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魔法少女だった  作者: az
2/3

蝶々は斜め上を飛行中

 自称『時の妖精せろっこ』は言っていた。

『やえちゃんだけがその未来を変えられるっぽ』

 だから、自分が魔法少女まくあにならなければ済む話なのだと勝手に思っていた。なんで素直にその台詞を信じたのだろう。まさか水守雪乃が魔法少女になるだなんて予想だにしなかった。

「やえちゃん?」

 掛けられた声にはっとし、慌てて差し出された手を握る。

「これで私たち友達ね」

 とろけるように笑う彼女に、わたしは開きかけた口を閉じた。

 ちょうど鳴ったチャイムに救われた気持ちになりながら空想する。水守雪乃に真実を語った方がいいのではないか。いや、信じてもらえるだろうか、そもそもうまく説明できる自信がない。そんなわたしを目敏く先生が見つける。

「三室さん。問6ね」

「えっと、わかりません」

 わたしは潔く答える。正直、初日の授業はチュートリアルみたいなものだから全く聞いていなかった。先生はわざとらしく嘆息し、次に水守雪乃を指す。わたしはまた授業から意識を外して雲を眺めた。

 思考がまとまらない。ぐるぐる、ぐるぐる。

 

 休憩に入って、水守雪乃は体調不良だとかいう男子の付き添いで保健室に向かった。わたしは理科の教科書とノートを取り出して顔を上げた。

 何故か、目の前に伊藤タクミがいる。何故か、王子様オーラ全開でわたしの机の前に立っている。取り巻きの女子グループからの熱視線が痛い。目からビームが出るんじゃないかと思うぐらいの苛烈さだ。わたしは反応できず、無言で伊藤タクミ君を見た。うわ、睫毛長い。少し女としての尊厳にダメージ。

「三室さん、今日何だか忙しないね。どうしたの?」

「は?」真顔で返してしまった。

 伊藤タクミ君は無視して進める。

「悩みがあるなら相談に乗るけど」

「いらないけど」

「そう……」

 沈黙。

「あ、自己紹介がまだだったね。僕は」

「知ってるけど」

「そう……」

 沈黙。

 そういえば、記憶の中の三室やえ(わたし)は伊藤タクミとそれなりに話す仲だったことを思い出す。クラスの中心にいる彼と、元気のいい記憶の中の三室やえ(わたし)はそれなりに相性がよかったし話題もあった。今はない。

 無言での伊藤タクミとの見つめ合いに冷や汗が吹き出しそうになった頃、三室雪乃が教室に帰ってきた。それに気づいた伊藤タクミは気まずそうに「それじゃあ」と立ち去る。女の子たちの痛々しい視線もやっと外れる。

 彼女は訝しげにとぼとぼと席に戻っていく伊藤君を見た。

「伊藤君と何話してたの?」

「単なる挨拶だよ」

「ふぅん」

 そういいながらも水守雪乃は彼にあまり興味がなさそうだった。

 何だったんだろうと先ほどのやりとりを反芻する。正直わたしは伊藤タクミと釣り合うようなスペックではない。もしわたしに興味があるなら昨日の時点で会話してたはずだ。今日の今更になって声を掛けたのは、そうか、伊藤タクミは水守雪乃と仲良くなりたいのかもしれない。しかし、案外シャイだからわたしという壁を間に挟みつつ少しずつ距離を縮めていく算段か。

 自分の推理に納得してうんうんと頷いた。まぁ、仲良くする気はないので、どうだって良いんだけどね。



 中学二年になってはじめての給食はお子様が大好きなカレーライスだった。もちろん甘口。デザートにみかんまでついていて、男子はうれしそうに騒いでいる。わたしは若干緊張しながら給食に挑んだ。実は、今の人生で誰かと給食を食べるのは小学校以来である。みんなでいただきますの挨拶をした後、机合わせに水守雪乃ははにかんだ。

「あのさ」「あのね」

 声が被って思わず顔を見合わせる。

「水守さんからどうぞ」

「うん」彼女は手にもっているスプーンをギュッと握り締めた。言いづらそうに視線を彷徨わせた後、上目遣いで弱々しく言葉を紡いだ。

「あのね、や、や、や、やえちゃんって呼んでもいいかな」

「え?」

「せっかく友達になったのだし、名前で呼びたいなぁって」

「……いいよ」

 わたしは素っ気なく言った。

「や、やえちゃん」

 どうして水守雪乃はこんなにきょどっているんだろう。記憶にある彼女は、もっと自然だったのに。お陰でなんだか空気が変だ。

「う、うん。わ、わたしもね。な、名前で呼んでもいいかな」

「も、もちろん!」

 お互いどもってしまっているんだけど、何この羞恥プレイ。

「ゆ、ゆき、の」

 水守雪乃、もとい、ゆ、ゆきのの顔はりんごのように真っ赤になってしまった。耳まで色づいていて、よっぽどぼっちだったんだなって思う。でも、それはわたしも同じかも。まだ四月なのに顔が熱くて仕方ない。なんだこれ。あまりの恥ずかしさに、給食に視線を落とした。

