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開戦

 ポルトゥ村近辺で発見された黄妖鬼の群れは、二百匹ほどの集団で、威力偵察を目的にしているようだ。


 僕が率いる傭兵主力の部隊が到着したとき、ポルトゥ村の魔物防止柵に火矢を放っているところだった。


 傭兵に長槍を装備させた隊を前面に出し、その隙間から地竜の牙による魔導銃攻撃を行う。


 魔導銃の部隊は三列にして、最後列は銃身冷却、二列目は弾丸装填、一列目が照準して射撃するという、織田信長が長篠合戦でやったのではないかとされる三段撃ちを採用している。


 ちなみに、前世が織田信長であるクラーラ先生に聞いたところ、ずいぶん昔のことだから忘れたと、適当な答えが返ってきただけだった。


 魔導銃は日本の戦国時代の火縄銃より射程が長く命中率が高いため、最初の一斉射撃が行われた段階でかなりの黄妖鬼が倒れている。


 最初なので、一斉射撃は三回まで可能だ。二回目、三回目と一斉射撃すると、黄妖鬼の大半が銃の餌食となり地面に倒れ臥した。


 僕が長槍隊を前に進める号令をすると、バラバラの軽装備の音をカチャカチャ慣らした傭兵たちが、槍先だけは揃えて前に進んでいく。


 敵の何匹かは無謀にも突っ込んできて、長槍に貫かれた。他は仲間と何か言い合いながら撤退して行くのだった。


「全隊止まれ」

 合図に従って全ての部隊が歩みを止める。

 長槍も魔導銃三段撃ちも想定した以上の効果を得ることが出来た。


「よし、このまま目的の斜面まで下がって、野戦築城を開始しよう」


 僕の号令で行軍隊形を作った傭兵たちが、目指す丘陵地帯に向かっていく。最後尾には、ポルトゥ村近辺から召集した領民兵達が長槍を一人数本担いで着いてくる。


 丘陵地帯に着くと、北部以外から召集した領民兵達が一足先について、野戦築城を始めていた。黄妖鬼の威力偵察があった以上、剣狼騎の到着も間もなくかもしれない。


 全軍が急ピッチで作業を進めていく。

「お兄ちゃん、いよいよだね」

 レナが張り切った声で話しかけてくる。前世が軍事的天才、源義経だったレナは大規模な戦にワクワクしているのかもしれない。


「じゃあ、今夜行くから、楽しみに待っててね」

「は!? 今夜?」

「ほら、騎乗する前に処女を奪っておくんでしょ。私楽しみにしてたんだから」

「いやいやいや、レナは人狼じゃないし、そんな因習もうやめさせるから」


「え〜やだな〜、ならお兄ちゃん乗せるのやめちゃおうかな」

「そうだな。じゃ、レナに乗るのやめるわ」

「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん、冷たい!」


 レナの冗談に付き合っていられないので、僕はさっさと現場の見回りに出かける。

「お兄ちゃん、待って、私も行くから! 怒らないで」



◆◇◆◇◆



 急ピッチで進められた野戦築城だが、三日たたないうちに完成した。掩体壕(えんたいごう)の一列目には、三段撃ちの鉄砲部隊を配置する。


 二列目には、長槍隊を配置。三列目には剣術の心得がある者のみ集めた剣士隊を配置する。


 三列の掩体壕の後ろに、騎馬や騎狼で構成する機動部隊を起き、いつでも必要な場所に駆けつけられるようにする。


「サル、なかなかやるのう。本当に戦のない時代に生まれたのか?」

「クラーラ先生、僕の前世はこの世界を作った武士オタクですよ。これくらいの基本の陣形なら知っていて当然です」


「ルヴァくん、素敵。惚れ直しちゃう」

「ミトレさん、今それどころじゃありませんから」


 クラーラ先生とミトレさんには、馬に乗って貰って機動部隊に加わって貰うことにした。魔導師の強力な魔法攻撃は、勝負どころで使いたい。そうなると、機動部隊が最善だった。


