第十七話
救助した人たち、応援の男集とギルドの宿直のおっさんたちと俺たちは、皆で賑やかに朝飯を食べて一旦解散して、夕方応接間に集合という運びになった。今はギルドから出て歩いて馬を待たせてある場所までシルビアと並んで歩いているところだ。
「自分で言い出しておいて言うのもあれだけど、異世界人排他主義の真っただ中に飛び込むって中々不安になるね」
そう言いながら後頭部に両手を乗せながら俺はシルビアに言う。
「だろうね、だから私も同行しようと考えたのだが……ジギルの言っていた通り私があちら側に行くと色々と面倒ごとが多くてね……。済まないタケル、君を危険な目に会わせてしまう事になる」
シルビアは表情は普段通りの無表情だが声音は謝罪の意を感じる沈んだ物だった。
「いいんだよ、そんなの。俺一人じゃなくてラフィールも居てくれるし。あとは――」
一旦言葉を切り声のトーンを落として俺の前を歩くウェーブがかった赤髪の後ろ姿を見ながら言う。
「モデナを盾にしてでも俺とラフィールはここに帰ってくるよ」
「……やはり、彼女らを信用し切れないかい?」
シルビアは俺と一緒でモデナの後ろ姿を見ながら問いかけてきた。
「シルビアには悪いけど、あの女と爺さんに関して信用してない訳じゃないんだ、けどやっぱり俺がこの世界に来ていきなりあんな事になって、シルビアに会って居なかったら俺は今頃死んでいた。たまたまシルビアが助けてくれたから助かったんだ。心の整理が出来ないんだ。妹の件が嘘だった場合、シルビアにこれから入れてもらう刻印を使って、依頼主の貴族の屋敷で刻印で爆発させてその隙に俺とラフィールだけで逃げるよ」
シルビアはモデナを見つめたまま小さくそうか、とだけ頷き。それから家に帰宅するまでお互い無言のまま家路についた。
夕方になろうかという頃シルビアは、少し寄りたいところがあるから早めに出ようというので俺はシルビアと一緒に馬で再び街に向かった。
「ここだ」
寄りたいと言っていた場所は、街から少しだけ離れた小高い丘だった。短く言うとシルビアは先に馬から降りて、柵に手綱を結びそこへ足を踏み入れていった。
「ここは……墓地?」
俺も同じように策に結びつけて後をついていくと、風が気持ちよくそよぐ見晴らしのいい丘の上に白い石たちがたくさん均等に並んでいた。
「そうだ。ここに寄っておきたくてね」
シルビアは、靡く髪を手で押さえつけながら時折街の景観を眺め、ゆっくりと歩みを進めやがて立ち止まった。
「ここだ、タケル」
俺はシルビアの隣に並び目の前の墓に目をやる。
「誰の墓なんだ? お父さんとか?」
シルビアは首を振り目を閉じて指を重ね合わせ祈りながら口を開く。
「弟だ」
「え!? 弟さんって旅に出てるみたいな事いってたじゃんか」
「すまない、気を使わせたくなくてちょっとした嘘をついていたんだ」
シルビアはしばし黙祷を捧げると指を開き街を眺めながら申し訳なさそうに話す。
「私と弟は元々帝国側の人間だったんだ、しかもとびっきりの異世界人排他主義の総本山である帝国軍所属の兵士だった」
俺は言葉を失った。こんなに異世界人である俺に優しくしてくれて、人間爆弾にされそうになってる他の異世界人の人たちがいることに怒り、助けてくれたシルビアが排他主義の出身だって?
「信じられないって顔をしているね、誰だってこの話を聞くとそう思うさ。それで私と弟は帝国軍の中でも優秀な部隊に所属していたんだ。ちなみにジギルはその時に出会った部下だ。そして私たちは帝国のお偉いさんたちからの命令で、とある地区に隠れ住んでいる異世界人を一斉処分せよという本当に反吐が出る命令を受けていた」
「シルビアは……それで、命令通りに?」
俺の質問にシルビアは首を横に振った。
「私は、刷り込みのように異世界人に生きる価値はないだのかんだのと、言い聞かせて育てようとする親や周りの空気に違和感を感じ続けて育っていたからね。どうにかして殺した振りをして助けられないかと、部隊の中でも特に信頼出来るジギルを含む隊員と弟に相談したんだ」
シルビアは懐かしさを噛み締めているのだろう優しい微笑みを浮かべながら続きを話す。
「人数は全隊員のごく一部。中には生粋の排他主義の中で育ってきた者もいたので、この計画が発覚したら異世界人は皆殺しにされる上に私だけでなく、私に賛同してくれた隊員たちにまで危険が及ぶ。なので慎重に計画を立て実行に移したんだが。 最後の最後で逃がしきれたところと安堵したところで、味方だと思っていた隊員の一部が買収されており、迎えの馬車の中に爆弾を仕掛けられて皆殺しにされた」
シルビアは小さく息を吐き吸う。
「私たちの計画がすでに露見している事にそこで気付き、もはや帝国に私たちの場所はない事は明白だった。だから私たちはそこで仲間だった者たちと戦い、殺すか重傷を負わせて逃走した。だがその時弟は毒が塗られたナイフで切り付けられてしまい。ここにたどり着くかどうかのところで息を引き取った。最期に弟は、異世界人とこの世界に住んでる人たちが心から笑い合ってる光景が見たかったといっていた」
そう言うとシルビアは弟さんの墓を数回撫でると俺に向き直った。
「帝国にもこういう考えの人がいて、無理やりやりたくないことをやらされて異世界人に恨みを持たれてしまっている人たちがいる、話しておいた方が良いかも知れないと思ってここに連れてきてこの話をしたが、別に考えを改めて欲しい訳じゃない……。ただ、知っておいて欲しかったんだ。タケルに」
シルビアは優しく微笑むと馬の元へ歩き出した。
そして、俺もその後を追いながら色々と考えていた。シルビアとジギルの過去。 弟さんの事。
「俺は、どうしたらいいんだ……」




