第二話
二話です
YESと打ち込み終えた途端俺は意識を失い目が覚めると部屋に居る時に着ていた所々解れている着古したジャージのまま四方に壁しか見えない薄暗い部屋の真ん中に置いてある簡素なベッドに寝かされていた。
「ここは……?」
起き上がろうと体を起こそうとしたら中途半端なところで手首が縄で固定されていて起き上がれず横になるしか出来なくなっていた。
「なんだよこれ!普通こういう転移物って主人公が勇者とかになっててすげえ歓迎されてて凄い装備に凄い強いパラメータにスキル、そしてエロ可愛い女の子がパンチラしてくれたりするもんだろ!」
俺が仰向けで騒いでいると、視界の片隅に見えるドアが勢い良く開けられる。
「五月蠅いわね! あんたみたいなひょろいのが身ぐるみ剥がされて始末されないだけマシでしょ!ちっ、薬の効きが弱いみたいね。予定よりかなり早く目を覚ますし。このままやったら刻印の手術の最中に騒がれちゃうかも……これじゃ刻印の調整に時間がかかって怪しまれちゃうじゃない!」
ドアを開けて部屋に入ってきたのは、ウェーブがかった赤髪を肩まで伸ばしている見た目十代後半か二十前半に見える俺と大体同じくらい外見年齢の女だった。いや、それよりも……。
「薬?手術?なんの話だよ!?俺はこれからなんかこう魔王とか悪いドラゴンとか退治するために武器やら防具やら仲間やら集めつつ可愛い女の子とキャッキャウフフする生活が待ってるんじゃねえのかよ!」
「なんで異世界人ってみんな似たようなことばかり喚くのかしらね……街で助けてた人たちはこんな事言う人殆ど見た事ないのにここにくるのは訳が分からな奴ばかりで嫌になるわ……せいぜいあんたが殺れるのは足元歩いてるアリくらいじゃないの?全く、薬の量じゃなくて種類を間違えたのかしら?あんたには悪いけど今は私たちの言う通りにしてて、助かるか助からないかは結局あんた次第になってしまうけど、それでも何もしないよりはマシなはずだから」
おいおいおいおいどういうことだよこれ、なに? なにされちゃうの俺、歯医者ですら怖くて泣いてた俺が体になにか埋め込むとかそんな事されたら痛すぎて死んじゃうよぉぉぉ!!
「冗談じゃねえ!何する気かしらねえが手術なんて受けねえからな!さっさとこの縄を解けよアンタ!」
喚き散らすが女は聞く耳を持たず、ベッドの拘束具とは別の拘束具を俺に取り付けてからベッドの拘束具を外し、別の部屋へと俺を引きずって連れ出した。数分ほど移動するとデカい扉が開き、そこには手術に使われるであろうメスやらなにやらが台に並べられていて、白衣に身を包んだ老人が佇んでいた、
「おや? 予定より早いんじゃないか?」
「こいつの体に薬が合わなかったのか知らないけど、早く起きちゃったみたいなの。ピーチクパーチクやかましいと思うけどあんまり時間を掛けると細工しているのがバレちゃうかも知れないから師匠、早く始めましょう」
女は心から申し訳なさそうに老人に頭を下げ、老人の前にベッドを移動させると自分も服の上から白衣を着た。
「さて、急ぎとはいえしっかりせねばならんからな。小僧には悪いがさっそく始めさせてもらおうか」
老人はそう言って俺の腕に台の上にある注射器を手に取り得体の知れない液体を注入した。
「ふっざけんなよ! なんなんだよおい! わけわかんねえよ!」
「なぁに、もうじきすべてがどうでも良くなってくるさ、そして次に目が覚めた時にはお前さんはただの道具、人形になってるだろうさ」
「道具? 人形だって……」
「ああそうさ、自分の意思ではなく命令されたことしか出来ない人形……そういうものにお前さんはなるんだ」
「こんなことして……ただで……済むと……」
老人の言った通り視界がぼやけ、意識が霞みがかってはっきりせず朦朧としてきて、俺の意識はその後数秒と経たず暗闇の中へと吸い込まれるようにして消えようとしていた。
「ああ、分かってる。ワシとこの娘が逝く先は間違いなく地獄だろうさ……」
消えていく意識の中でぼんやりと聞こえてきたのは老人の言葉だった。