「そ、それで、や、やえちゃんは何を言おうとしたの?」

「わたしも同じことを言いたかったの……」雪乃がまぶしくてつい誤魔化してしまう。

「わぁ。以心伝心ね。両思い。やえちゃん、大好きよ」

 とてもじゃないけど、魔法少女まくあについて切り出せる雰囲気ではなかった。

 

 

 結局、何も言えないまま放課後になってしまった。雪乃──もう名前でもどもらなくなった──は今日も塾らしく、放課後は一人で帰宅だ。もっとも雪乃とは帰る方角も真逆なんだけど。

 頭の中を擡げるのは、魔法少女まくあのはじめての戦いだった。

 幾度となく繰り替えした中学二年生は、夏ぐらいまでほぼ同じ未来だが、時間が進むにつれてだんだん分岐してゆく。天気予報と同じく近しい未来はある程度決まっていて、遠い未来ほどいくつもの選択肢があるってことなんだろう。

 最初に魔法少女まくあが活動する場所は分かっている。だけど、もうあまり関わりたくないのも事実だ。

 ──いいじゃない、わたしはもう部外者なんだから。どうせ、記憶の中の三室やえ(わたし)と同じく水守雪乃の魔法少女も敗北するよ。世界は平和なままだ。

 ──言ったって信じてもらえないよ。あたまおかしいって言われるだけで終わっちゃうよ。

 ──それでもわずかな可能性に賭けて真実を教えた方がいいんじゃないのか。犠牲を出さずに終わればみんな救われるよ。

 ──今日仲良くなった同級生の言葉を雪乃が信じる可能性があるって考えてんの?

 ──雪乃は死ぬよ。黙ってるの。

 ──わたしが後悔しないならそれでいいよ。

 ──たとえ信じてもらえなくても、止めようとするぐらいはできるよ。

 なんでわたしこんなにも悩まないといけないんだろう。



 三室やえの夢を見る。無邪気だったあの頃の出来事だ。

 自称『時の精霊せろっこ』と出会い魔法少女まくあとなることを選択した日、白い真綿はふかふかと浮きながら言った。

「じゃあ、落ち着いたようだし、魔法少女まくあについて説明するぽよ」

「うん」

 あたしはパジャマ姿でくまのぬいぐるみを抱きながらベッドに座っている。

「魔法少女まくあの使命はズバリ、≪くろのブレスレット≫にマナを集めることっぽ」

「マナ?」

 ゲームやまんがで聞いたことがある単語だった。

 自称『時の精霊せろっこ』は頷く代わりに空中を器用にころころと転がった。

「マナは、魔法の素っぽ。マナをブレスレットにためるっぽ」

「ためたらどうなるの?」

 かつてのわたしは手につけているブレスレットを見た。鈍色の石が連なっているシンプルなデザインだった。あの時ブレスレットに手を翳したら青白い光を放ち、収束したときにはもう己れの手首についていた。繋ぎ目はないし、ゴムのようにも伸びないので、どうやって外したら良いのかわからない。緩い校則で、このぐらいのアクセサリーは許されていたので、まあいいかと深く考えるのを止めた。不思議なブレスレットである。

「マナが集まると、精霊石が光ってくるっぽ」

 精霊石というのは、きっとこの鈍色の石なのだろう。

「精霊石が全部輝いたら、世界を救う大魔法が使えるっぽ」

「大魔法?」

「時の裂け目をふさぐ、強大な魔法っぽ。魔法少女まくあのみが使える、世界を救う唯一の魔法っぽ」

 時の裂け目というのは、きっと空にあった亀裂のことだろう。その所為できっと各地で災害や戦争が発生してしまうのだ。確かに、自称『時の精霊せろっこ』に強制的に見せられた終末は空の割れ目が大きくなるにつれ、厄災が広まっていったように思う。

