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タイムカプセル  作者: ゆいまる
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空色に滲んだ涙 6

 学祭は今年も成功のうちに終わった。打ち上げはいつもの居酒屋。俺は珍しく積極的に藍の隣に座ってみてる。

 ミスコンの優勝はなんとスミレだった。まだ彼女は打ち上げには来てないが、たぶん来たら部に20万ももたらした女神として迎えられるだろう。

「それにしても、惜しかったな」藍は苦笑しながら首を横にふる。

「あんなに大勢の人の前に出る経験なんて、そうそうないもの。楽しかった。ありがと」

 そうグラスを合わせる。そしてイタズラっぽく微笑み、ふざけた口調で言う。

「始まる前にドキドキしたぶん、本番ではリラックスできましたぁ」

「悪かったって」

「胡桃ちゃんは?」

 俺はビールを一口飲んで

「教授が家まで送るって。まぁ、色々あるみたいだよ」

 離婚の事は何となく話せなかった。だけど、舞台裾に戻った時、胡桃は柔らかい表情で父親の所に連れていけと言った。少しでも、自分から歩み寄る覚悟をしたのだろうと感じた。

「それにしても……」

 苦笑して桃と酔って彼女に絡む春日を見る。今回の映画の功労者は春日だから、と見過ごしていたが、そろそろ助けに行った方がいいだろうか。

「蒼汰くんも捕まっちゃってるもんね」

 藍の視線の先には、さっき次期部長として皆に紹介された蒼汰。奴は塚口先輩と顔出しに来てる神崎川先輩に挟まれ、楽しそうだ。とても桃まで気を回せる状況じゃない。俺は仕方なく 膝立ちすると、軽く手を上げた。

「おい、桃」

「青く……」

 ほっとした顔で桃が立ち上がりかけた時

「気持ちわるっ」

 春日が口を押さえた。

「え、あ……」

 桃は狼狽えると、慌てて春日の背中をさすり

「ごめん。ちょっとお手洗いに連れて行ってくるね」

「わかった」

 彼を連れて出てしまった。タイミング悪かったな、と見送ると、藍の視線を感じ、俺達は苦笑した。桃には悪いが、こんな雰囲気が心地良かった。

「みんな、学祭クイーンが着いたぞ」

 誰かの声。スミレが到着したらしい。優勝の華やかな雰囲気そのままに顔を出したスミレと、少し藍とのいい雰囲気に浮わついていた俺の目があう。

 スミレは悲しい顔をしていた。

 どうした? 疑問に感じたが、それは一瞬のことで、俺から視線を全体に移したスミレは、いつもと変わらない笑顔をふりまいていた。見間違いかと思い、ため息を零す。

 テンションがいつも以上に高い蒼汰が皆にスミレを讃えながら紹介した。スミレが賞金の目録を蒼汰に渡すと、一層盛り上がりを見せた。

「ちょっと羨ましい?」

 からかい半分に藍に耳打ちすると、くすぐったかったのか肩をすくめて「少しね」そんな仕草がたまらない。

「じゃ、今度俺が努力賞やるよ」

「それは楽しみね。どんな豪華な賞品にしてもらおうかな」

「……お手柔らかに頼むよ」

 肩を竦めると、彼女が笑う。俺も笑う。そして、再認識するんだ。俺は彼女が好きだって、照れ臭いがそういう事を。

 藍はどう感じてるだろうか?蒼汰を忘れてるなんて期待はしない。けど、少しでも彼女が俺といる時間を心地よく感じてくれていれば……。

「あ、注目ついでに皆に報告があるんだ」

 神崎川先輩の声に俺達は顔を上げる。蒼汰も見当がついていないようだ。神崎川先輩は嬉しそうに微笑みながら

「一つは去年の俺達の作品が新人映画コンクールの最終予選に残った事」

「凄い!」

 蒼汰は頬を赤らめ先輩を見上げる。コンクールの事はわからないが、蒼汰の様子からだと凄いんだろう。

 神崎川先輩は蒼汰を一瞥すると、少し表情を変えた。そして奴から目をそらす様に皆を見て

「あと、今日ここに来てない中津だが……」

 ふと蒼汰の顔が固まる。

「卒業と同時に結婚する事になった」

「え……」

「そして、夏辺りに俺、父親になる予定なんだ」

 ワッと皆が喜びに沸いた。たちまち神崎川先輩は皆に囲まれ、手荒い祝福を受ける。

 そんな騒ぎに蒼汰は、奴だけは、呆然としていた。やがて、祝福に沸く連中に弾き飛ばされるように人の輪から離れ、そのままゆっくり背を向けて部屋を出ていった。

 俺は見ていられなくて立ち上がる。蒼汰の気持ちはもちろん、俺達は神崎川先輩と中津紅先輩の秘密を知ってる。奴が素直に喜べなくて当然だ。

「待って」

 蒼汰を追いかけようとした俺の腕を掴む手があった。藍だ。藍は少し戸惑いがちに

「私に、行かせて」

 そう言う目は、さっき俺を見ていた目とは全く違っていた。

 それがわかった途端、忘れかけてた焼ける様な痛みがして、俺は何も言えなくなる。

「行ってくる」

 蒼汰の背中だけを見つめる瞳に、俺は呼び止める言葉を探せなかった。

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