表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/123

第十六話

 静かに息を吐き、吸う。ただそれを何度か繰り返しながら、ぎりぎりまだ暗い色をしている空を見上げていると、ドアの開く音が聞こえたので振り返る。おっちゃんにドアを開けて貰って外に出てきた腕を縛られたままのモデナがやってきた。


 「あの……あんたに酷い事をしたし許してくれなんて言葉は絶対に言わない。けど。もし妹を助けてくれたらこの命をあんたに預ける。殺してくれも良いし……か、身体を好きにしたって構わない。師匠も私の妹を助けてくれたら、これからはここで仕事をさせてくれっていってる。刻印技師としての知識をもっとたくさんの人に知ってもらえば、人間爆弾にされた人を救える可能性が増えるからって」


 モデナは、俺から目を逸らさずはっきりと意思をぶつけてきた。正直今すぐ気のすむまでぶん殴りたい気持ちもあるが、こいつや師匠と呼ばれてる老人にも事情があり、異世界人に対して嫌悪や差別で人間爆弾を作っていないってことが分かった。だけど素直に飲み込んで、じゃあ一緒に妹さんを助けに行こう! と言う気持ちにはなれなかった。


 「わかった。好きにしていいんだな?」


 俺はモデナの身体をわざとらしく下からゆっくりと観察する。スラっと引き締まった足から腰、程よく膨らむ胸。それらを包む動きやすさ重視の半袖シャツとハーフパンツ。

 その視線に身動ぎするモデナは狼狽えながら怯えた声で答える。


 「え、ええ……好きにしてくれていいわ」


 俺は深く息を吐くと心で決めた事を口にする。


 「一つ聞くがお前自身の戦闘経験は?」

 「荒っぽい連中がしょっちゅう来るところだからね、お父さんからみっちり身体の基礎を鍛えてもらって傭兵の人たちからは剣や素手の戦い方もそれなりに教わってるよ」

 「そうか、なら俺よりはよっぽど頼りになるってことか」

 「どうする気?」

 「三つ刻印をいれてもらう、一つはあのおっさんから爆弾造りをやらされる前に、お前らが傭兵とかにやってたっていう身体強化系の刻印、もう一つは俺の命令に逆らうと激痛が走る刻印。そして最後は俺の刻印からの指示で起爆出来る人間爆弾の刻印だ。これが俺の要求だ、出来るか?」


 モデナは俺の要求を聞いて深呼吸をすると静かに頷いた。


 「ええ、勿論。貴方の言う通りにその刻印を刻むわ」

 「それじゃシルビアにさっそく頼もう」


 俺とモデナは階段を上り応接間に戻ると、先ほど決まった刻印の件をシルビアに話した。二人で決めた事だから私は口出しはしないと言い了承してくれた。


 「さて、ではモデナとそのお師匠様の処遇は決まった。……残るは」


 そういって応接間の床で幸せそうに眠るおっさんを無表情で見つめるシルビア。


 「このおっさんをどうするかだ」


 と、ジギルは腕組みしながら話す。


 「あまりキツイ拷問なんかしたらコロッと逝っちまいそうだからなぁ。適当にさっきシルビアがしたみたいにナイフをチラつかせれば聞きたいこと吐いてくれそうだけどな」

 「確かにな、聞き出せるだけ聞き出してあとは道案内をさせたいところだが、敵に気づかれた場合は嘘の情報を掴まされて、大人数で囲まれて一網打尽にされる可能性も考慮しなければな」

 「そうなると、モデナちゃんの妹の身も危なくなるわけだ」


 ジギルとシルビアはあれこれと難しい顔をして話している所にモデナが口を挟む。


 「とりあえず、このおっさんに帝国の自分の屋敷まで帰ってもらうってのはどう?私は帝国の人間だし一緒にいても検問とかで怪しまれないし、そのあとで私は新しい人間爆弾を作る施設に連れていかれるだろうけど、でもあれだけの設備を用意出来るはずないからこのおっさんの屋敷に、一緒に滞在する流れになると思う。そうしたらおっさんが、上の奴に連絡を取ろうとするだろうからそれを辿っていけば、妹にも大元の敵にも会えるんじゃない?」


 シルビアは苦い顔をしてモデナの意見に対しての感想を述べる。


 「確かにその方法が一番だが、モデナ……君がこちら側についたとバレた時点で妹さんの命が危ない、残念だが許可出来ない……が、しかし帝国側の人間がいるという強みを生かせる手ではあるな」


 シルビアが顎に手をやり黙考する。


 「なら、俺がついていけばいいんじゃないか?モデナが新しい刻印を考えたからこれをお披露目したいんですとかなんとか口実作って、このおっさんから上のやつに連絡とってもらって。んで、俺がその新しい刻印の犠牲者の異世界人ってことにしてさ」


 俺も意見を出す。つっても荒事になった場合の対処が甘い計画だけど。


 「ふむ……確かに貴族に刻印技師に異世界人、これだけそろっていれば大元の貴族様も納得するだろう……あとは、どうやって脱出して連合側に戻ってくるかだが」


 最後の脱出ルートの確保をどうするか……。完全な敵地に置いて頼れるのは己のみという状況を変えるために色々と考えるが、どうしたものかとみんなで唸っていると。


 「この貴族様の屋敷の正確な位置とその依頼主の貴族の屋敷の場所、さらに妹さんの位置これらを把握した上で移動手段もさすがに徒歩では無理があるからな。そこは屋敷にあるであろう馬を拝借すればなんとかなるが……追っ手の事も考えないといけない。やはり私も同行した方が――」

「それはしない方が良いと思うぜシルビア」


 シルビアが言いかけた言葉を強引に遮るジギル。


 「お前の存在があっちで発覚したらそれこそ手がつけられなくなる、わかってんだろ?」

 「だがしかしタケルたちに何かあったら――」

 「じゃあ、アタシも新作刻印の実験体のフリしてついていけばいい?」


 そう言って扉をノックせずに入ってきたのはティーポッドをもってゆっくりと歩きながら話すラフィールだった。


 「アタシ異世界人だし、魔法も接近戦も出来るから頼りになるわよ?」


 シルビアは不安げな顔を浮かべるが首を横に振り、

 

 「すまない、私一人でなんとかしようと躍起になりかかっていた。君が参加してくれるなら安心だ」

 「シルビアにはいつもお世話になってるからこのくらいなんでもないわ」


 ラフィールは無い胸を張り満足げに頷く。

 

 「そうそう、素直に頼るのも大事な事よ」


 そう言ってラフィールは煮詰まっていた空気を断ち切るように、両の掌を打ち合わせパンっと音を立ててみんなを見渡してにっこり微笑み、

 

 「さあさあ、まずは朝ごはん食べましょ。それからお風呂。それが済んだら次は寝る!」


 そう言ってラフィールはシルビアの背中を押して応接間から出て行った。


 「やっぱラフィールのああいう、のほほんとしてるとこ癒されるな」


 ジギルは敵わないなあ……と呟きながらあとに続こうとしたところで、思い出したように振り返り爺さんとモデナの縄を解いた。


 「あんたらも飯……食うだろ?」


 ニカっと豪快に笑うジギルに気圧されながらも二人は遠慮がちに頷き部屋から出ていく。俺も後から続いて出ていく。


 「あれ、なんか忘れているような。そうでないような……ま、いっか」


 床に縄で縛られたまま涎を垂らして寝ている貴族様の事をすっかり忘れて俺たちは暖かい朝食を味わうのであった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