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八幡の視点

 視点を変えて。


2016年4月


 八幡という男子生徒の話である。彼の世界観が変わるきっかけとなった出来事にあったのは、高校の二年生始業式の前日の春休み最後の日のことだ。八幡は夕方、御使いの帰りの時にあまりに非現実的なものに遭遇した。魔物と遭遇したのである。

 しかも、あまりに大きい魔物であった。小さな物置小屋なんて超える高さほどの巨人だ。明らかにこちらを標的にしていた。それは八幡の姿を見るや、まるで子供がおもちゃを見かけたとばかりに、追いかけだすのだ。


「うわあああああ!」


 八幡の足はすくむこともなく、はじかれたように無意識に逃げ出していた。手に持った買い物袋も投げ出している。あちらは巨体であり、勢いよく迫ってくるだけで十分な脅威に映るのだ。無我夢中になって逃げ出すのは当たり前だ。おまけに八幡は意味不明な、言葉にならない悲鳴を恐怖のあまり叫んでいた。

 そして逃げ出そうとして気が付いた。その恐怖の存在は一つではなかったのだ。似たような存在が八幡が逃げようとする進行方向を阻むように何体もいた。

 八幡はあっという間に囲まれてしまい、どう逃げ出せばいいかわからなくなった。どちらに逃げようとしても、魔物の餌食になるイメージしかわかなくなって、体をこわばらせてていた。

 気がつけば一つの巨人が、硬直した八幡に突っ込んでいた。

 目の前に迫る恐怖に、八幡は完全に腰が抜けていた。壁に追いやられていたのもあって、動けなかったのだ。その瞬間、八幡は誰かによって突き飛ばされた。少し八幡より小さな、小柄な誰かだ。

 そのほぼ同時。八幡がいた場所に魔物が突っ込んだ。爆発したような衝撃が襲った。魔物による衝撃波なのか、わからない力で更に遠くに吹き飛んだ。

 倒れた八幡は、少し離れて倒れている高校指定ジャージ姿の女の子が目に留まった。いつの間にここに女の子がいたのか全く分からなかったが、彼女が突飛ばして命を救ってくれたのは理解ができた。

 しかし、その女の子はすぐに立ち上がる気配を見せなかった。八幡は倒れたまま立ち上がれずにいる女の子に駆け寄って助け起こそうとする。そこですぐに立ち上がれずにいる理由はわかった。彼女は吹き飛んだ瓦礫に腕を挟まれていて動けずにいたのだ。

 すぐそこに魔物がいるのだ。八幡は焦ってしまっていた。

 だが彼女は焦る様子も見せずに腕を引き抜いてみせた。


「あ」


 危機感の無い呑気なまでの彼女の声だ。

 八幡はすぐに抜けたことに安堵したが、それは間違いであった。彼女には挟まれたはずの腕が無かったのだ。彼女は何事も無いように立ち上がるが、血がドボドボと地面に落ちていく。彼女は無表情のまま八幡に向き直り声を掛けた。


「すみません、突き飛ばしてしまって。ケガはしていないですか? あ、血で服が汚れますし、近づかないでください」


 八幡の耳には、彼女の言葉が届いていなかった。腕がない。しかも、見るからに出血の量も凄まじい。それが衝撃的であった。このままでは腕どころか命も危うい。

 そんな彼女と八幡に高校の制服を着た男子生徒がちかづいた。八幡は驚いていたが、彼女は制服姿の男子生徒に気が付くと、平坦な口調のまま男子生徒に声をかけた。


「すごく痛い。明日、始業式だけど、この腕、どうにかなる?」

「ありゃあ、原型もねえじゃねえか。一日じゃ俺には無理だ。これは時間がかかる。とりあえずちゃんとした止血をしねえとショック死するぞ?」


 八幡は、今すぐにここから離れないといけないと感じた。何故なら魔物が数体いるのだ。しかし、見渡して遅れて理解した。魔物は皆、死んでいたのだ。慣れたような雰囲気から察するに、この制服の男子生徒が全て魔物を殺したのだ。