 因みに、魔導大学の教授が元学生に肩入れして戦争に参加した事がバレると少し体裁が悪いため、二人は覆面をつけて参加して貰うことにした。


 野戦築城が完成した翌日、黄妖鬼の群れ3000程度と剣狼騎の軍勢およそ6000が接近中との報告が入る。


「幸い、剣狼騎の動員可能な限界までは来ていないな。これなら、なんとかしのげるかもしれない」


 まず地平線に現れたのは黄妖鬼の軍勢だった。注意深くこちらの様子を探りながらじっくり進軍してくるようだ。


「妖鬼に闇雲に攻めて来られるよりはマシだな」

「そうね。ルヴァくん、あの様子なら黄妖鬼だけ先に壊滅させてもいいんじゃないかしら」


「そうします。レヴィア様を召喚するので、雨で身体を冷やさないよう工夫してください」

 全軍に対して、特別なラッパを鳴らす。あちこちで雨具の装着が始まる。


 特に、火薬や火縄を濡らさないよう、魔導銃部隊の動きに注視する。火薬を濡らしてしまうと、火魔法を使える者しか撃てなくなってしまう。


 魔導銃部隊が準備を終えたことを確認してから、僕は目を閉じて集中する。森の奥の小さな泉を思い出す。


「出でよ、水神レヴィア!」

  空はあっという間に厚い雲に覆われ、ボツボツ大粒の雨が振り出す。レヴィアト川の流れが止まり、蛇のように頭を上げる。


 僕は黄妖鬼のことを頭で思い浮かべながら、彼らが見えていた地平線を指さす。レヴィア様が猛スピードで水平線の向こうまで長い身体を飛ばしていく。


 豪雨で視界が悪い中でも、レヴィア様の容赦ない死の踊りを見ることはできる。時折レヴィア様の見ている光景が僕の脳裏に浮かび、黄妖鬼の群れが壊滅状態になったことがわかる。


「よし」

 僕は心の中でレヴィア様を呼び戻す。レヴィアト川に流れが戻り、豪雨がやむ。分厚い雨雲が消えた後には、大きな虹が現れていた。


「凄いね、ルヴァくん、これで、敵本体の6000との戦いに集中できるね」

「はい。初っぱなからかなりの魔力を使いましたけど」

「ふふ。ルヴァ君の今の程じゃないけど、私もクラーラちゃんもいるから、心配しないで」



◆◇◆◇◆



 地平線の向こうに無数の旗印がなびいている。リュミベート皇国有数の精鋭である剣狼騎が、オートン領に向けて進軍してくる。


 最新の斥候の報告では、軍勢の中にウリエンがいることはわかっている。他の随伴魔導師達とは違い、本隊と行動を共にしているそうだ。臆病者らしい慎重さだろう。


 万全の体制を整えているので、緊張はしない。そして、僕自身の落ち着きが伝わるのか、兵士たちも落ち着いて最後の準備を進めている。


 敵陣から何発もの火の玉が飛んでくる。随伴魔導師による先制攻撃だ。しかし、ミトレ先生が展開している結界に傷一つつけられず、空中でむなしく炸裂して終わる。


「まだだ。もっと引きつけろ」

 僕自身が大声で魔導銃部隊に呼びかける。


 ミトレ先生やクラーラ先生の魔法攻撃は、魔導銃の死角になりがちな側面を守るときのためにとっておくことにしている。それまでは、魔法戦は結界で耐えるだけだ。


 まだ。まだ早い。

 三段撃ちで一番攻撃力が強いのは、最初に三連発できるときだ。できるだけ引き付けて、大ダメージを与えたい。


 やがて、敵の最前列にいる騎士達の顔が見える距離になる。敵陣から突撃のラッパが聞こえ、騎乗獣である狼達が走り始めた。


「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 雷に似た銃声が戦場を覆い尽くす。その中でかき消えそうな人間と狼の悲鳴が聞こえた。


 後に続く狼と騎士達もまた、魔導銃の一斉射撃に急所を打ち抜かれ、地面に身体を打ち付けて倒れていく。


 そのあとに続いた一団は、味方の死体に躓いて倒れる者も多い。なんとか立ち上がったり、狼から人化した人狼達が剣を抜き、こちらに走り寄ろうとする。


 しかし、それらも多くが魔導銃にとどめを刺されて倒れた。


「長槍隊、馬防柵まで前進!」

 僕の指示が響く。軽装の鎧と長槍を鳴らしながら、長槍隊が馬防柵の隙間から長槍を出す。


 数人の騎士と人狼が馬防柵の隙間を探すが、長槍に貫かれて倒れる。

「長槍隊、後退」

 僕の号令に、長槍隊が素早く自分たちの掩体壕に戻っていく。


「撃てぇぇぇぇぇ!」

 最前列の射手が銃を構えたのを見て、号令を出す。


 ちょうど突撃を始めた列に対して、魔導銃の一斉射撃が始まる。命中率の高い魔導銃の前に、騎士も人狼も傷ついていく。


「サル、そろそろじゃろう」

 クラーラ先生がどこか楽しそうに言う。

「はい。敵の出方が変わってくるはず……」


 いつの間にか、敵の突撃ラッパが吹き止んでいた。


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