旅立ちとスベロン。
「いってきます!」
蜂に襲われていた二人の冒険者と一緒に王都へ向かう事が決まり、村を出発する。6年間過ごした村を離れるのは寂しいが未知の世界へ旅立つワクワクが寂しさを上書きする。
「分からない事や困った事があれば大人を頼るんだぞー!」
父さんや母さん、村の人達に見守られながら次の村へと進む。村を出た事がない僕にとっては次の村への道中ですら冒険だ。
「6歳で冒険者とは、なかなか君のご両親も大胆な事をするな。」
蜂にノックアウトされていた男性はジーク。20歳で冒険者歴4年の自称凄腕の冒険者だ。蜂にやられてたけど。
「冒険者登録の最年少記録は″華炎のアリス″だったわね。たしか5歳で冒険者ギルドに登録してたはずよ。」
アリシアは落とし穴で伸びていた女性で19歳。冒険者歴3年でジーク曰く、ちょっと抜けてるらしい。
「もう少しで記録更新だったのに、おしいわね。」
最年少記録で争う気は無い。それよりも二つ名って。前世で大人を経験してると、ちょっと恥ずかしい。三人で会話を楽しみながら歩いていると小さな池の近くを通りかかる。
「ちょっと早いけど涼しみながらお昼にしようか。準備よろしく!」
そう言ってジークは池の淵にそって歩いていく。アリシアは火を焚いたりして準備を始めている。
「ジークさんはどこへ行ったんですか?」
「食べ物を探しに行ったのよ。水辺の近くは生き物が多いから食料調達も簡単だしね。」
食料は現地調達なのか。それなら森で鍛えた技が使えそうだな。
「アリシアさん、僕もちょっと行ってきますね。すぐに戻るので!」
ひとりで大丈夫?と、後ろから声が聞こえる。大丈夫ですー!と返事をしながら森へ進む。
「さて。リリーにちょっと手伝ってもらうか。」
リリーは昔から仲良しのムカデっぽいやつ。フォレストピードという種類らしい。王都へ行く前に森でお別れの予定だったけどリリーは連れて行って欲しいと必死にアピールしてた。どうしようかと困っているとリリーが光り出して、光が収まると10センチほどのリリーがそこにいた。どうやらサイズを調節できるようになったらしい。便利なもんだな。
「近くに果物ってないかな?」
リリーに尋ねるとキシキシと返事をして森へ進む。ちょっと歩くとそこには背の高い木があった。見上げれば上の方に果実が見える。
「リリーはちょっと下がってて。」
地面に手をつけて魔法の発動をイメージする。土のタワーを作るイメージだ。すると足元の地面が果実の高さまで上がっていく。難無く果実をゲットした後は地面を元に戻してアリシアのところへ向かう。リリーには小さくなってもらいブレスレットっぽく腕に巻きついてもらってる。
「お、リエルも戻ったか。いいサイズのフォレストフロッグが採れたんだ。こいつの肉は鶏肉みたいで美味いぞ。」
ジークはそう言ってフォレストフロッグを捌いていく。村でもたまに食卓へ並ぶことがあったな。クセがなくて美味しい肉は村でも人気の食材だ。
「リエルのそれってスベロン?!よく採ってこれたわね!」
抱えてる果物をみたアリシアが驚いている。スベロン、正式名称スベスベメロンは数が少ないことに加えて採取方法が特殊だ。ヤシのように高い位置に果実があることに加え、木の表面がツルツルなので登る事は困難だ。しかも果実自体が柔らかいので繊細に取り扱わないといけない。
「採り方は村にいた頃に試行錯誤しまして。方法は秘密ですよ。」
「もちろん詮索はしないわ。まさかこんなところで高級食材が食べられるなんてね!ありがとう、リエル!」
スベロンがそんなに高価なものだったとは知らなかった。たしかに村でも採ってきた時の反響は大きかったけど。
「思いがけず豪華なお昼になったな。」
「うんうん。巨人の件では失敗したけどモグモグ。スベロンが食べられてモグモグ。ラッキーだったわモグモグ。」
ジークがいただきますを宣言するまでにアリシアの口にはスベロンが収まっていた。食べながら喋るなんて器用な人だな。もしかしたら技能の一つかもしれない。
「スベロンはこの辺りでしか取れないからな。貴重なうえに採取も難しいってなると王都では見かけることすら珍しい果物なんだよ。」
そんなに優秀なヤツだったのか、スベロン。王都にいったらいくらで取引されるんだろう。今のうちに何個か採っていこうかな。とりあえずスベロンは全て食べず、一つだけキープすることにした。