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第二十二話

 サンドイッチと紅茶で腹を満たし、俺に懐いている女の子をどうするかという話になり、女の子は街にある孤児院に引き取られること事が決まった。最初は嫌がったそうだが俺が帝国に行っている間に実際に見に行ったところ、同じくらいの少年少女が結構居るのを見て安心したらしく孤児院行きを承諾してくれた。

 ただし、俺が時々様子を見に行くようにとギルドの受付嬢さんから言われてしまった。


 「まあ仕事のついでに寄っていけば大丈夫だしね」

 「よっぽど君の事が気に入ったみたいだな、あの女の子は」

 

 ソファーに座って受付嬢さんから絵本を読んでもらってる女の子を見ながらシルビアは言う。


 「他の人たちも、それぞれ今後の方針は決まりそうで安心したよ」

 「そうだね。あとはせっかくこうやって助けた人たちが、安心して暮らせるように魔物たちを排除して安全を確保しないとな」

 

 俺とシルビアは決意を新たにしカップに残っていた紅茶を飲み干しテーブルに置く。


 「そろそろ交代の時間だ。行くぞタケル、クレスタ」

 

 和やかな顔から元のクールビューティな無表情に変化させ、シルビアはジャケットを羽織り扉を開け外へ向かう。それに合わせて俺たちも後に続く。日は落ちて暗くなっており夜間は、敵も周囲をうろつくだけで襲っては来ないという今までのパターンからモデナには、もう少し休んでもらおうという全員一致の意見だったのでモデナは今回は留守番だ。


 「久しぶりのテスタと姉妹で仲良くぐっすり寝かせてやらなきゃな」

 

 俺は後ろを振り返り、ギルドの建物を眺めながらそう言うと、


 「ああ、月明かりでだいぶ見やすいがそれでも暗闇に変わりはない。松明をもって街から離れ過ぎないようにして周囲を捜索してみよう」

 

 俺とクレスタは頷き、門の外へと出る。

 そして、草原を注意深く警戒しながら歩いていくと確かに昼間と違い、動きが単調になっているし既に飛び掛かって来ていた間合いなのにも、関わらず唸るだけで何も攻撃の素振りを見せない魔物たちの様子に俺たちは改めて操られている説が濃厚だと判断した。

 

 「適当に灯りになる光弾を撃つよ」

 

 シルビアはそう言って小さい光弾を三つ空に向かって放つと途端光が溢れだし周囲を昼間のように照らし出した。

 照らされた草原とちらほらと何本か生えてるそれほど高くない木、そしてこちらを凝視しながらのそのそと歩く魔物、上空には月と雲がほんの少しある程度だ。


 「やはり、司令塔の鳥が居ないとこいつらは特にこちらから仕掛けない限りは目立った攻撃的な事はしてこないようだな」

 「それはほぼ確定だが、肝心の鳥が何処に潜んでいるかだが……さすがにこの光弾を撃ち上げながら移動したりすればさすがに逃げられるだろうしな、残念だが日が昇るまで魔物が街に入らないように警戒することだけに集中しよう」

 

 俺とクレスタは頷き、門の傍まで移動して待機することにした。

 

 時間が過ぎ、日が昇りしばらくすると遠くから例の鳥がこちらに飛んでくるのが確認できた。 それを合図に俳諧するだけだった魔物たちが再び飛び掛かってきた。


 「やはり、あの鳥だな。あいつが来た途端魔物の動きが変わった」


 確信を得たシルビアは、襲い掛かってくる魔物をナイフで華麗に急所を突き絶命させ、右手を上空の鳥に向け光弾を放った。シルビアの攻撃は見事に命中して爆発が起こり沢山の羽が舞い落ちる、それに合わせて魔物たちが黙り込んで唸るだけになった。


 「おい……なんだあれは」


 俺とクレスタが、爆発の煙が引いた中から出てきた物に対して驚くが、シルビアは何か予想をしていたようで、特に動じた様子は無く油断なくナイフを構えてソレを冷めた目で見据えている。


 「気づかれましたか。 さすが隊長……いや、元隊長でしたね」


 爆発の中から現れたのは、全身黒の軽装に白髪の長髪を適当に結わえたラフな格好をし、どこか爬虫類を思わせる独特の目と姿勢をした男の姿だった。


 「久しぶりだな。ニック」


 シルビアを隊長と呼んだって事は、どうやらこの男は軍に居た頃のシルビアの隊員のようだった。


 「私の雇い主がどうしても貴方を連れ戻したいそうで、こうやってお迎えに上がりました。と、言いたいところなんですが正直僕個人としては、軍に背いた貴方を再び迎え入れるなど認めたくないのです。わかるでしょう?」


 ニックと呼ばれた男は、人の神経を逆なでするような声音で嫌味ったらしく敵意を隠そうともせずシルビアに言って聞かせた。


 「だろうな。それに私はもう共和国の人間として生きている、今更戻る気はない……というのも分かるだろう?」

「はぁい、存じ上げております。雇い主の使う隷属の刻印を使った使い魔の報告を聞きながら、貴方の居場所を探るのにかなり時間がかかりましたが、たまたま雇った盗賊が起こした事件で貴方が現れてくれたので候補を絞り込むのがかなり楽になりましたからねぇ。あとはそこから更に観察して今に至るわけです」


 村の事件……あの夜盗、利用されていたのか。


 「あの夜盗は利用されていたわけか。 そうまでして私を探して連れ戻したい目的はなんだ?」

 「利用したつもりだったんですが、雇い主は同郷の者にはとてもお優しい方でね、わざわざ弔いの言葉を掛けに行きましたよ、使い魔越しにですけどね。貴方を連れ戻す目的ですか……貴方の一番の得意分野に関する事……と、言えば察しが付きますかね?」

 

 ニックは大袈裟に身振り手振りを交えながら説明する。


 「……刻印か」

 

 シルビアは静かに呟く。


 「最近とても素質のある異世界人が軍にやってきましてですねぇ……。今でも十分に強いのですが更に力を手に入れるために刻印を欲していまして、雇い主がその方を大層気に入ってしまって、せっかくだから一流の技師に頼むべきだという話になり、貴方にお越しいただきたいという事です」

 

 帝国はとことん異世界人を排除しようとしている国のはずだが、ニックの話を聞く限り属になれば多少はマトモな扱いを受けられるらしい。


 「それで? なぜ私を直接狙わずに街全体を狙うんだ」

 

 ニックは待ってましたと言わんばかりに、下種な笑みを浮かべると嬉しそうに口を開く。


 「そんなの決まってるじゃないですか!裏切り者の貴方に、安住の地など無いと思い知らせてあげるためですよっ!帝国から最上級の扱いを受けていながら、帝国を裏切り共和国に逃げ延びて安穏と一般人面して日々を過ごしてきた貴方にね」

 

 シルビアは、その答えに深いため息をついてから口を開く。


 「要するにお前の雇い主は、私を再び帝国に連れ戻したいが、お前はそれを止めるついでに私の世話になってるこの街を、破壊した上で私自身も殺し、雇い主には戦闘になりやむを得ず殺してしまった……という筋書きにしたいってことだな?」

 「さっすが元隊長、良くわかっていますねぇ……それでは始めますか?」


 ヘラヘラと相手を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、ニックは刻印を浮かび上がらせて姿勢を低くしシルビアを見据える。


 「そうだな」


 そう言ってシルビアは両手にナイフを持ちニックへと疾駆する。

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