「わかった。がんばる。あたしだけが、世界を救えるんだよね』

「そうっぽ。やえちゃん、がんばるっぽ」

 色々ありすぎて頭がいっぱいだった。新しい綺麗な友達、雪乃ちゃんのこと、奇妙な白い綿の生物のこと、ブレスレットのこと。

 一息つくと急に睡魔に襲われて朦朧とする。

「うん、でも今日はもう遅いから明日でも大丈夫かな」

 自称『時の精霊せろっこ』は了承した。

「じゃあ明日ね」なんてつぶやきながら三室やえ(あたし)は夢へ旅立つ。


 次の日は帰宅してすぐに眠ったので寝不足対策もばっちりだ。人が寝静まった頃、自称『時の精霊せろっこ』と出会った近所の公園に来た。

 今から早速魔法少女まくあになるのだ。

 街灯がチカチカと点滅している。

「じゃあ、どうすればいい?」

 白の毛むくじゃらはふわふわと周囲を飛んでいる。

「やえちゃん、これから魔法少女まくあに変身するぽ。≪くろのブレスレット≫に語りかけるぽ」

「うん」

「続けるぽよ。『command transform』」

「え」

「『command transform』ぽ」

「こ、コマンド、トランスフォーム」

「……」

「……」

 何も起こらなかった。

「発音が悪いぽ。もっと流暢に言うぽ。『command transform』」

「こまんとらんすふぉー!」

「もう一歩ぽ。repeat after me! 『command transform』」

「『command transform』」

 今度こそブレスレットは青白く輝いた。その光はあたしの全身を包み込む。ほんのりとした暖かさに目を閉じて光を受け入れる。

「成功ぽ。魔法少女まくあの誕生ぽ」

「やった!」

 あたしは飛び跳ねた。早速変身後の姿を確認するため、公園の泉を覗き込む。夜は噴水が止まっているため、きっとよく見えるはずだ。

 うん、よく見えた。

「なんじゃこりゃー!」

 水面に移っている自分の姿は、普段着のパーカーとスカートから一変してとてもファンタジックな恰好になっていた。肩にリボンのついたタンクトップぽい服の上にささやかな胸を少しでも強調しようとするブラジャーぽいものがかぶせられている。ふりふりのミニスカートにニーハイソックス。全体にレースをあしらっていて、殿方の夢がつまってそうな恰好だった。しかし、あたしが叫び声をあげたのはその魔法少女ちっくな姿ではない。むしろ、女の子の憧れを、魔法少女たる姿を全て台無しにしてしまうような、顔半分を覆うバイザーだった。

「ねぇ、せろっこ。これいったい何よ」

 無機質に反射するバイザーを指差して三室やえは尋ねる。表情はバイザーが隠してしまっているが、への字に曲がった唇と嫌そうな声から、あたしが不満だということがありありとわかるだろう。

「魔法少女まくあ、それは世界最強のマジックアイテムぽ。じっくり観察するっぽ。なにか気づかないぽ?」

 言われたとおり、魔法少女まくあとなったあたしはじっと周囲を観た。どことなくカラフルな煙のようなものが地面から湧き上がってくる。焦点を当てると、矢印と数字が現れた。

「これは?」

「地面から湧き上がるマナが見えるはずっぽ。マナの強さが数字で出るようになってるぽ。ニンゲンがみえないマナを視覚できるようにするすばらしいアイテムぽ」

「これで、マナの強いところを探せるってわけだね」

 バイザーの恰好悪さはすっかり頭から抜け落ちた様子で彼女はなるほど、と頷いた。

「それだけじゃないっぽ。敵が現れた時に相手をスキャンして情報を教えてくれるんだっぽ。便利アイテムなんだぽ」

「へぇ」

 敵? と頭にクエスチョンマークを浮かべながら、あたしは相槌をうった。

 何はともあれ、この瞬間から三室やえは世界を救う魔法少女まくあとなったのだ。かっと目を見開いて、両手を広げ大きくスライドした。

「悪を切り裂く華となる、可憐乙女ここに誕生! 魔法少女まくあ見参!」

「色々ダサいし痛々しいぽ……」

 一陣の風が吹いて、あたしはポーズをそっと解いた。


「それで、何すればいいの?」

「空を飛ぶぽ」

「飛べるんだ!」

 あたしは急に楽しくなった。誰だって子供の頃一度は空を飛びたいって思う。あたしも例に漏れない子供だった。それが叶うんだ。

「自分の身体を浮かせるイメージぽ」

「うん!」

 恐る恐る自分の身体を空に持ち上げるように想像する。腰のあたりを軸にするように、そっと……。足が地面から浮いたのが分かった。

「浮いた!」

「そのまま空に行くぽ」

 自称『時の精霊せろっこ』の言葉のまま、あたしはぐっと上昇した。コツをつかんでしまえば簡単で、まるで空を手に入れた気分になる。白い真綿はあたしが満足するまで空中遊泳についてきてくれた。