 理解が遅れて、現実なのか疑わしくも思えた。

 気がつけば、二人の姿はもうどこにも無かった。血だまりに、散乱した壊れた民家の壁のコンクリートブロック、魔物の残骸がその場に残されたのだった。


2016年4月


 学校が始まった時、正直八幡は、昨日の出来事が嘘なのかよくわからなかった。あのまま警察に連絡を入れ、現場検証もした。魔術痕から自分でないと証明もすぐにされるだろう。それよりも、あの時に助けてもらったジャージの女の子が、どうも知っている人物に見えたのだった。以前、八幡の友人を痛めつけたこともある頭のおかしい生徒と有名な女子だ。八幡はどうもそれが信じられずに、どこかの誰かと見間違えていたのだと判断した。それにあの八幡をかばった女子生徒はこの高校の指定のジャージを着ていた。腕をなくしていたのだ。それに血だまりも見間違いでもない。大怪我であるのは容易に想像できる。つまるところ、学校に来ていない筈なのだ。

 八幡は気になってしまい、始業式の日に誰が来ているのかきていないのか把握した。

 八幡は真っ先に、頭がおかしいと有名な女子生徒を確認した。確認というよりも、否が応でも目に留まる。と言うのも同じクラスだったのだ。

 八幡はそうだよなと、内心納得していた。それに、助けてもらった女の子と今いるクラスの頭のおかしいと有名な女子はあまりに雰囲気が違っていた。何故見間違えたというのか。

 八幡は見間違えたことよりも、例の女子生徒を探しに必死になっていた。八幡の記憶はもはや曖昧になってしまっていた。恐怖と興奮により、記憶がおぼろげになってしまっていたのだ。覚えているのは、助けてくれた女の子が学校指定のジャージを着ていたことと、腕を失っていたことだった。しかし、学校中を探してもそういう人物は一人も見当たらないのだった。


 八幡が恩人である女の子を探し始めてまだ数日の事。ある日の昼食の時である。誰かが、あの変わっている女子生徒をからかっていた。とても汚い食べ方だと。見ていれば、確かに汚い食べ方だ。箸の握りもぎこちない。そしてどうでもいいと目をそらそうとしたときに八幡は気が付いた。彼女は箸を左手で握っているのだ。左利きなのか。いや、右利きだろう。そうでなければこれほどまで見苦しいわけがないのだ。

 そしてふと彼女の右手を見てみた。


「え?」


 八幡は驚きのあまり声が漏れた。それにたいし、八幡の隣にいる友達が「どうした」と声をかけた。


「あいつ。腕がない」


 何が、と話が分からない友達が八幡に尋ねるが、肝心の彼女は途中まで食べていた弁当を片付けてどこかへ行ってしまっていた。



2016年5月


 八幡は戸惑っていた。助けてもらったのは間違いなかった。だが、確信できる何かが欲しかった。認めたく無いのも自分自身で理解していた。片腕を自分の命を助けるために失っているのだ。

 それに、クラスの皆は彼女に腕がなかった事に気がついていない。いや気付いた上で無視している。仕様がない事をクラスは馬鹿にしている。不器用に食事をとらざるを得ないのは八幡の責任だ。クラスでそれを理由に馬鹿にされているのは八幡の責任だ。「止めろ」などとどの口が言えようか。彼女の今の状況は八幡のせいだと言うのに。右手を失って不便な毎日である。罪悪感が八幡を襲っていた。

 受け止めきれずにいた。認めるのが怖かった。

 自分がどう行動すればいいのかわからないのだ。

 自分でよくわからないまま時間が経過し、心がうまくまとまらないまま行動を起こすことになった。告げるべきは、何もできなかった謝罪なのか、助けてもらった感謝なのか。とにかく心にたまる感情が八幡を突き動かした。


