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なんで騎士団長の俺が門番をしなければいえないんだ。と思いつつも、引き受けたのは俺だっただろと自分でツッコむ。
久しぶりの休暇にゆっくりしようと思っていたら、古い仲の友人に会ってしまい、デートがあるから変わってほしいと言われた。
他のやつなら変わったりなんか絶対にしないが、ずっと女を嫌っていたこいつだし、なんだか胸さわぎがしていたので仕方がなく引き受けたのだ。
手続きをすすめていると、列の後方が騒がしくなる。
「何事だ!」
「た、隊長!単独で飛翔の魔法を使っている魔導師が……」
なんの冗談を、と思った。飛翔なんて風の最上位魔法だ。
それに今騒がしいとなると、まるで遠くから飛翔で飛んできたみたいじゃないか。
お伽噺の古龍が人化している訳じゃあるまいし有り得ない。
そう思ったが、俺の所からも見える位置にそいつは飛んできた。
とてつもなく上質なローブに杖。
そいつは杖を軽く一振して無詠唱で楽々と飛翔を解除して見せた。
杖を持つ手と反対の手で帽子を軽く上にあげる。そこで見えた顔は恐ろしい程に美しく、その瞳はオッドアイだった。
綺麗な銀髪を後ろで一つに結いブーツをコツコツと鳴らしながら列̀に̀並̀ぶ̀。
誰もが呆然とした。
こいつは道を開けさせるために高等技術を見せつけたんじゃないのか!?脅しじゃないのか!?と思って二度見する。
するとそいつの前の女二人が顔を赤らめていて何事かと思ったので近付いてみた。
「私の名前?私はソロモン。しがない旅商人だ。よろしく頼むよ、美しいお姫様方」
微笑みながら女性の手を取り口付けをする動作はいやに洗練されていて、とてもただの旅商人には見えない。
魔法の件もそうだ。こいつには、いや、ソロモンにはなんの目的がある?くそ、こういう時だけ予感は当たるから嫌なんだ。
つい舌打ちして悪態をつく。その後に深いため息を吐いて門に戻った。
それからしばらくしてソロモンのヤツの番が来た。ちょうど手続きを終えた女性は
「それでは、またの機会にお会いしましょう、ソロモン様!」
と頬を赤らめながら言ってそれに対して
「もちろんだ。あぁ、でも君のような大輪の花を独り占めしては世の中の男性に怒られてしまうね。それでは、麗しきレディに幸あれ」
ふわりと微笑みながら額に口付ける。
その微笑みに図らずもドキッとしてしまったがあいつは男と言い聞かせることで事なきを得た。
「おい、未婚女性にあまり手を出すものじゃない」
彼女達の頬の赤らめ方が異常だったので注意をしてみた。
「あぁ、彼女達は既婚者ですよ」
それを聞いて更にぎょっとした。どこで分かったのかと、それなのに手を出したのかと。
「そんな有り得ないものを見る目で見ないでくださいよ。彼女達は政略結婚だったんでしょうね。随分と危ない火遊びをしているようでしたので、そんな危ない男なら私にしてしまいなさいと声を掛けただけですよ」
そう言って朗らかに笑うが、そんな事どうして分かるのだろうか。そう言いながら彼が入国手続きを渡してきた。
彼が書いた名前はやっぱりただの旅商人とは思えないほど達筆でソロモン・ジンハウルトと書かれていた。
通行証を渡して門を通すと連れ違い様にこう言ってきた。
「そうそう、溜め息と舌打ちなんて騎士団長サマがするものじゃありませんよ」
その声にばっと後ろを向くがもう既にその姿はなかった。俺が舌打ちしたのはソロモンから余裕で百メートルは離れていた。
なのにため息すら聞き分けていた?そもそも、俺が騎士団長というのはあいつが来てから触れていない話題だ。
あぁ、いや、一度触れていたな。「た、隊長!単独で飛翔の魔法を使っている魔導師が……」部下がそう言ったのはソロモンがこちらに向かってきた時だろう。
それを聞いていたとしたら。
「とんだバケモンじゃねーか……」
もしかしたらこの声も聞こえているかもしれない、聞いているのかもしれないと思って笑ってしまう。
「隊長?」
「すまん、ここは任せた」
これは、一刻も早く上に報告した方がいい。目的も何もわからないのだ。
あんな化物この国だけじゃかなう筈がなさそうだ。