十二月二十四日②
十二月二十四日②
電車を乗り継いで、移動すること約一時間。その間、藤村は終始異様な雰囲気を醸し出していた。
「成瀬君、お互いの呼び方とか決めようか」
「呼び方?」
「そう。今はお互い名字で呼んでいるじゃない?それだと完全に他人行儀だし、ここは恋人っぽい呼び方を考えよう」
別にいいんじゃないか。恋人ってそんなもので決まるわけじゃないだろう。腕組んで歩いていれば、ある程度他人行儀でも恋人同士に見えるはず。そこまで気を遣うことないだろう。
「付き合うと呼び方とか変えるものなのか?」
「うーん、どうだろうね。もともとあだ名で呼んでいたら変える必要ないと思うけど。少なくても名字で呼ばなくなると思うよ」
「そんなもんかね」
俺は嫌だな。呼び方なんて何でもいいだろう。相手が呼びやすい呼び方を自由に決めさせてやった方がいいと思う。ま、今はそんなことを言っていられないので、少しだけ協力してやろう。
「じゃあ例えばどんな呼び方がいいんだ?」
「とりあえず私のことは名前呼び捨てで。『佳澄』言ってみよう!」
呼び方を指定されるのは嫌だな。何か緊張する。とりあえず言うか。
「佳澄」
「うーん、いいね。それで行こう」
何がいいんだろうな。というか、もう早くもついていけないんだが。と思っていると、
「じゃあ私は……」
と言って、突然固まってしまった。そして、口を閉じ黙り込んでしまう。
「おい、藤村」
「あ、ごめん。えっと、やっぱり名前で呼ぶのはなし。今まで通り名字で呼ぼう。あはは……」
「……………」
「あれ?成瀬君、名前で呼びたかった?だったら成瀬君は『佳澄』って呼んでもいいよ」
俺が黙り込んだ理由は、そういうことじゃない。さすがに藤村も分かっているはずだ。それを分かっていながら、ふざけたような発言で逃げる。どうしても感づかれてはいけない、何かを抱えているようだ。
「俺はどっちでもいいよ。あんたの好きなようにしてくれ」
「そう………」
それからは火が消えたように黙り込んでしまった。テンションの上下が激しい。隣に座る藤村の表情を盗み見る。先ほどの発言に関して落ち込んでいるといった雰囲気はなく、どうやら考え事をしているだけのようだった。こうなると、俺からも話しかけにくいので、俺は俺で考え事をすることにした。
しばらくすると、
「ねえ、成瀬君」
不意に声をかけられた。
「なんだ?」
「成瀬君は、今から行く遊園地って行ったことある?」
そこはここらでは有名な遊園地である。というか、アミューズメントパークと言ったほうがマッチするだろう。埋立地に作られた広大な土地。物語になぞらえたアトラクション。ファンシーなグッズ。愛らしいキャラクターマスコット。そして、季節折々に行われるイベントも有名である。
行ったことはある。だが、もう覚えていない。覚えていたとしても、現在は様変わりしてしまっているだろう。もう何年も行っていない。
「小さいころに何度か行った。ここ最近は行ってないな」
「そっか。私も最近は行ってないんだ」
今思ったが、なぜそんなところまで行くのだろうか。今日の目的はストーカーに恋人がいることを見せつけることだ。あんな遠いところまで、本当に来るのだろうか。俺の感覚では信じられないのだが。そういえば、チケットはあるのだろうか。俺の分はあったとしても、岩崎の分はないだろうな。あいつ、入れるのだろうか。
「クリスマスに行くのは初めてだよね。すごいよ。私、実はあまり興味なかったんだけど、イルミネーションと、パレードが感動的!あれは成瀬君もハマっちゃうよ」
あまりハマりたくないな。冗談でもこんなことは言えないので、
「自信がありそうだな」
「うん。間違いないね」
「それは楽しみだな」
今度は目的地に到着するまで、再び口を開くことはなかった。