 小さい街だけど夜景は綺麗だった。大地から溢れるマナが風に乗って流れる様はとても幻想的だった。やっと魔法少女になったんだって実感が沸く。世界を救う代わりのご褒美、うん、いいかも。

 ぐるっと街を一周し、あたしは公園の上で止まった。そこでやっと自称『時の精霊せろっこ』が言う。

「バイザーでマナの集まっている場所を探すぽ。空ならよく見えるぽ。見つかったらその地に降り立って、マナを≪くろのブレスレット≫に移すぽ。これをひたすら繰り返すぽ」

 あたしはその言葉に、一気に微妙な気分になった。

「なんか、魔法少女って地味だね……」

 華々しさなんてなかった。



 街を巡る中で、マナの一番強いところは見当がついた。魔法少女まくあはそこに向かってまっすぐに向かう。鳥居をくぐると、膨大な量のマナが溢れ出るのが見えた。

「せろっこ、どうやってマナを移せばいい?」

「それはっぽ……、敵っぽよ」

 自称『時の精霊せろっこ』は敏捷な動きで魔法少女まくあの右に出る。白い真綿へ視線を向けると、バイザーに新たなメッセージと矢印が出た。≪enemy:unknown>>。

「戦うっぽ。魔法少女まくあ、てのひらに意識を集中させるっぽ。『command attack mode』と言うっぽ」

「え? え?」

「はやく!」

「こまんど、あたっもーど」

「発音が悪いぽよ。『command attack mode』」

「『command attack mode』」

 てのひらに光の玉が輝き、それは細長くなってスティックになった。バイザーの隅っこに≪attack mode≫、≪residual energy:982,461≫の表示が出てくる。

「何これ」

「魔法少女まくあの戦闘モードっぽ。そこに表示されているエネルギーがあるうちに早く敵を倒すっぽ」

 敵なんて聞いてない。だけど、尋ねられる雰囲気ではなかった。畳み掛けられる言葉に焦りながら従う。

「≪くろのスティック≫を振るうっぽ」

 敵の姿はまだ見えなかったが、バイザーの示す方向にスティックを振るった。

「えい」

 ずごーん、と音がして御神体の樹に穴が開く。砂煙がもくもくと上がる中、≪enemy:unknown>>の表示は≪enemy:ヤヒロ>>と≪enemy:ウトイ>>に変わった。

 軽い発砲音がいくつも聞こえる。全身に何かが当たる感触がするが、全く威力を感じなかった。

「魔法少女まくあは戦闘モード中は無敵っぽ。だけど、エネルギーがなくなると戦闘モードが解除され、ダメージを受けるようになるから気をつけるぽ」

 つまり、≪residual energy:982,460≫が0になる前に方を付けなきゃいけないってわけだ。

 砂煙の中から現れたのは、鱗でびっしりの人型と、ぼこぼことした茶黒いイボで被われた醜悪な化物二体だった。

「魔法少女まくあ、いくっぽよ」

「う、うん……」

 こうして魔法少女まくあは初陣は始まった。




 魔法少女まくあと怪物の戦いは人知を超えた分野だ。何度も敵と戦って知っている。双方の攻撃は十分殺傷能力のあるもので、下手すると街ごと壊滅できるのかもしれない。

 わたしはベッドに寝っ転がって、くまのぬいぐるみをかき抱いた。

 決めた、このまま知らないふりをする。だって、自分が死ぬ可能性があるから。そう考えると心もぐっと軽くなった。わたしは臆病者なのだ。もしわたしが関わると自身を危険に晒すことになる。それじゃ、一体何のためにわたしが魔法少女まくあにならなかったのか分からない。そうだよね?

「おやすみなさい」そっと瞼を閉じる。

 すぐに眠りが訪れないのはわかっていた。今日あった出来事が脳裏に浮かんでは消える。ぎゅっとつかんだ雪乃の手が温かかった。「友達ね」なんて心底うれしそうに微笑む彼女が思い浮かぶ。

 もし水守雪乃が記憶の中の三室やえ(わたし)と同じ絶望の果てに死ぬとしたら……。

 

 ──魔法少女まくあにわたしは関知しない。雪乃ちゃんに不幸が訪れる。それでも雪乃は友達でいてくれる?

「いいよ」雪乃はやさしく微笑むという確信。


 がばり、と起き上がった。パジャマから黒色のパーカーとスカートに着替える。

「もう」

 雪乃が死んだら後味が悪すぎる。だって、もうわたしと水守雪乃は友達になったのだ。それに、記憶の中の三室やえ(わたし)の親友でもある。友達が不幸の道を歩む前に止めるのが友情だ!

