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八幡の考察

2016年6~11月


 八幡は彼女に関連した動画を時折繰り返して眺めていた。彼女はどこかのテレビの取材を受けていたのだ。八幡はその映像をインターネットから落とし、携帯端末に保存していた。

 映像の中の取材を受ける彼女は、学校での姿の面影も無いほどに明るい性格でアイドルのように思わせた。ネットでのコメントでも、本当にアイドルと思う人もいるようである。そんな彼女は体がボロボロになりながらも魔物と戦っているのだ。学校で不登校になってしまっている彼女だが、その理由は魔物と戦った事で精神不安定になったと言われている。しかし、げんに彼女は魔物と戦っていた。なんとも平気な顔で。

 彼女は何故不登校になってしまったのかは、取材ですぐにわかる。


「他の人から見たら、私はとてつもない変人ですよ」動画の中の彼女は言う。テレビの人が聞いたのか、字幕でどういう事かと質問するのがわかる。


「だって、貴方達も蟻一匹に怯えたりはしないでしょ? それを私半ばパニックになりながらも蟻を必死に退治しようとしてるんです。ね? 変人ですよね。この街の人達にとっては魔物なんて蟻なんです。私は怖くて堪らないのに誰もわかってくれないんです」


「学校行事で魔物の封印しようとしたとき、必死に頑張ったんです。でもきっとそれも滑稽で。それに怪我をしたんです。治療が痛くて痛くて堪らなくて泣き叫んでしまったんです。ちょうど義手とかじゃなくて生身の体もあって、凄く痛かったんです。はあ、あんな醜態晒しちゃったら、学校でなんて言われることか。そう思うと、しばらく学校行けなくて」


 君の学校は戦士でも育成してるの? と取材の人が聞く。


「生徒の必須技能? 私はあまり成績が良くないので何も言えませんが。とにかく、自分が恥ずかしいんです。馬鹿にされるのも辛いんです。自衛の授業なんて嫌い。学校も大嫌い。学校に行って面白いと思えることなんて一つもない。否定される為に通っているようなものなのよ。だからいきたくない」


 八幡が再生している映像は、テレビ放送では殆んどカットされていたものばかりだ。八幡は映像を早回しする。

 キャリキャリと音が響き、適当なところで再生しなおす。


「と言うか、魔物なんて関係ない質問ばっかりじゃないですか」「君の事知りたい。どういった考えで君が形成されたかと思うと気になって」「大して面白く無いと思いますよ」


 八幡はまた早回しする。

 映像の中の彼女は鉄棒の上で逆立ちして遊んでる。スカートがめくれてスパッツが見えているが気にする素振りはない。



「なんで他校の制服着てるの?」「コスプレ楽しいですよ!」「若い子が何言っちゃってんの!」「というのは嘘で。変装なんです。私が扱う魔法の中には銃刀法違反にあたるものがあるんです。奥の手なんですが、もし使ってしまったときに少しでも捜査の足を遅らせたくて」「遅かれ早かれ悪いことしたら捕まるよ」「あと二ヶ月持てばいいんです。私の寿命も限られてますし」「人工臓器の話だね。壊死おこすんだっけ。長くないんだったよね。どうにかできない?」「どうにかするつもりもありませーん」彼女は人差し指と親指の指二本で体を支えながら学校では絶対に見せない笑顔をカメラに向けた。


 先程から取材の人と彼女だけで喋っている。落とす動画が所々抜けていて、八幡には何度見ても彼女と取材の男がしている話の内容がわからなかった。わかりたくなかった。八幡は早送りボタンを押す。


「好きなことって何? 学校だったら結構モテるんじゃない?」

「こいつみたいなのに好意を持つ人なんていねーすよ」彼が会話に割り込む。


 彼女はお前には言われたくないと言いたげに逆立ちしたまま視線を送った。

 彼は彼女に「そんなもんだろ」という。「だってお前だって、俺を見たところで魅力はねーだろ。多分そんな感じだ」

「私は貴方ならモテるんじゃないかと思うけどな。付き合えって言われたら私は嫌だけど。友達なら最適かな?」

「たしかにうわべだけでも誤魔化されたらどうなってたかあやしいな。知ってるだけでがらりと変わる印象か」


 この会話から、少なくとも男女の仲にはなっていない事がわかる。会話が進むにつれて、この男子生徒の正体に検討がついた。


 この男子生徒は未来に死んだ生徒であり、今は彼女の使い魔なのだ。死者を使役する。これが彼女の固有魔術なのだ。

 この動画に映る彼は八幡や彼女と同期の生徒だという。見た目も性格も違うそうだが、その男子生徒にあたる人物は別に学校の生徒としているようなのだ。


 動画の彼女達は喋っている。


「指一本で体、普通支えれねーだろ。スゲーわ」

「貴方の手のひら、指とか細くて綺麗。女の子みたいな手ね」「生前、俺は腕力においては非力だったんだ。握力28キロ」「嘘言うなら現実味のある嘘言った方がいいよ。私、魔法無しでも60キロはあるんだけど」「嘘じゃない。非力なんだ。だからお前みたいに力強い戦い方をするのは憧れる。と言うか、60キロとかそれこそ現実味のある嘘言えよ。レスラーかよ」「なに言ってんの? 本気で言ってる? ホント? まじで言ってるの?」「本当に本当なんだ」「貴方、女の子として生まれるべきだったのよ。よく見れば、女の子のような顔つきしてるし」「お前は男として生まれた方が良かったな。目付きや骨格とかマジでイケメンだ」「お互い、変な事言ってるわね」「本当にお互い変な事言ってる」


 八幡は動画を切り替えながら、ある日の事を思い出す。

 彼女が誰にも心を開かないと思っていたここ最近。彼女は男子生徒と密着して座りながらお弁当を食べていたのだ。しかも、男子生徒の方の弁当箱は、彼女が用意していた。

 男子生徒は三矢という。生徒である。


 この三矢という男子生徒と彼女には何一つ接点がないのだ。クラスも一緒になったことも無ければ、共通の知り合いがいるわけでもない。なのに彼女は完全に心を開いていた。

 使い魔の男を除けば、明るい表情を見せるのは三矢以外において誰もいないのだ。

 再生されっぱなしの動画で、使い魔の彼が得意気に喋っている。


「使い魔とかなんとかエラソーに言ってるけど、俺って、多分悪霊に近いんです。体、乗っ取ってしまいますし。生前じゃ絶対にしないような言動をするんです。お陰でたまに、こいつに迷惑かけてます」


 彼の姿と三矢という生徒の姿がだぶる。どことなく雰囲気は似ている。おそらく、彼女の使い魔である彼の正体は三矢だ。八幡はこのように考えていた。彼女はそれを感じ取って、三矢にすりよっているのだと。


 三矢という男子生徒は、暗く、友達がいない、部活にも所属していない、無気力な人間である。

 三矢は三矢であり、彼女の使い魔である彼は彼に過ぎない。心が弱っているとはいえ、彼女の持つ彼のイメージを三矢に押し付けるのは良くない事だ。いずれの彼女の事を思えば、考え方を改めさせるべきだ。

 八幡はそう考えた。



 そう。彼女のためなのだ。

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