ちょっとした人助け。
「じゃあリエルを目的地まで案内しようか。」
ビルバの店を出ると太陽は沈みかかっていた。この後は父さんのお姉さんがやってる店へ向かうだけだ。
「この地図の場所は分かるんだけど、、、こんな所に魔法関係のお店なんてあったっけ?」
「そもそも場所的に飲食街だろ?ここって。」
アリシアとジークが地図を見ながら場所を確認している。魔法に関わりのあるお店って聞いてたけど違うのだろうか。とりあえず行ってみようと目的の方向へ歩き出す。
「そう言えば、ぼちぼち晩ご飯の時間帯だな。ちょうどオススメの店が通りがかりにあるから寄っていこうか。」
たしかにお腹が空いてきたところだ。目的地の前にジーク行きつけのご飯屋さんへと案内してもらう。
「湖で取れた魚を使った料理が絶品なんだ。」
湖では豊富に生き物が採れるそうで、ここ王都では魚料理が有名らしい。王都の湖には砂浜があったりして上流階級の人たちからもバカンスに人気だとか。余裕があれば見に行ってみたいな。
魚料理の話にますますお腹をすかせながら噴水のある中央広場を通り過ぎて飲食店街へと向かう。飲食街には色んなご飯屋さんがあり、どこも賑やかな雰囲気だ。
「なんだとコラ!!もういっぺん言ってみやがれ!!」
なんだ?前方の人だかりから怒鳴り声が聞こえてきた。ジークとアリシアが様子を見に行こうと野次馬へ駆け寄る。
「聞こえなかったの?女性を誘うなら、まず息の匂いをどうにかすれば?と、言ったのよ?」
「舐めやがって!!俺が誰だか分かってんのか!?」
「知らないわ。言葉が通じないなんて、ゴリラの魔物とかかしら?」
「ゴリ、、、オレを怒らせたこと後悔させてやるよ!!」
人だかりの合間を縫って前列に出るとゴツいお兄さんと綺麗な女性が揉めていた。お兄さんは確かにゴリラに似てるな。後ろの野次馬から声が聞こえてくる。
「ねえちゃんも運が悪い。確かあいつは″処刑人ベルウィゴ″の右腕だったはずだ。」
「オレも知ってるぞ。アイツはとにかくパワーが凄いんだ。あの細いねえちゃんなんか、一発でお陀仏だ。」
どうやら有名なゴリ、、、お兄さんのようだ。お酒の匂いがするから酔っ払ってナンパでもしたって感じかな。
「後悔するなよ!!」
大きな拳を女性めがけて振りかぶる。あれは殴られたら痛そうだな。直撃を避けられるようにと、ゴリラ兄さんの足元を魔法で変化させる。
「死にさらヘブゥッ!」
踏ん張っていた足元が突然陥没し、盛大にコケたゴリラ兄さんはアゴを地面に強打して完全に伸びていた。急に静かになったゴリラ兄さんを見て野次馬からポツポツと声があがる。
「い、厳つい兄ちゃん、気絶したのか?」
「ズッコケて自滅だと?!ねえちゃん命拾いしたな!」
呆気ない結末に笑い声が生まれる。まさか気絶するなんて考えてなかったけど結果オーライかな。地面に転がるゴリラを無視し、女性がこちらへ向かってくる、
「助けてくれてありがとう。お会いするのは2回目ね。小さな冒険者さん。」
耳元で囁かれた言葉に驚き、咄嗟に振り向くが女性の姿は無かった。綺麗な大人の女性といった感じだったが、どこかで会っていただろうか。思い出そうと考えているとジークとアリシアが近くへやって来た。
「一方的な殴り合いになると思ったけど、まさかの自滅とはな。そうとう酔っ払ってたのか。まあ自業自得だな。さて、飯屋まであと少しだ。」
そう言ってジークが歩き出して僕らはご飯屋さんへと向かった。徐々に野次馬は疎らになりゴリラ兄さんは仲間であろう人達に抱えられて運ばれていった。
「あのゴリラっぽい人、ベルウィゴの右腕って言ってたけどホントに強い人だったのかな?」
「あれは見るからにパワー系の冒険者だな。力でゴリ押しタイプだ。冒険者ランクCはありそうだったけどな。」
アリシアの疑問にジークが返答する。ゴリラ兄さん割と強い人だったのかな。僕が横からちょっかいかけたのバレてなかったらいいけど。
「さあ、店に着いたぞ!」
美味しい香りに誘われて僕らはご飯屋さんへ入っていった。