第三話
ヒロイン登場です。
意識を失ってからどれだけの時間が経ったのか分からないが今自分が立っている場所がどこなのかさっぱり分からない、というか俺の意識は確かにあるのに体が勝手に動いて何処かへと向かっているんですけどぉ!
『どどど、どういうことだよこれ!?どこに行こうってんだよ俺の体!』
口を動かそうにもどうにもならず心の中で声が響いてるような状態になってしまう。意識と体が切り離されたような状態。視界に入るのは樹齢が結構な年月経っていそうな大木がいくつもあり日光を葉が遮ってしまい薄暗くなっていて僅かな隙間から小さな木漏れ日が差しているような森だった。
その森を俺の体はひたすら歩き続ける。まるで操り人形のように。しかも裸足だし服は転移したときにきていたジャージではなくなっていてぼろ雑巾を適当に縫い合わせたとても服とは呼べないような物を纏っているだけだった。
『操り人形って……あの爺さんが俺に打った薬の効果がこれってことか?てことは俺の体に何か命令を吹き込んで、体はそれを実行中ってわけか』
自分の体が歩き続けるのに任せ、俺はひたすら俺の体がどうなるのか、ていうか何のために転移までしてこんなことになってんのか分からなくて泣きそうだった。いや、嘘だ。 もう泣いてるよ心の中で。
しばらく歩いてそうこうしているうちに俺の体は森を抜けた。視界が開けた先には湖が目の前に飛び込んできた。とても透明度が高く水底が見え、名前は分からないが魚が数種類泳いでいるのが見えた。歩き続ける体、前を向き続ける俺の顔、その中で視界に入る情報を少しでも取り入れようと、とにかく集中していると湖の傍に家が建っていた。歩いてく様子を見るにどうやら俺の体はあの家に用があるらしい。
数回のノックのあと、気怠そうに答えるややハスキーな女の声が返ってきた。
「んぁ? こんなところに昼間から客が来るとは珍しいな。鍵はかけていないから勝手に入ってくれて構わないよ」
家主の適当な返事を聞き俺の体はドアを開けて家の中へ足を踏み入れると、澄んだハーブ系の爽やかな香りがが鼻をくすぐった。
「やぁ、こんにちは……どうやらただの客ではなさそうだね」
声の主の姿は丁度逆光で見えず、大きめの安楽椅子から立ち上がるところが見えた。ゆっくりと近づいてくる声の主、顔が見えた途端俺は胸が苦しくなった、これは恋? などという少女漫画みたいな物だったらどんなに良かったか……。この苦しさは明らかに命に関わる苦しさだ。呼吸もろくに出来ず声にならない声を上げる、視界はぼやけ床に崩れ落ちる、体を胎児のように丸めだした俺の体の右腕やら足やらからは、なんだか分からないオレンジ色の光が溢れだしていて光っている所が異様に熱く火傷しそうだった。
「やれやれ、わざわざ私の家に来客なんてジギル辺りが来たかと思ったがまさかここにまでこれを寄越すとはね……こんな刻印を薬漬けにした人間に叩き込んで爆弾替わり……か。私も随分と舐められたものだな……いや、これは……」
視界の隅に映る主は、俺の縮こまった頭を無理やり自分の顔へ向けさせる。視界は痛みのせいで涙が浮かび、ぼやけているもののはっきりと見える吸い込まれそうな碧眼が俺を捉えていた。
「今、私は君の体に抑制の術を施して爆発を無理やり押さえつけている。だが、それも長くは持たない。このままでは数分と経たずに君の肉体は爆発物として木っ端微塵に吹き飛ぶ。だが、それをされては今日から私が住む家が無くなってしまう。ということで今から君に施された刻印を作り替える作業を始める、答えは聞かんがね」
俺の目を見る女は心底どうでも良い様な何も考えてないようなやる気のかけらのない目で俺を見ていた、俺はただそれを痛みに耐えながら見ている事しか出来ないと思ったがほんのわずか身体が俺の意思に反応していることに気づいた。口がゆっくりとだがどうにか動かせそうだったので声を出してみる。
「しに……たく……ない」
消え入りそうな掠れた声で発せられた言葉を聞いた目の前の女は口を開いた。
「心配するな、この程度の刻印すぐに手直し出来る。 それよりも一度刻まれたものを無理やりに直すというのは負担が大きくてね……少し痛いが男の子だ、我慢出来るだろう?」
そう話す女の目はやる気に満ちた目に変わり俺の頭をゆっくり床に横たえてから離し立ち上がると何事かぶつぶつと唱えると腕や足の体の一部に埋め込まれた入れ墨のような光っている部分が少しだけ形を変えていくのが見えた途端全身を激痛が走った。
「んぐうううああああああああ!!」
「我慢我慢」
女は無表情で詠唱を続ける。激痛に耐えかねたのか俺の意識は数秒で再び薄れていき暗転したのだった。