表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/123

第十三話

酒は飲んでも飲まれるなとはよくいったものです(二日酔い)

 次の日の夕方荷台をジギルの店に預け、二人で馬に乗れるように馬具を調整していると、ジギルから厚手の生地で出来たオリーブ色のローブを渡されたので、それを着てフードを被ると最後の打ち合わせを済ませ、俺たちは村を襲った夜盗の頭から聞き出した情報通りに貴族の屋敷跡に向かった。



 「手形は先に非番だったレックスに頼んで受け取りにいってもらったのを俺が持ってるから後は装備の最終確認だけしたら会場入りだな」


 並走しながらジギルは話す。


 「人間爆弾の他にどんなアブねえ物を売りさばいてんのかね」

 「さてな、ロクな物でないことは確かだろうさ」


 シルビアは吐き捨てるように言う。


 「ちげえねえ」


 それからしばらく無言で移動を続け、屋敷近くの林に馬を隠した後、受付の爺に手形を見せに俺たちは向かう。屋敷は頭が言っていた通り建てられてからかなりの年数が経過しており、あちこち朽ち果てているのが月明かりに照らされてるところだけを見ても明らかだった。だが、すぐそばの蔵のところにだけ小さく松明があり、僅かながらに手入れされているようだった。

 そして、その松明の傍で受付と思われる爺が、両手で杖を支えにするように立っていた。背は腰が曲がっておりかなり小さく感じられた。

 俺たちが近づくと値踏みするような視線を感じるがフードを目深に被っておりその表情は伺うことは出来ないまま、ジギルが手形を見せる。



 「ふむ、入りなさい」


 と小さい声で扉を顎で指す。


 俺はその爺の声を聴いたとき、声を上げそうになるのを堪えるのにかなりの忍耐力を消耗した。なぜなら、この爺の声は忘れもしないこの世界に転移した時、俺に刻印手術をしやがり人間爆弾にしやがったあの爺の物だったからだ。

 そして、掴みかかって怒鳴り散らしたくなるのを堪えながら、ジギルたちの後についていく。


 「タケル、どうしたんだい?なにか様子が変だが」


 シルビアが距離を詰めてきて、肩を触れさせながら聞いてきたので例の手術をした爺だと伝えると小さく頷くと、俺だけに聞き取れるような微かな声で俺を窘める。


 「今この状況であの老人と騒動を起こすのは不味い、キミの怒りはもっともだが。今は抑えるんだ、いいね?」

 「分かってる。 せっかくの潜入を台無しにしたら後々面倒になっちゃうもんね」

 「そういうことだ。きっちりこの闇市を仕切っている連中の後ろ盾に、何があるのか商品は他に何が流通してしまっているのか、色々と探ってから潰そうじゃないか。今日はあくまで下見程度で済ませよう」


 俺に暴れるなよ的な注意をしておきながら、言葉からシルビアも怒っているのがなんとなく伝わってくる。


 「シルビア、おめえも抑えろよ?」


 ジギルはやれやれと俺たち二人を交互に見ると困ったもんだと嘆息しながら言う。

会場の蔵は結構な広さがあり、一番奥の灯りが灯っている所には客が見やすいように、商品が良く見えるように木箱をならべて即席のステージになっており、その周辺にはすでに人だかりが出来ていた。どいつもこいつも人相が悪く、明らかに血生臭い空気を漂わせてる連中ばかりだった。 

 そして、そのステージから少し離れていくつか長椅子が、用意されておりそこで談笑しながら始まるのを待つ奴らが数組。こちらはステージに群がっている奴らよりは、いくらか上等な身なりをしている者が多く見受けられた。


