第二十話
今回も今までと同じ書き方で投稿します。
走り続けて数分、なんとか馬小屋を見つけると俺たちの馬車はすぐにでも出せる状態のままにされていたので急いで飛び乗った。 衛兵が何事かと騒いで駆け寄ってくるが、片っ端からラフィールが眠りの魔法をかけて昏倒させていった。
「出すわよ! しっかり掴まって」
モデナが手綱を握り馬を出す。門が閉ざされようとしていたが、これもラフィールの魔術で景気よく吹き飛ばした。
「やることが派手だねえ……」
俺は思わず呟いてしまう。
「だって、あんなところでこーんな可愛い女の子閉じ込めて、異世界人はいっぱい捕まえて爆弾に変えて殺そうとしてる人の家の門くらい、あれくらいが丁度いいのよ」
いっつもニコニコおっとりとしたラフィールがいつになく眉毛がキリリッっと擬音をつけてやりたくなるほど上がっておりいくらか怒っているのが見て取れた。
「まあ……確かにな。あの丸刈りが俺たち異世界人を……」
「あの方ははるか昔から異世界人排他主義を唱え続けている一族でな。 おそらく私のような状況に陥ったとしたらさっさと首を切って死を選ぶ、そういう一族だ」
おっさ、クレスタがあの若い貴族様の説明をしてくれた。
「帝国全体が排他主義なんだろうけど、その中でも特に熱心な活動をしている連中の内の有名人みたいなもんなのか?」
俺の質問にクレスタが頷く。
「そうだ。 たくさんの貴族、民衆が排他主義を掲げているがあそこまで苛烈なやり方を好むのはそうはいまい」
「そこまで差別の歴史ってのは長いのか……」
俺はこの世界に来て最初に会ったのはモデナと爺さんだったが、たどり着いたのは異世界人に対して差別や侮蔑、排他的な思想を持たない連合国に来たのがどれほど恵まれているのかを実感した。
馬車は猛スピードで市街地を駆け抜け、ルイルの街周辺と同じような街道に出て、さらに速度を上げる。屋敷からの追手は来てはいるが、屋敷があんな状態な上に大事な雇い主が昏睡状態じゃ指揮系統も行き届かないのか、それほどの数ではなかった。それよりも馬に乗った衛兵が何頭か追ってきている。
「案外追手は少ないな」
クレスタが幌の隙間から後方を確認しながら言う。
「とりあえずこのまま国境の砦に戻るわよ。ラフィールさん何か妨害してくれない?」
モデナが前方に集中したまま声を少し張りながら支援を要求する。
「りょ~かい」
ラフィールは、いくつかの光弾を成型するとそれらを追手の足元に向かって放ち、途端爆発して馬たちは驚き急停止して俺たちとの距離はかなりの物になった。
「ありがとうラフィールさん。 よしこのまま一気に行くわ」
モデナは俄然やる気を出し更に加速させた。
数時間ごとに休憩を挟みつつ移動して、再び二日ほどかけて砦にたどり着き、向かう時に検問した時と同じ不愛想な衛兵が幌の中を改め、乗車人数が増えてる事について尋ねてきたが、妹を迎えにいっただけと答えると「そうか」とだけ言って通らせてくれた。正直あの衛兵はやる気があるのかないのかわからない変なやつだなと思いながらも、特になんの問題も起きず再び連合国側に戻ってこられた事に俺は安堵した。
「もう少しだな……」
俺は砦を抜け視界が開けたのを確認すると一人呟く。
「早くシルビアに会いたい?」
ラフィールがニヤニヤしながら聞いてくる。
「い、いや別に!? そんなことないけど」
シルビアの、起伏の薄い表情がたまに崩れて微笑みを浮かべた時の顔が、チラついたがすぐに振り払い手をぶんぶん振って誤魔化す、なんだか顔が熱い。
「照れちゃってー可愛いなぁ」
そんなからかいを軽くあしらいつつ、モデナが操る馬車はルイルの街へ駆けていく、俺は特に何もしていないけれど命のやり取りに近い現場はこれで三度目、やはり余計な緊張感が身体を強張らせ体力と精神力を浪費しているのだろう、俺は荷台で座り込んで項垂れる。
「タケル、大丈夫?」
ラフィールはからかいを止めて俺の疲弊した顔を見て気遣う。
「ああ、大丈夫だよ。 戦いの現場ってのにまだ慣れてなくてね。変に疲れちゃうんだ」
「確かにね。元の世界にそういう争いごとが無い世界だと、ここ最近タケルが見てきた状況っていうのは肉体的にも精神的にも堪えるわよね」
俺を気遣うラフィールに苦笑いを浮かべて答えてると、クレスタが口を開く。
「タケル、キミと一緒に居たシルビアという女性だが――」
「悪いが彼女に何か用があるのなら俺を通してもらおうか」
疲れてると言っているのに、よく知らない男からシルビアの名前を出されて食い気味に答える俺にラフィールが、笑いをこらえているのが視界の隅に入るが今はスルーしておこう。
「あ、ああ……用ってわけではない。 ただ私の知る同じ名の女性は私の国では重罪人として数年前から指名手配を受けていてな。 もし仮にその女性が彼女だと帝国に露見すれば帝国側が何かしらの行動に出るのは間違いない。 キミが彼女と共にありたいと思っているのなら覚悟することだ」
クレスタが真剣な顔で俺に忠告してくるが、シルビアに命を助けられた時から俺はもうシルビアのために生きていくと決めた。 だからこれからどんな危険があろうと俺は絶対にシルビアから離れたりしないと誓って言える。
「覚悟もなにも俺はあいつと……シルビアとくたばるまで一緒に居るって決めてんだ……。まあシルビアから拒絶されたら考えるけど、今のところは何も言われてないしな。とにかく今はシルビアの薬の配達の手伝いをして助けになりたい」
「シルビアが羨ましいわ。こんなに想ってくれてる男がいるなんて……」
ラフィールが赤らむ頬に手を当てて呟く。見ればテスタも顔を赤くしながら俺を見ているしクレスタはやれやれと手を振っている、モデナは聞こえなかったフリをしてくれているんだろうけど頬が赤くなっているのが見て取れた。
「……って言ってる自分がめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……今の俺の話、シルビアには内緒な?」
俺は顔が赤くなっているのを感じながらその場にいる全員を見回しながら唇に手を当てて懇願した。




