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タイムカプセル  作者: ゆいまる
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桜色の旋風 2

 部室棟にはすでに人が溢れかえっていた。式典や説明会が終わり、新入生たちと在校生が入り乱れている。映画部も例外ではなく、入口で部員たちが悪戦苦闘していた。

関西弁のスパイダーマンは俺の顔を見つけるとにやりとした。

「おい。えっらい、長い勧誘の旅やったなぁ。もう、春の陽気に誘われて二人で愛の逃避行したんちゃうかって話してたところやで」

「そんなの、誰も言ってない」

 桃がウサギの手でパンチした。ボケと突っ込みっが成り立ちつつある。桃は少しふくれて

「ね、二人でどこ行ってたの?」

 俺たちを上目づかいで睨んだ。俺たちは顔を見合わせ「それは…」言葉を濁している時だった

「み〜つけた!!」

 いきなり背中に衝撃。何かが俺にぶつかってきた。言葉をなくして振り向くと、見知らぬ新入生が俺の背中に抱きついている。

「あの…どちら様…?」

「やだ〜。酷い!」

 その女はむくれると、俺から離れようやくちゃんと向き合った。

「誰や?」

 蒼汰が肘で突っつくが、こんな痛い女、まるで覚えがない。桃の視線が別の意味でものすごく痛かった。女はにかっと笑うと

「青せんせ…じゃなく、園田青先輩の恋人候補の芦屋スミレです」

 はっきりと言い切った。俺は必死に記憶の引き出しを探る。芦屋…あし…?!!!

「あ、お前!」

「思い出した?せんせ」

 髪が真っ黒で気がつかなかったが、あいつ。学祭前に2週間だけ家庭教師をした、あの金髪の馬鹿女!!

 スミレはしてやったりといわんばかりに俺を見据えると、おもむろに腕に絡んできた。

「先生の理想の女性になってやったんだからね」

「じゃ…」

「今日から、ここの生徒。同じ大学で〜す」

 どこまで本気なのか…本当の意味で痛み出した頭を抱えながら、俺は後頭部に突き刺さる三人の視線に溜息をついた。

 芦屋スミレはあの時、俺に人生最大級にプライドをズタボロにされた。そこで、見返そうとその後猛勉強。そしてここの合格を勝ち取り、髪も染め、堂々と俺に勝負を挑んできた…と、スミレは一人芝居さながらに部室でみんなの前で語った。

 俺は顔を両手で覆い、肩を落として脱力する。

「というわけで、ここに入部希望しま〜す。よろしくお願いします」

 漫画か、お前は。馬鹿ばかしい。俺は面白がって盛り上がる部室を、こっそり抜け出した。


 その年の新入部員は芦屋スミレをいれて六人。まぁまぁの収穫だった。

 この年から、部は大きく活動方法を修正することになった。塚口先輩は以前から考えていたらしいが…大きく変わるのは、撮影を夏休みに固めるのを止めること。すでにある脚本をベースに春から学祭りにかけて少しずつ撮りためていく。こうすることで、直前の追い込みを防止したり、夏以外のシーンを増やすことになる。なので、以前に比べてサークル活動の日数は増えるが、5月頭には年間のスケジュールを立ててしまうから、だらだらと拘束されるという事はないんだそうだ。

 それを踏まえた上で、今年はなんとホラーで行くことのなった。三年の先輩の脚本で、オムニバス形式。一つ一つは15分ほどを考えているから、撮影が終われば編集班に…編集に回している間に次の作品の撮影に…と繋いでいくらしい。

「ちょっと忙しく感じるかもしれないけど、基本は楽しんで行こうな」

 塚口先輩の締めの言葉に、今年のカラーが現れていた。

 新歓コンパは…ひどかった。スミレが始終からみまくり、俺はまともに他の連中と話しすらできなかった。

 スミレは入学の日から、ストーカーの様に俺に付きまとった。実家通いなのがせめてもの救いだったが、隙あらば家までついてこようとするし、昼飯は毎日作ってくるし、部内では常に傍にいて彼女面…これこそホラーだった。サークルが去年までのように、夏までまともな活動をしない方針だったら、間違いなく俺は登校拒否をしていただろう。実際、必須科目とサークルの日以外はひきこもり状態だった。



 俺はその日も、スミレの影に半ば怯えながら教室に向かっていた。誰にも見つからないように、静かに廊下を行く俺の背中に、影が迫る…。背中に強い衝撃が走った。

「!!」

 俺はとっさに身構えるが、そこにいたのは

「よ!色男!押し掛け女房じゃなくて悪かったな」

 俺の背中を叩いた教科書を肩に抱え笑う蒼汰だった。俺は思わず脱力し、息を吐く。

「あのなぁ…笑ってるけど、真剣、きついんだぜ?」

「う〜ん。確かに、少しやつれた感があるなぁ」

 楽しそうに人の顔を見ながら席に着く。俺は座るなり机に突っ伏した。

「助けてくれよ…」

「確かに、このままやったら、藍ちゃんとの恋路の多大なる障害になりかねへんな」

 こいつはどこまで本気でしゃべっているのか…。俺が深いため息をついた時だった

「いた!青くん!」後方から藍の声。

 今の話を聞かれたんじゃないかと思い、かぁっと頭に血が昇る。

「あ、今の話は…」

「今のって?」

 首を傾げられ、俺はさらに顔を熱くした。

 蒼汰はそんな俺をケラケラ笑い、

「どないしたん?ここは今から経済学部の授業やで?」

「違うの。青くんに相談したいことがあって、探してたの。携帯はつながらないし…学校でも見かけないから」

 そういや、スミレからの電話がウザくてここ最近は電源を落としていた。部活も今はカメラ班や脚本班…みんな個々に動いている。

「で、俺に何の用?」

 久しぶりに会って、向こうから探してくるほど頼られるのは嫌な気はしなかった。藍は、眉をよせて

「それがね…桃ちゃんが…」

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