村人のステータスを覗いたら何かヤバいことになってた
勇者として長いこと旅をしてきたが、未だに疑問に思ってることがひとつある。
よく街とか村の入り口にいる「ここは○○の村だよ」と言うだけのアイツだ。
来る人来る人に、毎回同じセリフを言っている。
アイツを見るたびに、いつもこう思う。
それ、看板でよくね? と。
村の名前を言うだけの人間に、何の存在意義があるのか。
冒険も大詰め、あとは魔王を倒すだけという段階だ。
最後に、アイツらの存在意義について、確かめてみようと思う。
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「ようこそ。ここは旅立ちの村イーストサイドだよ」
いた。あいも変わらず、道行く冒険者に同じセリフを吐いている。
こいつの語彙はこれだけしかないんだろうか。
とりあえず、話しかけてみることにした。
「よお、久しぶりだな。元気か?」
「ようこそ。ここは旅立ちの村イーストサイドだよ」
「長いこと来てなかったんで、街のみんなどうしてるかなって思ったんだが」
「ようこそ。ここは旅立ちの村イーストサイドだよ」
「お前、頭大丈夫か?」
「ようこそ。ここは旅立ちの村イーストサイドだよ」
ほっぺたをつねってみた。
「ようほそ。ほほはふぁびだちのふらイーふトサイほだよ」
顔色ひとつ変えずに、笑顔で同じセリフを言ってくる。
何なんだこいつは……。
何だが怖くなってきたぞ。
これ以上絡んでも、周囲の住人の目が気になる。
どうしたものか……。
そうだ。
俺は道具袋の中を探ってみる。あった。
ステータスグラス。
見た目は何の変哲もない眼鏡だが、覗いた相手のステータス情報がわかるという優れものだ。
これで人間に化けてる魔物を見破ったこともある。
ちなみに、以前鏡で自分のステータスを見たときはこんな感じだった。
名前:ケント
職業:勇者
LV:87
力:325
防御:298
俊敏:255
魔力:312
特技:魔法剣
一言:ああ~ハーレム築きてえ~。
冒険後半のステータスとしては、まあこんなものだろう。
一言という欄があるが、これは対象者の深層心理が反映されるらしい。
俺の深層心理って……。
まあ、それは置いといて。
このステータスグラスを通してみれば、アイツが何者なのかハッキリする。
俺は緊張しつつ、ステータスグラス越しにアイツを覗いてみた。
名前:ベッパーくん九十九式
職業:スーパーロボット
LV:99
力:999
防御:999
俊敏:999
魔力:0
特技:レーザービーム
一言:侵入スル魔物ハ、排除スル
どこから突っ込んでいいものか……。
まず、お前人間じゃなかったのかよ。
っていうかステータス高すぎだろ。
そして一言が怖いよ。
色んな街にこういう同じセリフを喋るヤツらがいるけど、まさか全員ロボットなのか?
