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少年、クエストを受ける

御観覧、御感想、ブックマーク等々、大変励みとなっております。

これからも宜しくお願い致します。

 あれから僕は街を見てまわった。

様々な人々が行き交う街の中を歩いていると、ここがゲームの世界だということを忘れてしまう。


街の一角、城壁に沿った広い通路にはNPCやプレイヤーと思われる人々が敷布や天幕を張って露店を出している。


武具やアクセサリは勿論の事、料理や家具まで扱っている店などが広がっている。



「ちょいと、そこの坊っちゃん!ほら、でかい剣もってる坊っちゃん!」


 辺りを見回して目を輝かせていると何処からか声をかけられた。


もしかして僕だろうか?と後ろを振り返ると、天幕が張られたある露店から笑顔でこちらを見つめ手招きをしている壮年の男が居た。


日焼けして黒くなっている肌に、剃り丸められたに逞しい黒髭が生えている顔。

腕は僕の胴回りほどあるのではないかと思うほどに逞しい。



そんな男が笑顔で手招きをしていれば誰だって逃げ出したくなるだろう。

現に凄く逃げ出したい。

あぁ、無用心に視線を合わせてしまうなんてと少し後悔の念が僕を過ぎった。


「……あの僕ですか?人違いとかじゃ…・・・」


「いや、アンタを呼んでんのよ。ほらほら、もっとこっちへ!何もしないってぇ!」


顔に似合わず随分とはきはきとしている。

恐る恐るといった体で僕は男の露店の方へと歩み寄った。


「いやぁ、助かった。アンタ見たところ冒険者だろう?ちっとばかしモンスターの皮が足りなくてねぇ。アンタ持ってないかい?」


どうやらこの男は革職人らしく、店先には革鎧からアクセサリ、鞄といった物まで置いている。


「確かに冒険者だけど、まだモンスターと戦ったこともないし、あの、倒せるかも分からなくて……」


男の機嫌を損ねないかと、しどろのもどろになりながら僕は素直に答えた。


「なんだ、そんなことかい。確かに駆け出しだとは思ったが、それは逆に都合が良いってもんだい。モンスターと言ってもソコの門から街を出てすぐに見かけるフォレストラビットの皮で十分よぉ。熟練の冒険者たちにとっちゃ小遣いにもならない額だが、坊っちゃんにとっちゃ十分な報酬は出すぞ」


男の態度は変わらずにこやかに答えた。


「それなら、僕にでも出来る、かも……?」


「おう、できるできる!よっしゃ、なら頼んだ!待ってんぞ!」


「は、はい……」


 半ば強引に頼まれてしまった。

ただ、実際にこの世界の戦闘も早く体験してみたいとは思っていたし、なによりお金も貰える。


ふと、視線を左下へと向けると薄っすらと『革職人からのお願い』という文字が浮かんでいた。

意識しなければ気がつかない、というよりも意識をしたら現れたようだ。

これはクエストなのだろうか?

さらに文字へと意識を集中させると『ウサギの皮 0/5』と出ていた。


では、彼はNPCだったのだろうか。

少々強引だなとは思ったが、会話をしていてもさして違和感がなかった。

しかし、あの逞しい見た目でにこやかに対応されると冷や汗をかいてしまう。


 そんなことを考えていると街の外へと続く門を見つけた。

門の脇には騎士が立っている。

軽く会釈をすると、「冒険者か。危ないと思ったら早めに街へと戻ってこい」と無愛想ながらも忠告をされた。


 僕は再度会釈をすると外へと歩み出た。


そこには少し開けた草原が広がったいた。

少し遠くを見渡せば青々と生い茂る森林が見える。

それが視認できる距離いっぱいに続いているのだ。


まさに大自然といった景色を目の当たりにして僕は息を呑む。


特別美しいといった景色ではないにしても、ここまで緑に溢れ、人の手が入っていない土地が現実に早々あるだろうか。


(ゲーム、なんだよね……?凄いなぁ、凄い……)


 広大な世界の一片を垣間見て呆けていた僕の目の前を何かが過ぎった。


「ん……?あっ、アイツか」


何だったのかを確認するため視線を動かすと、すぐにその正体は明らかとなった。

僕に背を向けてピョンピョンと飛び跳ねながら移動をしていく動物が一匹。


灰色の毛並みを持ち、現実の兎とにたような姿。

あれがフォレストラビットだろう。


「よし、記念すべき最初の相手は……お前だぁ!」


 僕は背負っていた大剣を外すと両手で構え、刃先を斜め下へと下げて走り出した。

突進力を乗せた上段切りが、叫び声と共にこの世界での最初の獲物へと、今放たれた。

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