「なんかこう……悪の巣窟って感じの空気だな」


 俺は会場を見渡しながら呟く。

 「ああそうだな、見覚えのある人物は他にいるかい?」


 シルビアも周囲にいる人物をゆっくりと観察しながら、聞いてくるが俺をあの時爺の所まで引っ張っていったあの赤髪の女は見つけられなかった。


 「いや、あの時もう一人の赤い髪の女が居たんだが今ここには居ないみたいだ。別行動しててここにはいないのかもしれないし、俺が見落としてるのかも知れないけどね」

 「赤い髪の女か」


 さらに辺りを見ていると素人から見ても、かなり高級そうな装飾が施された刀剣や鎧などの防具類があり、それらを眺めて一番大きい両手剣が気になって手に取ってみる。


 「うお!? 見た目より全然軽い・・・・・・」

 「それは、私が先日使っていたナイフと同じ魔鉱石で出来ている剣だね。これは頑丈で、手入れもそれほど必要ではないし、何より軽いのが特徴なんだ。ただし、とても高価で中々手が出ないのが普通だがね」


 見て目と実際の重さのギャップに、驚いているとシルビアが横から解説をしてくれた。


 「魔鉱石って?響き的に魔力的な何かを含んでる石ってこと?」

 「その通り。魔素が溜まりやすい地域で取れる特別な石なんだが、魔素が溜まりやすいということは魔物にとっても過ごしやすい場所ということもあり、採掘にはギルド協会が定めた基準をクリアしたバッジを持った冒険者の護衛を雇わないと採掘許可が下りないほどなんだ」


 シルビアが、スラスラと俺に向かって先生のように解説をしてくれるが、ここは闇市の会場。そんな場所でその貴重な魔鉱石を使った武器を売ってるってことは。


 「ああ、なるほどね、あとはお察しってことか」


 無許可で採掘をしてきたか、それこそ俺にやったように爆弾になる刻印を埋め込んで言う事を聞くしかない状態にして、危険な場所に向かわせて採掘させて、無事に帰ってくればそれでよし、帰ってこなければ異世界人が減ってハッピーとかいうクソみたいな考えでやってんだろう。


 「さ、そろそろ目玉商品が来るようだぞ」


 シルビアは俺の肩を叩くとステージへと歩き出した。両手剣を元に戻して俺も後に続く、その時ステージ脇のカーテンを潜って出てきたスーツを着た女に気づき、俺は目を見開いた。


 「あいつだ……!」


 俺は、今すぐ殴り掛かりに行きたいのを必死に堪えて、ただただその場に立ち続けることに集中する。シルビアとジギルは俺の表情の変化で気付いたのか、ステージで司会進行をする女を凝視した。


 「さぁさぁ、皆さん今夜も良いお買い物が出来ることを願っております。本日も選りすぐりの商品を取り揃えておりますので、じっくり品定めなさってください。もちろん値段などはお気軽にご相談くださいませ、勉強させていただきます」


 仰々しく赤髪の女は、身振り手振りを交えながらステージ上で客に愛想を振りまく。 ああ早くあの顔面を殴り飛ばしたいと思いながら、俺は視線で殺すつもりで女を睨む、


 「さて、まずはこちらの商品を」


 女は指を鳴らして傍に控えている助手に商品を運ばせる、ステージに挙げられたのは、布切れ一枚被せただけの格好をさせられている俺よりかなり若い灰色の髪の少年だった。少年は、怯えていて辺りをキョロキョロして震えているのが遠めでも見て取れた。


 「あんな小さい子まで商品かよ……あのクソアマ」


 俺は、拳に力を込めながらステージに視線を向けていると、ジギルが俺の肩に手を置いた。


 「落ち着けって。今日はあくまで様子見だってこと忘れんなよ?まあ今すぐここにいる連中シバきまわして、二度と闇市なんて出来ねえようにしてやりたいのは俺も同じなんだけどな」


 そう言うジギルの顔を見ると、額に青筋が浮かんでいて空いてる手は腰の短剣の柄に置かれていた。そんなジギルの様子に気を向けていると、客席に座っていた化粧の濃い女が手を挙げて赤髪の女に声を掛けた。


 「もうソレには刻印は入っているのかしら?もし入っているのならそれの内容が知りたいわ」

 「この商品には刻印はまだ入れられておりません。お客様の希望の刻印を施術してからの納品となりますので施術代を頂くことになります。ですがまだ幼いので、刻印の負担に耐えられるか不安な部分もありますので、あまり種類は与えることはお勧めいたしません」


