異世界の友達。
「ばぶばぶー。(俺のまんま転生してるし。)」
不吉な言葉を最後に、無事に転生を果たした俺は少しの記憶どころか全ての記憶を引き継いだまま赤ちゃんとして生まれていた。必死で首を動かして家の中を見渡せば木造の室内に窓からは豊かな緑の森が見える。そして、
「ばぶばぶばー!(絶対噛まれたら痛いやつ!)」
天井に張り付いたムカデっぽい虫を見ながら母親に訴える俺。言葉も話せない未熟児な俺はただ抱っこされ、あやされるだけだった。
「あらあら。さっきお乳をあげたばかりでしょう。」
揺り籠みたいにゆらされて睡魔に襲われた俺はあっけなく眠りにつく。
「バ…ブゥ…。(ム…カデ…)」
「いってきまーす!」
言語の違いなんて赤ちゃんの頃から日常的に聴いていれば問題なかった。生まれ変わってから6年の月日が経って僕は順調に成長していた。二度目の人生を目一杯楽しんでいる。ちなみに一人称は年相応に僕に変えている。
「とうさーん!お弁当!」
僕が住んでいる小さな村は森に囲まれている。ごく稀に獰猛な動物や魔物なんかも出てくるが、村の守衛を務める父さんのおかげで安全が保たれている。
「おおリエルか。いつもありがとう!」
お弁当を父さんに届けた後は村の近くを流れる川や緑豊かな森で遊んでいる。村から離れすぎるのは危険だけど男の子は冒険するものだからと父さんも了承済みだ。
「リリー!出てこいよー!」
森へ向かって声をかけると茂みの中から大きなムカデっぽい生き物が出てくる。これが友達のリリー。赤ちゃんのころに家の天井にいたヤツが何故だか懐いて、以来ずっと一緒にいる。
キシキシキシ。
見た目はあれだが良い奴だ。一回、家で母さんに見つかった時は潰されそうになった。それ以降は森で会うようにしている。今はサイズも大きくなって全長2メートルくらい。
「今日はハチミツを取りに行こうかな。」
リリーの背中に乗せてもらって森の奥へと進む。目的のハチミツは森の奥にある大きな木で採れる。そこには蜂に似た生き物が生息しているがリリーの姿をみると蜂もどき達は何処かに隠れてしまうから安全だ。
「キャーッ!!」
そろそろハチミツの採取場所だという頃に悲鳴が聞こえるてきた。少なくとも村の人の声ではなさそうだ。
「何かあったのかな?」
急いで森の中を進むとそこには蜂もどきに追われている女性と倒れた男性がいた。村へたまに訪れる冒険者のような身なりだから、もしかするとハチミツを取りに来たのかもしれない。
「とりあえず助けよう!リリー、頼んだよ!」
キシキシと答えて、蜂もどきの方へ向かう。リリーの姿を確認した蜂もどき達は一斉に逃げ去っていった。
「くっ、助かったと思えばこんな大物に遭遇するなんて!」
女性がリリーに向かって剣を構えている。どうやらリリーを敵だと認識されてしまったようだ。リリーはどうすれば良いのか分からず立ち止まっている。
「温存してる場合じゃないわね!フレイムスタッフ!」
駆け寄る女性の杖が炎に包まれ、そのまま振り下ろされる。巨体ながらも上手く避けるリリーだが炎をとても嫌がっている。
「ちょっと待ってください!」
女性とリリーの間に身体を割り込ませる。背中に隠れるリリー。隠れてきれてないけど。
「何でこんな所に子供が!危ないからどいてなさい!」
言葉と共に僕は押し退けられる。女性は勘違いしたままリリーを仕留めようと動く。
「おりゃあああ!」
このままではリリーが殺される。そう思い咄嗟に地面を使い魔法を発動した。