こいつらは一体……。
そう思ってると、背後から話しかける声があった。
「ベッパーくんの正体に気づいたようじゃな」
振り向くと、白髪で白衣、眼鏡をつけた、いかにも科学者といった風貌の老人がいた。
「あんたは……」
「わしは天才科学者ソフ・ヴァン博士じゃ。そういう君は勇者じゃな」
「科学者……?」
そんな職業がこの世界にあったのか。
「君と同じ、異世界からの転移者じゃ。表立っては行動しとらんがの」
なんと。俺の他にも転移者がいたのか。
「そこにいるベッパーくんは、わしの発明じゃ。こんな開けた街じゃ、いつ魔物が侵入して被害が出るかわかったのもじゃない。そこでこのベッパーくん。ただ村の名前を紹介するだけと思わせておいて、侵入してきた魔物をすべてレーザーで排除しておるのだ」
どうりで近隣で魔物が普通に出てくるのにも関わらず、村に被害がないわけだ。
看板で十分なんて言って、悪かった、ベッパーくん。
でも、そうすると……。
「こいつらで魔王城を攻めて魔王を倒せば、戦いはすぐ終わってたんじゃないか?」
俺の疑問に、ソフ博士は答えた。
「あまり複雑な命令はインプットできないのじゃ。せいぜい、村の門番をさせるくらいじゃな。魔王を倒すのはやはり、勇者でなければ」
なるほど。人にはそれぞれ役割があるわけだ。ベッパーくんはロボットだが。
街の守りはベッパーくんに任せて、俺は安心して魔王との対決に望める。
ありがとう、ベッパーくん。
俺がそんなことを思ってると、突如として空が暗くなった。
「なんじゃ? 通り雨か?」
「いや、違う。この魔力は……」
雷雲が轟き、風が吹き荒れる。
空中に目をやると、目に見えるほどの大きな魔力が、徐々に一箇所に集まっていく。
「まさか、ありえない……」
俺は目を疑ったが、魔力の塊は人の形になり、やがて黒づくめのマントに包まれた、頭に角の生えた男の姿になった。
「あれは……魔王! 何でこんなところに!」
うろたえる俺に対して、魔王はゆっくりと口を開く。
「ここか……勇者のいるという街は」
村の人に危害を加えるわけにはいかない。俺は叫んだ。
「勇者は俺だ! 何でこんなところに来た!」
俺の問いかけに対して、魔王は俯いて、震えながら言った。
「貴様……! 貴様……! 遅すぎるんじゃあ! いつまで待たせるんだ! 魔王城に入れるようになってから、1年は経っとるだろうが! 待ちきれんから俺様の方から出向いてやったわ!」
俺のせいだった。
魔王を倒す前にすべてのイベントをこなそうと思って、寄り道しすぎたか……。
「もう我慢ならん! 今、ここで俺様が直々に始末してくれる!」
来る! 一刻の猶予も無さそうだ。仲間も置いてきてるし、装備も整っていないが、ここでやるしかない!
俺が身構えた、そのとき。
「侵入シタ魔物ヲ発見。 排除シマス」
そんな機械的な音声が聞こえたや否や、側にいたベッパーくんの目から、一閃の光が放たれた。
瞬間、魔王の胸が光の筋に貫かれ、風穴が空いた。
「……? 何が起こっ……ぐはっ!」
宙に浮いていた魔王があっけなく地面に墜落した。
魔王の胸にできた風穴からは、緑色の血液が大量に流れている。これは致命傷だろう。
一瞬の出来事にあっけに取られていると、魔王が苦しげな声で呻いた。
「ここまでとは……さすがは勇者。褒めてやろう……」
「ようこそ。ここは旅立ちの街イーストサイドだよ」
ベッパーくんに話しかけている。ある意味勇者だから間違っていないが……。
「俺様がいなくなっても、第二、第三の脅威がお前ら人間どもを――ぐえっ!」
ベッパーくんのレーザーが魔王の頭を貫いた。
容赦がねえ……。
俺が何ともいえない思いで魔王の亡きがらを見ていると、ソフ博士が申し訳なさそうな顔で言った。
「何というか、すまん勇者よ……こんなことになるとは」
「いや、言わないでくれ。これでもう、俺たちが危険を侵すこともなくなった。これでよかったんだよ」
俺は天を仰いで、続けた。
「でもこれ、もう全部ベッパーくん一台いればいいんじゃないかな」
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魔王を討伐したことにより、ソフ博士は国民栄誉賞を受賞した。
ベッパーくんの有用性も評価され、世界各地のいたるところにベッパーくんが配置されることになった。
魔物による死者数もゼロになり、人類はようやく平和を手に入れたのだった。
数年後、ベッパーくんが自我を手に入れ、人類に反旗を翻し、人類とベッパーくんの最終戦争が始まることになろうとは、このときの俺は知る由もなかった。
-完-