「長田。話があるんだ」




2016年6月



 彼女はどうも、他者と壁を作ってしまっており、話すこともできないのだ。切っ掛けも殆どないのだ。

 八幡はどうか、彼女の事が知りたくなっていた。何が正しいのかもう一度確認したいのだ。


「なあ。長田って、どういう奴だったんだ?」


 八幡は仲のいい奴に話を振った。今はちょうど、別クラスと合同で実戦授業だ。今は生徒がグラウンドに集まりつつある状況だ。模擬戦闘など、話す時間が多いのだ。それに話す友達の一人には、一年生の頃、彼女と同じクラスにいた奴もいた。


「長田? 俺のデータによるとだな」などと勿体ぶったような口ぶりでしゃべりだした。八幡の友達は、情報通ぶるのが好きなのだ。

 長田は随分、たちの悪い性格で、二面性もあって嫌な奴だと言った。適当に男に対して愛想を振り撒いてからかうらしいのだ。極めつけは、誰かを実践授業の際に無抵抗をいいのを理由に病院送りにしたのだ。二年生からでは随分全てにおいて劣っている。今まで課題を他人にさせていたりしたせいだと言われている。

 噂通りである。しかし、一年の時は彼女と同じクラスだった友達が呟いた。


「うぇ!? 長田って、そんな性格なん!?」

「いや、有名だろ」

「ええ⁉ そんな風に見えないけどなぁ……」

「そりゃおめえの見る目が無い」


 そんな中、ある奴が会話に入ってきた。笹崎だ。


「マジかよ! ってか、そのフルボッコにされた奴って誰?」

「は?」情報通を気取る友達が、何故笹崎がそんな事を聞くのか、という顔をした。何故ならフルボッコにされたのは当の本人の笹崎だというのに。


「ザッキーでも不意打ちで仕掛けて入院だからな。普通に向こうから仕掛けられたらまず死ぬよな」「長田はそこまでやんないだろ」「そうだね。精々冗談半分で腕や足の骨を折ってくるだけだし。思い出すだけでぞくぞくしちまう」「あれ? そういう性癖?」「そういうつもりで言ったんじゃない! 折られてもみろ。トラウマだぞ?」「俺、何度も折られてんけど」「せいぜい二回だろ」「つか、お前、折られただけじゃないもんな」「分かった。もう言うな」


 一年の時に二組だった友達は、どうやら笹崎と話が盛り上がっていた。八幡が率直に聞く。「結局のところ、どういう奴か」と聞けば、笹崎も一緒に噂と違うことを言うのだ。


「何かとなんでもこなすよな。勉強もできるし、スポーツできるし、宿題も適度に見せてくれたし」

「料理もできるよな。入院してた時にクッキー焼いて持って見舞いに来てくれたし。うーん、後、若干天然入ってるような」

「だよな! 天然入ってるよな! そう思ってんの俺だけじゃなかったのか!」

「だよな! 変なタイミングで空を眺めるし! 好きな異性のタイプ聞いたら見当違いなこと言われたし」


 男二人、八幡とその友人を置いてきぼりに会話をし始めてしまった。話しているうちに先生が来て授業が始まった。授業といっても模擬戦闘だ。


「誰と戦う?」

「俺と」八幡が笹崎に声をかけた。八幡と対等な実力を持つのは笹崎くらいなのだ。しかし笹崎ときたら、それを断ったのだ。誰と戦うのかと思えば、例の彼女と戦うのだといった。


「は⁈」


 八幡は笹崎を制止をしようとしたが、八幡は既に彼女に走り寄っていた。しかも、随分無理矢理に近い形で彼女を引っ張っているのだ。割り込む機会も無かった。


「手加減するよな?」そんな八幡のつぶやきに、笹崎の友人は応えた。

「当たり前だ。たとえザッキーが殺す気でいっても長田なら手加減してくれるだろ。でないとザッキーなんて瞬コロだし」

「は? なにを?」

「さーて。動画撮っとかないと」


 笹崎の友達は八幡の言葉を聞くつもりがなかった。情報通ぶる八幡の友達は、「もしかして、仕返しか何かするのか」等とおもしろがっているのだ。八幡は考え直すように、笹崎に声をかけようとした。笹崎はタイミングの良いことに、審判をしてもらう先生を呼びに彼女から離れているのだ。


