No.6 悪役の私に泥はぴったりだわ
「ステファン、お前生きてたのか」
「生きてますよ。そんな僕はやわじゃありませんよ」
ステファンはデニスに向かってそっと笑みを見せる。
よく見ると彼の周辺には防御魔法が張ってあった。
相変わらずね……。
そう。
彼は弱小国セレスタイン国にとっての希望。
コーラル国の大魔導士に匹敵する唯一の魔導士である。
彼はかなり強いのだがコーラル国には大魔導士が数人いるため1人では歯が立たなかった。
ゲーム内ではそのようになっている。
「しかし、殿下。そのお姿はどうされたのですか??」
「あ、その俺はな……」
「そんな話はあとでっ!! 先に敵をっ!!」
私はそう言いつつ狂ったように弾を打っていた。
防御力も攻撃力もともに高いステファンも参戦し、セレスタイン国は勢いづいていた。
さっきまでずんずんとこちらに進んでいたであろう敵は勢いに負けコーラル国へと退散していく。
よしっ!!
手には思わずガッツポーズ。
よしよしっ!!
私の未来とデニスとハンナちゃんの未来が見えてきたっ!!
ガムでとらえた敵を捕まえ、さらにコーラル国の軍を後退させていった。
でも、油断は禁物。
敵が見えなくなるまでこのバズーカ砲を打ち続けるのよ。
そして、数十分後。
敵はコーラル国の方へと姿を消し、セレスタイン国の勝利となった。
ずっと打ち続けていた我が子を地面に置く。
意外にも思い我が子を持ちっぱなしにしていたせいか疲れ切っていた。
地面は泥だらけで汚いけれど、ゴロンと寝転んだ。
私は体を大の字に広げ、晴れていく空を見上げる。
やった。
勝った。
誰も死なずに勝った。
「やったあああぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!!!!」
嬉しさのあまり、空まで届きそうな大声で全力で叫ぶ。
4回も死んだ。
そして、5回生き返った。
私も死んで彼も死んで。
ずっと不幸のループをしているかのようだった。
でも、隣で彼は立っている。
前に出会った時とは姿は違うけれど、でも生きてる。
徐々に目元が熱くなっていく。
正直、辛かった。
5回目に入った時自殺しようと思った。
けれど、
デニスとハンナちゃんには幸せになってほしかった。
本当にあの時死ななくてよかった。
シエンナは唇を噛み、目を腕で隠した。
目には涙で溢れ、鼻をすすっていた。
本当に良かった。
「エナ。大丈夫か??」
何も知らない彼は私に声をかけてくる。
ええ。
大丈夫よ。
あなたが生きているから全然平気。
「そこ、泥だらけで汚いぞ」
そして、いらない心配をしてくる。
デニスの一言で涙が引っ込んでしまった。
「いいのよ」
私は涙を拭き、状態を起こす。
案の定、髪も服もかなり汚れていた。
「悪役の私に泥はぴったりだわ」
「悪役??」
すると、先ほど声を掛けてきたステファンがうちの所にやってきた。
彼は跪き私に向かって頭を下げる。
あ。
「この度はお助けいただきありがとうございました。そして、これまでのご無礼をお許しください」
これはダメだわ。
「アルマンディン侯爵令嬢」
ステファンは顔を上げ、私にシルクの手袋をした手を差し伸べる。
汚い手ではあるけれど、私はついその手を取ってしまった。
HP0に等しい私の体は頑張って立ち上がる。
目を上げると彼はこちらを見て、目をパチクリさせていた。
「令嬢??」
彼は素っ頓狂な声で呟く。
ああ。
バレたくなかったのにな。
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