ダンボール箱と青い空
私はダンボールの箱の中にいた。
狭い――狭いダンボール箱の中。
いつのまにか身動きがとれなくなってた。
ときおり覗くのは、閉じた箱の隙間から射し込む陽の光。
どこまでもどこまでも揺られて、私はただぼーっとしていた。
――身動きがとれなくなったのは、いつだろう?
それは、遠い昔だったような気もするし、つい最近だった気もする。
視界が開けていて、ただ、私の前には広く長い道とそれを照らす光が存在していた。
見えない明日に、うきうきどきどきして、それでも、ときおり怯えていたりもしたけれど。
幸せすぎてわからなかったくらいの。自分の幸せ――
ガタン!
ダンボール箱が大きく揺れる。
ここは、外の様子が見えなくて、怖い。
出して。出して――
ダンボールの壁を掻き毟る。
それは、本当にそこにあるのかないのか、よくわからない。手応えがない。
大きな揺れと、流れてくるものはかすかな音楽。
あぁ、懐かしい……。懐かしい音楽、懐かしい日々。
目を閉じて、日々を思い返した。
私を捕らえているものは、ダンボール箱――? それとも――
暗がりばかりのダンボール箱。
静かに目を閉じた。
さらなる暗闇に、少しだけ安堵した。
私を捕らえる暗闇は、私自身?
それならば、私はこのまま目を閉じていたい。
暗闇に身を投じていたい。
このダンボール箱が私自身なら、これは、私の心だから。
心を護る、唯一の殻だから。
――ダンボール箱の天井の向こう側には、青空が広がっているのかな?
そうだと気づいていても、私はまだ出られない。
それは怯えているから。
――このままどこへ行くのだろう?
突然、どこかへ放り出された。
大きく揺れたダンボール箱。
ひっくり返って体をしこたま打ちつける。
ここはどこ?
私はこのまま死ぬのだろうか?
蓋を開ける勇気はない。
死ぬのなら、このままなにも知らないまま死にたい。
ガサッ!
ダンボール箱の蓋が、誰かの手によって開けられようとしていた。
怯えた私は、その腕を力いっぱい掴んだ。
それでもその腕の力には敵わなくて、蓋は開けられてしまった。ダンボール箱の天井はなくなった。
ダンボールの暗闇ばかり目が慣れていた私には、一瞬、眩しすぎてわからなかったんだ。
過ぎ去った日々を、それからの怯えすぎていた日々を――
開いたダンボール箱の外側。
それは、きっと、明るい世界。
だって、開いたダンボール箱の向こう側。最初に目に入ったそれは――
遠くて高い、青い空だったんだ。