……と言って良いのか微妙なところだが、この世界には君のように、違う世界からやってくる者たちが少なからずいるものでね、それほど驚く事もないんだよ」


 シルビアはハスキーな声で目覚めたばかりの上に、異世界に来てからまともな会話が初めての俺のためにいくらかゆっくりと語り掛けるように自己紹介とこの世界の事を少し教えてくれた。


 「君に組み込まれた刻印だが、全く別の物に書き換えておいたから日常生活においてなんら支障はないから安心してくれて構わない」

 「良かったぁ……。とりあえずいきなり爆発して人生終了じゃなくなって……。そっか……あの女も異世界人を何人も見てきたみたいな口ぶりだったもんな。この世界じゃ異世界人ってのはそんなに珍しいもんでもないわけか……ってことはシルビア……さんが薬を売りに行っている街にも、何人か居たりする……んですか?」


 俺はこのシルビアって人が年上なのか年下なのか、よくわからないのでぎこちない敬語で質問する。


 「畏まった話し方は苦手でね。砕けた調子で話してくれて構わないよ。 それと君のような異世界人は確かに街に何人か居たんだが、少し前に旅立ってしまったから今街にいる者で知っているのは、一人くらいだな」


 顎に手を当て思案顔で答えるシルビア。魔術師とか薬の調合をしているせいかそういう考え事をしているのが様になっていた。


 「そっか……会ってみたいなぁ……。あの、もしよかったら俺を街まで案内してもらえることって出来ないかな? 助けてくれたお礼に、なにか薬を運ぶのとか雑用手伝うしさ。 それに俺の体にあの変な刺青をいれて、人間爆弾に仕立てあげた連中に落とし前をつけたいんだよ」


 俺は、最初の方こそ笑顔で話していたが後半になるにつれ、あの時の女と老人の顔を思い出して悔しさと怒りを抑えきれずに、随分と怒気が混じった声でシルビアへと質問する。


 「ちょうど午後から街に居る友人の店に、薬の配達に行くところだ。 ああ、でも君にあの刻印を施した連中を、突き止めて復讐をするというのはたぶん無理だ。あの手の連中は、かなり前から存在は確認はされていて一度完全に無くなったんだが、ここ二年ほど前から再開し始めてね、自警団や国の騎士団などが、めぼしいアジトを潰したりはしているのだが、叩いても叩いても別の場所でまた手術を施しては事件が起きているのが現状なんだ」


 シルビアは諦める事を促してきた。確かに俺一人でどうにかなる規模ではないようだし、このやり返したいという想いはそっとしまっておくことにして、それだったら助かったこの命をシルビアの手伝いをして生かす事に費やした方が、よっぽど良いのではと思い直した。

 それに何も出来ないという事に対する無念さより、俺と同じ異世界からここへ来たっていう人に会いたいという気持ちの方が勝っていた。


 「そう……だね。俺一人で何も出来ないもんなぁ……。よし、そうと決まればちょっと怠さはあるけど、立ち上がれない程じゃない感じだし、早くお礼もしたいし異世界の人にも会いに行くことを考えよう」


 シルビアは、俺が思いとどまってくれたことに安堵したのか優しく微笑む。


 「ふむ、それがいい。では私は外で荷造りをしておくよ。代わりの服を置いておいたから、着替えが終わったら外に来てくれ」


 シルビアは俺に声をかけて部屋を出て行った。

 

 「わかった、すぐ行くよ」


 俺はベッドから起き上がり、枕元にあった着替えに手を伸ばし広げ、俺と同じくらいの寸法の男物の服に、本調子でない体の動きのぎこちなさで着替えを済ませて、外に出ると身支度を済ませたシルビアが、小さめの荷車と家の裏に繋がれていた馬を繋いで、小屋から薬の瓶や薬草を載せているところだった。


 「あ、俺がやるよ」

 

 そう言ってシルビアから指示をもらい、持っていくものを荷車に載せていき、積み終わると俺が手綱を握る係になり出発するのだった。


 出発する前に、軽く手綱の握り方を教えてもらい隣に座ってもらう。かなりおとなしい馬だったので、初心者の俺でもすぐに懐いてくれて馬はゆっくりと歩き出した。表情の変化が少ないだけで、ある程度だが申しわけなさそうな顔をシルビアが浮かべているのに気づいて、こういう仕事は俺結構好きなんだよと答える。


 「なら……お言葉に甘えるとしよう」


 隣に座ったシルビアはんびり空を眺めて僅かに口角を上げて微笑んだ。

 

 「少しでも命の恩人に恩返ししたいからね。他にも雑用があったら遠慮くなく言ってよ、手伝うからさ」


 俺はしつこいくらいに感謝の意を、シルビアに示しながら馬車の行く先を見つめた。

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