「笹崎君。私達に教えて」


 しかし八幡よりも、知らない女子生徒が笹崎に声を掛けるのが早かった。たしか八幡と同じクラスの女子生徒だ。その女子生徒は笹崎に気があるのだ。


「悪い。先約に、長田と一緒にするから。強いやつにしか興味無いの」

「長田って……。あの子、クラスでも駄目だよ。少なくとも私よりも弱いし、運動もできないし」

「何いってんの? 君、誰かだか知らないけど。本当に実力知らずに言ってんだったらキレるけど」


 八幡がそんな女子生徒と笹崎の会話に割り込んだ。


「本当だ! 長田、あんまり動けるような奴じゃない。少なくともクラスでは」

「は? マジで?」


 八幡はいさめようとして言うのだ。それに対して笹崎と来たら、目を丸くしていた。しばらく笹崎は固まったかと思うと、何か考え込むようなそぶりを見せた。そして笹崎はおもむろに軽金属で作られた学校配布の模造剣を抜いた。


「ふっ!」


 笹崎は姿を消した。いや、高速で移動したのだ。その先にはグラウンドで待機している彼女がいた。


「おい!」


 瞬間。凄まじい金属音が響いた。校庭にいる生徒が静まりこむくらいには、激しい音である。クラスの視線を集めていた。


「ははは! んだよ、腕はおちてねえ!」


 八幡と彼女は審判も関係なく戦いだしたのだ。先生が遅れて駆け付ければ、笹崎は先程のはウォーミングアップだというのだ。その間、彼女は素手や蹴りで笹崎と打ち合っていた。

 笹崎の「んじゃ、お願いします」と言うのが合図となり、改めて試合開始となる。


「はは……。笹崎のやつ、剣持ったままなのに、長田の奴、素手で挑むつもりかよ……。頭おかしい」


 情報ぶる男子生徒は、彼女をバカにしたつもりで言った。構えから、素手で戦おうとしているのが分かるのだ。そんな剣を持った笹崎とやり合おうとしているのが、奇怪に映った。


「なはは。本当にバカだよな。でも、ザッキーは未熟でね。すぐには武器召喚ができないんだ。感情を高ぶらせないと駄目なんだって。だから学校支給の剣で時間を稼がないとまともに戦えないんだ」


 話がどこか噛み合っていない。

 八幡は聞き直していた。「武器召喚? するつもりなのか」と。そんな言葉に、当たり前だと答えるのだ。武器召喚は、限られた人にしかできない、固有魔法に続く強力な力であるのだ。笹崎が長田に向けて使うのか、と聞こうとしたとき。

 彼女が大きく吹き飛んだのが見えた。


「あ!!」

「あーあ。やっぱ長田に普通の武器は意味がないな」


 彼女は受け身を取っていたのか、すぐに立ち上がった上に構えを整えていた。彼女の手には、折れた刀身があった。素手で武器破壊を行ったのだ。彼女の眼は見開かれて、狂喜に歪んでいる。


「剣って、金属だよな?」

「驚いたか? 長田って、理性失ってなくても十分つええんだ。全身凶器。並みの武器じゃ握り砕かれんのがオチさ」

「人が掴まれたら、ヤバくない?」

「やらないよ。長田は戦闘狂だし。あくまでもフェアで戦ってくれる」

「なんでそんなできんだよ」

「固有魔術の一種なんじゃねえの? 本人は肉体魔法って言ってた気がする」


 笹崎は折れた剣の柄を投げつけ、魔術を放った。しかし、なんでもないかのように彼女は炎の中、ぬらりと立ち上がる。

 眼鏡を砕き、髪をくくっていたゴムを解き、わしゃわしゃと自らの頭を掻きむしった。

 彼女が笹崎に突っ込んだ。徒手空拳である。見えないジャブを笹崎も彼女も打ち合う。一瞬組みついたかと思えば、笹崎が膝蹴りを彼女の顔面に打ち付けているのだ。頭を逃げないように掴んでいる。勿論加減されているようには見えない。何回も何回も。倒れるまで蹴りこもうとしているのだ。