 わたしは挨拶も忘れて家を飛び出した。向かう先は、街外れの山にある神社、魔法少女まくあの初陣の舞台だ。もしかしたら昨日のうちにあそこのマナを奪ってしまっているかもしれない。だけど、わたしは自分の記憶に賭けた。


 全力疾走をしてたどり着いた先では、もうドンパチが始まっていた。

 雪乃の魔法少女まくあの姿に目を見張る。三室やえの場合は白を基調としたコスチュームだったが、彼女はその逆だ。黒をベースに所々ワインレッドのアクセントが入っている。どこか妖艶な雰囲気で、あのクソダサかったバイザーすらかっこいいものに変わっている。手にもっているのは薙刀だろうか。黒髪を靡かせて武器を振るっている。対峙しているのは八尋君と、意外にも伊藤タクミだ。両手で銃器を構え、魔法少女まくあの攻撃をするどく躱しながら発砲する。それでも、魔法少女まくあの刃が当たりそうになると、八尋君は手のひらから白く光る防壁のようなものを出して張った。

 わたしは動けない。間に入ったら確実に死んでしまうと予想できた。ただ呆然と立ち尽くした。

 突如、悪寒が走った。魔法少女まくあがわたしへと視線を移したのがわかった。わたしも彼女のバイザーに敵として認知されてしまったのだ。

 八尋君と伊藤君もわたしに気づき、揃って驚きから焦りへと表情を変える。

「なんでこんなところにいるんだよ!」

「なんでって」

 理由を言う暇はなかった。刃がいくつも地面に突き刺さる。

「ったい!」

 どうにか避けたと思ったのに、脚に一筋切れ目が入る。

「三室!」

 八尋君がわたしの正面に走ってきた。武器は捨てて、でかい防壁を張る。

「タクミ、一旦引くぞ」

「ああ」

 わたしは考えなしで、完全に足手まといだった。八尋君はわたしをかばいつつ後退する。伊藤タクミも武器を捨て、いち早く撤退した。そんなわたしたちを魔法少女まくあは見逃すつもりのようだった。薙刀こそ構えるものの、攻撃は止んだ。頭の片隅で疑問に思う。こういう時こそ、自称『時の精霊せろっこ』は「今がチャンスぽ」なんて煽ってきそうなものだが……。

「三室、走るぞ」

 八尋君に手首を捕まれ、引っ張られる。わたしは必死に走った。



 息切れがすごい。なにしろ家からずっと走りっぱなしだった。しかも、わたしは普段は帰宅部かつ引きこもりである。時折噎せながら呼吸するわたしの様子に、二人の顔は若干引きつっていた。

 神社近くの公園で、八尋君から冷たい烏龍茶を受け取る。わたしは震える手でプルタブを引いた。一口飲むと、大分落ち着いてくる。

「それで、なんであの場に?」

 八尋春樹は学校と同じ笑顔で訊いてくる。それがどことなく怖い。一方の伊藤君はげっそりと疲れた表情をしていた。

「えっと……」

 魔法少女まくあの敵に素直に話せる訳がない。

「何となく眠れないからコンビニに向かってたんだけど、山の方をみたら何かが光っていて」

 半分だけ本当のことを言った。わたしが神社まで全力疾走したのは、向かっている途中で魔法少女まくあの攻撃らしい光を確認したからだった。

 二人は顔を見合わせた。苦しい嘘だったか。

「なんか、ごめんね。わたし思いっきり邪魔したよね」

 八尋君は首を横に振った。

「いや、もとから敵わない相手だったから機を見て撤退するつもりだった。三室さんは気にしなくていい」

「何より、三室さんが無事でよかったよ」

「……」

 本心かどうかはわからないが、わたしの罪悪感は少しだけ軽くなった。しかし、先ほど嫌と思い知らされたのは、わたしじゃ魔法少女まくあにちっとも太刀打ちできないということである。やっぱり雪乃に直談判する必要があるのだろうか……。何か対策を考えなければいけない。

「……なんだ。それでさ、三浦」

「え?」

 一瞬聞いてなかった。

「いいよね」そう八尋君が続ける。わたしは何が、と尋ねようとして止めた。八尋君の目が笑っていなかったからだ。

 渋々頷いた。八尋君はにやりと唇をつり上げ、伊藤君は乙女なら誰もが膝を付くだろうというぐらいに華やかな笑みを浮かべた。やっちまった感パない。

「ようこそ組織へ」「僕もうれしいよ。一緒にがんばろうね、三室さん」

「はぁ?!」

 いつのまにか、敵だった組織に入会したことになってしまっているんだけど。バタフライ効果すごい。

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