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少年、新たな出会い

「……ッ!?」


 まずい、このままでは……!

僕は頭の中で必死に次の行動を考える。


剣を振りかぶった状態の僕へと下から潜り込むようにしてゴブリンが短剣を突き立ててくる。


剣を戻して……いや、この重さの剣をそんなに早く戻せない、なら、どうやって……。


思考を巡らせる時間は僕には残されてはいない。

ゴブリンの持つナイフは僕の顔面へと無慈悲に切り込まれた。


「痛ッ……!!」


 迫り来るナイフへの恐怖から反射的に身を逸らすことが出来た。

しかし、ゴブリンの攻撃は僕の肩を深々と切り裂いた。


このゲームには僅かながら痛覚が存在している。

実際にゲームの中に入り込むというのに感覚が無ければ、何処にどんな物が触れたのかがリアルに伝わらないからだ。

より本物らしくこの世界を味わってもらう為のシステムなのだろう。


 肩を走る痛みに僕は歯を食いしばる。

耐えられないような痛みでは無い。

紙の端で指先を切ったような、身に染みこむようなじんわりとした痛みが肩から伝わってくる。


だが実際に迫り、突き立てられた刃物の恐怖は本物だ。

あれが、本物だったのなら……と考えると身体の体温が急激に下がっていくのを感じた。


「ウアアァッ!!」

 

「ギャッ……!?」


 目の前でナイフを突立てているゴブリンの腹へと僕の膝蹴りが入る。

体格差もあり、大剣を振り切った体勢から放った右脚の蹴りはゴブリンの胴体を見事に捕らえた。

頭で考えた行動ではない。

数瞬前に体験した恐怖から、今目の前にいるこの生き物から早くと離れたかった。


現にとっさの行動で、唯一の獲物であった大剣から手を離してしまった。

少し後ずさったゴブリンであったが、蹴りではたいしたダメージを与えられていないのが見て取れた。

それどころか、血走った瞳を憎々しげに見開いている。


 恐怖。

その姿から僕が感じたのはソレだけだ。

いつもは、いつものゲームではゴブリンなんて序盤からだって適当でも勝てるような敵だ。

なのに、このゲーム、Re:Dream.では違う。


実際にモンスターを目の前にして、コントローラーではなく実際に手足を動かして戦うだけで

こうも違うだなんて。


目の前にいる蛮族の血走った瞳を見るだけで膝が震える。

僕に何かを訴えかけるかのように肩の痛みを強く感じ始める。


これ以上戦うのは、無理だ……。


「ぐぅ……大剣……くそー!!」


 僕はゴブリンへと背を向けて走り出した。

その場に大剣を置き去りにして。


置いてきてしまった未練はあった。

しかし、あの場から拾い上げ、尚且つ背負って逃げ切れるとは思えなかった。

入り込んでしまった森を抜けるため。街の門を目指して一刻も早く、一秒でも早く。


時折背中を走る痛みを感じた。

ゴブリンの振り回すナイフで切りつけられているのだろう。


その後ろから迫る恐怖も、僕とゴブリンの歩幅の違いから僅かではあるが開き始めていた。


「……逃げ切れそうだっ!よし、このまま……あれ?」


 必死に森を逃げていた僕は森林を抜け、草原へと飛び出した。

だが、どこにも東国へ入るための門が見当たらない。


どうやら森を走っているうちに東国の側ではない方向へと走ってしまっていたようだ。


「なんで……」


 なんでこんな時に道を間違ってしまうんだ。

なんで初めてフィールドに出て、初めて冒険をした時にこんな目に遭わなければいけないんだ。


色々な想いが渦巻き僕の言葉は途中で途切れた。


後ろから草木を踏みつける音が近づいて来る。

諦めと疲れから僕は、その場へ膝を突いてしまう。


もう、好きにしてくれ。



「もうっ、走り回りすぎー」


 投げやりな気分になり、あとはゴブリンに嬲り殺されるだけだと座り込んでいた僕に声がかけられた。


その声は少し低めで、何処か人をからかうような響きを含んだ女性の声だ。

声はゴブリンが来るであろう僕の後方からかけられた。


「えっ、誰か居るの……!?」


 今までこの森では誰ともすれ違わなかった。

声の主に驚き、あわよくば助けてもらえるのでは?と思い慌てて後方を振り返る。


ゆったりとした薄灰色のローブを身に纏い、顎の下辺りで綺麗に切り揃えられた金髪。

頭頂部辺りにはピンッと張った狐のような耳が生えたている。


その美しい容姿と反して右肩にクロスボウを担ぎ、僕から少し離れた場所に女性が立っていた。


「貴方のハートを狙い撃ちってね~。ヒーロー登場っ!もう大丈夫さー!!」


そして彼女と僕の間には、さっきまで僕を襲っていたゴブリンが頭に矢を受けて倒れていた。



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