少年、帰還する
現在体調不良とそれに伴う治療の為、さらに不定期な更新となっております。
突如として現れた女性は明るい口調で僕へと声をかけてきた。
「あ、ありがとうございますっ!」
目の前の女性へとお礼を言い、再び周りを確認し安堵の笑みを浮かべた。
さっきまで下卑た笑みを浮かべながら襲いかかってきていたゴブリンはもう居ない。
目の前の女性に助けて貰ったことを理解すると、嬉しさと安心感から自然と身体の力が抜けてしまった。
「さあ、立てるかな?見たところ東国から出て来たばかりの初心者だろうけれど、街まで送っていこうか〜?」
女性は僕の様子を伺うように少し首を傾げる動作をしながら聞いてきた。
「お願いします……今日来たばかりで此処が何処かも分からなくて……」
恐縮する思いはあったものの、このまま1人にされても右も左も分からない。
さっきみたいな目に合うのは今日はもう懲り懲りだと思い、女性の提案に甘えさせてもらうことにした。
「あはは、あるある。森なんかは迷っちゃうよねっ!よーし、うちが案内するからついといで!」
僕はなんとか震えが治まった身体を起こすと女性の案内に従って歩き出した。
彼女の名前はイオンというらしい。
このゲームを一年程前から続けているようで、今日はたまたま森の中へと素材を採集しに入ってきていたそうだ。
目ぼしい物を探している時、森の中を移動する音やコブリンの声などを聞きつけ駆けつけてくれたらしく感謝してもしきれない。
「当然のことをしたまでさっ。まあ、どうしてもと言うなら何か使えそうなものを拾ったら持ってきてよ〜何か作るからさ〜」
改めて感謝を述べ、何かお礼をした方がいいんじゃないかと尋ねたが彼女はそう言った。
それからも歩きながら最初はどんなモンスターが倒し易いか、今日のような厄介な敵はどの辺りに出現するのか、街ではどんな所を活用すると良いか、等の話をしてくれた。
話しながら歩いていると東国の門が見えてきた。
「あっ、着いた……‼︎」
迷ったことが嘘のようにイオンと歩いているとすんなり街へと辿り着くことが出来た。
「これで一安心ね。今日みたいなことがあるといけないからお姉さんから一つプレゼントをやろうっ‼︎」
「……紐、ですか?」
イオンが服のポケットから取り出して僕に渡したのは一見何の変哲もない紐であった。
彼女の髪の毛と同じような透き通るような金色で、何重にも編み込まれたそれは現実でいうミサンガのような物であった。
「ML≪マジックリンク≫って言ってね、コレを身体の何処かに身につけておけば離れていても連絡がとれる魔法のアイテムさ〜」
「えぇっ!? そんなもの貰っちゃって良いんですか?高かったりすんじゃ……」
「大丈夫っ!さあ、付けてつけて‼︎」
急かされるまま貰ってしまった。
僕は紐を右の手首へと緩く巻きつけることにした。
「おぉ、似合ってる似合ってる〜!やっぱり若い男の子はなんでも似合っちゃうねぇ‼︎」
「そうですか?ありがとう、ございます……」
お世辞であるのだろうが美人に屈託の無い笑顔で言われると少し照れてしまう。
「照れてるの〜?可愛い奴めぇ‼︎」
そんな事を察したのか彼女が僕の頭をガシガシと撫でながらからかい始めた。
僕と比べるとイオンの方が背が高いためされるがままになってしまう。
「……何をやっている」
イオンの可愛がりがエスカレートとしようかという所で僕らへと声がかけられた。
声のした方を振り返ると、深い赤色の髪を無造作に切り揃えた流し目の美丈夫が立っていた。