 赤髪の女は、スラスラと男の子の頭に手を置いて説明する、正直ここにきてから、まだ数十分しか経ってないのに既にもう我慢の限界が近づいていた。


 「あら、そうなの?だったら必要最低限の刻印で済ませるのが良さそうね。頂くわ」

 「ご婦人の他にご希望の方はおりませんか?」


 数秒の間ののち男の子は厚化粧の女に買われていった。震えたままステージを下りて元来た所とは違う部屋へと連れていかれるのが見えた。おそらく刻印を体に入れるためだろう、それを見ているだけしか出来ない今の状況に酷く腹が立った。


 それからも様々な人々が商品として、ステージに上げられていき、今回の闇市の異世界人の人身売買は終了した。俺だけじゃなく他の二人も、腹に据えかねていたようで足早に外に出て馬の場所まで戻ってきた。


 「ふぅ……もうちょっとで近くに置いてあったデカいテーブル持ち上げてぶん投げるとこだったぜ……。本当になんであんな事が出来るんだ?あいつらって」


 ジギルは、近くにあった大岩に寄りかかって吐き捨てるように愚痴を零した。


「仕方ないさ。彼らの中には帝国側の連中が大勢いたように思える。あの武器屋だって柄の部分に帝国の紋章が刻まれているのが、何本か混じっていたしな。彼らにとって、異世界人はあくまで人ではなくモノなのだろうさ」

 

 シルビアも、不機嫌そうに腕を組みながら怒りや買われていった異世界人を、救えない自責の念やらを吐き出すかのような深いため息をつく。


 それから少しの間無言の時間が過ぎると、誰ともなしに馬に乗り帰路についた。その途中のことだった。


「ともかく、今回は下見。次は潰すために応援を頼もう」


 シルビアは怒気を孕んだ静かな声で俺たちに宣言する。それに対して俺とジギルは短く即答するのだった。


「おう」

「ああ」


 手形は一度受け取れば持ち帰ってまた参加する時再利用可能だというのは確認しておいたのであとは準備を整えようということになった。その道中に大まかな役割を決めることになり、用心棒などとの戦闘はシルビアに、重要人物の捕縛をジギル、最後に商品として捕らえられている人たちの避難と誘導を俺が担当する事になった。

 

 街に近づき解散するとシルビアと俺は家に戻るなり、すぐ仮眠を取り俺は街を回って配達をしながら明日は臨時休業にするとお客さんに伝えて回る。やがて再び夕方になり俺たちは再び集合した。シルビアは昨日来たローブの下に、夜盗と戦った時の青いジャケットを羽織っていた。俺もラフィールから防護服を貰ったので、それを着た上からローブを纏っている。ジギルも似たような装備に身を包み、ストレッチをしていると、ゾロゾロと大勢の男たちが馬に乗ってやってきた。その中にはラフィールも居た。



 「なんか……俺が頼んだ連中より増えてねえか?」


 ジギルは困った顔でラフィールと男たちに向き直る。


 「闇市の会場にどれだけの人数がいるか分からないけど、多い方が良いと思って。屋敷を吹き飛ばすのは私に任せて!跡形も無く消し炭にしてあげるわ。その間に真っ先に逃げ出すであろう主催者を追いかけるのはジギルに任せるわよ?」


 ラフィールは杖を構えながら答えた。


 「どれくらい異世界人が捕まってるかわかんないんだろ?衰弱して身動き取れなくなってるやつだっているかもしれねえ、そんな時タケル一人じゃ手が足りねえだろ。俺たちが護衛と補助を受け持つからよ、シルビアは大暴れしてやんな」


 そう返してきた男の人には見おぼえがあった。ジギルと一緒に村が襲われた時に駆けつけてくれた人達の一人だった。


 「ちっ、しょうがねえな。だがこんな大所帯じゃさすがに怪しまれる。お前たちは会場から離れた場所で待機して合図が出たら突入、タケルと一緒に異世界人の救助、退路の確保ののち馬の隠し場所まで移動して待機、いいな?」

「了解」

「話が纏まったところで早速向かおうか」


 シルビアが静かに告げると皆一斉に答えた。


 「応っ!」


 街の一角に野太い声が木霊した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