 それを彼女は笹崎を強引に持ち上げ、地面に叩きつけた。笹崎は地面に抑え込まれる前にうまく逃げた。遅れて彼女の踏み蹴りが空振りにおわる。ちなみに、彼女の踏み蹴りは校庭のグラウンドを無残にするほどの威力だ。彼女は逃げようとする笹崎を逃がすつもりは無く、踏み込んで蹴りに繋げる。今度は笹崎が吹き飛ぶ番だった。

 彼女は畳みかけようとしたが、パッと理性が戻った。流石にこのまま突っ込んだらやり過ぎになるだろうと自制心がはたらいたのだ。そんな彼女は先程から、傍から見れば表情がころころと変わっていた。ときおり申し訳なさそうな表情から、感情をむき出しにした狂喜をはらんだ不気味な表情に変わるのだ。

 笹崎は武器召喚を完成させた。八幡が知っている武器ではない。聖騎士のような鎧も身に着けていた。明確された召還武器だ。召還武器の中でも上位だ。


「ようやく対等だ。どう出るかな。以前は力と技の対決って感じだったんだけど」


 笹崎は明らかに彼女の攻撃を警戒している。距離を取り、最小の動きで彼女の攻撃をいなそうとしている。彼女のけん制の攻撃を裁くので必死だ。隙をみて、どうにか小さく攻撃をしているのだ。笹崎は体当たりを受けて、八幡たちのところまで吹き飛んだ。

 見るからに大きな隙だ。しかし、いつもなら場外に追いやったならばそのまま突っ込んでくるはずだが今回はそうではなかった。彼女は眼を見開くような歪んだ表情だが、歯を食いしばったかと思うと、一度目を閉じて深呼吸した。そこを笹崎が反撃とばかりに斬りかかる。彼女は前屈みになる体勢で回避し、そのまま投げ技に繋げ、柔術といった間接技で制するのだ。


「ありゃ? 戦い方、変えやがった? ここからヒートアップすると思ったのに。柔術はザッキーの苦手分野だ。長田のやつ、何かあった?」


 魔法を幾発も笹崎は放った。彼女は致命傷になる魔法だけをさばき、それ以外は受けきって笹崎に迫った。


「長田に魔法勝負仕掛けてる時点でザッキーは終わりだ」


 動画を撮っている友達の言う通り、笹崎は彼女の魔術で飛び出した鎖に捕まって動けなくなった。

 そこで先生が乱入した。審判をしている先生ではない。別の先生だ。


「このど阿呆!! またやりやがったな!」


 先生は彼女と笹崎に駆け寄り、怒鳴り散らした。この先生直々に、一年生の頃から「お前らは戦うな」と言いつけられてあったらしいのだ。


「お前らはまた俺の給料減らす気か! 戦う度に大怪我しやがって! 鼻血たらしながら殴り合ってからに! それに長田! 腕が折れてるじゃないか!」


 彼女の右腕は、変な方向に向いているのだ。彼女は戸惑い焦った表情で「私は大丈夫です! 私は大丈夫です!」と言うのだ。


「ほら!」


 彼女は腕をつき出した。半袖の体操服。彼女の肘より少し先の腕は、関節ではない所から歪んでいた。

 その瞬間、彼女の腕の皮膚が裂けた。筋繊維が剥き出しになり、そこから骨らしきものも飛び出した。

 ぐちぐちと音を出し、彼女の骨と肉はうごめいた。そしてまた彼女の腕に肉と骨は収まり、何事もなかったかのように綺麗な腕となった。

 彼女は手のひらを握ったり開いたりして見せて「治った」と主張するのだ。


「おえええ!」


 情報通を気取る友達が彼女の腕を見てゲロを吐いた。

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