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少年、無茶な武器選択

 騎士の後について部屋を出た僕は石造りの建物内を歩んでいった。

どうやら此処は東国の街を覆う城壁の内部らしい。


城壁の内部には様々な物資の倉庫から騎士たちの駐在所となっているようだ。

僕が最初に居た部屋もそんな部屋のひとつであるようだ。


 最初の部屋を出てからしばらく進んだところで、騎士は一つの扉の前で立ち止まった。


「此処は武器庫だ。予備の武器や新米騎士たちの使うものしか置いてはいないが、その方が貴殿も扱えるものがあるだろう」


騎士はそう言うと武器庫の扉を開けた。


「うわぁ……凄い……」


「さあ、遠慮せずに好きな物を手に取るといい」


僕の目の前に広がるのは武器、多種多様、簡素なものからマイナーな獲物等、直ぐには選べない量であった。


ネットの画像データなどを目にするのとは違い、実際に手に触れられる武器を目の前にして僕は興奮した。

男のロマンというものなのか、この武器を使いこなす自分を想像すると胸が高鳴るのだ。


目を輝かせて辺りを頻繁に見回す僕を見て、騎士の男が笑っているのに気付く。

僕は少し取り乱してしまったと反省する。

恥ずかしさから熱を灯した顔を誤魔化す為、明後日の方向を向くと一振りの剣が目に入った。


「あっ、クレイモア……?」


「むぅ、大剣か。貴殿には少々重いかもしれないが……」


 騎士は悩ましげな表情をしながらも壁にかけられていた一振りの大剣を手に取ると実際に構えて見せた。


「刀身は1m弱の直剣といったところか、比較的細身であるから貴殿にも使えなくもないと思うが……」


騎士が構えているということもあり、その大剣はいかにもつわものの武器といった雰囲気を漂わせている。


(やっぱり憧れちゃうよなぁ、大剣って)


強大な武器を振り回して敵を圧倒する、というのは抗いがたい魅力を感じるシチュエーションである。

自分でソレが出来るか?

と言われたら今の段階では無理だというしかないし、現実的に考えると体格面でも向いているとは言えないだろう。


 しかし、思い出して欲しい。

この世界は僕ら冒険者にとってはゲームなのである。


例えばゲームを始めたばかりの巨漢と幼女が居たとすれば、その見た目の体積に違いはあれど初期能力値に大きな差はないのだ。

これは現実の身体に近い状態で遊ぶことが殆どとなる現状、プレイヤー間の力の均衡を保つ為の措置であるようだ。


勿論、仲間を護る盾となる時には身体が大きければ有利となるし、斥候や回避行動の際には身体が小さいほうが有利となる。

その辺りはプレイヤー側が己のポテンシャルを理解し、どのように活用していくかが試される部分であろう。


話を戻すと、頑張ればこの大剣を僕は扱うことが出来るということだ。


「あの、持ってみても良いですか……?」


「あぁ、勿論だ。細身と言っても基本的には両手で扱うものだ。気をつけるのだぞ」


僕は騎士から飾り気の無い十字架のような剣を受け取る。


「っ……!?」


重いっ!

両手で受け取ったクレイモアの重量に驚き、黒い獣の皮が巻かれた柄を握る手に力を篭める。

辛うじて自分の肩の位置辺りまでは自由に動かせる。


だが、片手ともなると刃先を腰の高さより上へと持ち上げようにも上げることが出来なかった。


「貴殿、大丈夫か?重いのであれば、違う武器を探すことを奨めるが」


「大丈夫です、きっと、使いこなしてみせますから……」


 僕のことを頼りなさそうに見つめる騎士に、僕は頑な態度で返した。


そうだ、スキルが手に入ればきっと使いこなせる。

それに攻撃力だって高いはずだ。

振り回すのが困難だとしても、一発当てれば勝機がある。


「そういうのならば私は止めはしない。新米騎士が無理をするというのならば口を挟むところだが、貴殿ら冒険者は私たちの常識では測れないものであるのだからな」


「すみません。でも、一度こんな剣を使ってみたかったんです……」


「なに、その気持ちは分かる。男であればそのような事に憧れることの一度や二度はあることだ。特に貴殿のような年頃ではな」


呆れの混じった声で、薄く笑いながら騎士は言った。

その親身に相談に乗ってくれている態度に感動を覚え、無茶を通したことを少し申し訳なく思う。


 武器庫から出て行く騎士へとついて行くと、通路へ外の光が射し込んでいる場所へ出た。

アーチ上に石造りの壁が途切れた箇所からは中世風の街並みは広がっているのが見て取れる。

街を行き交う人は多く、騎士のソレとは違う様々な甲冑や革鎧に身を包んだ冒険者風の人々以外にも質素なものから豪奢な装いの街着を着ている人まで様々だ。


「では、武器も決まったようであるし、一度街の様子を見て回ってみると良い。困った時は城壁沿いへ来い。私のような騎士が巡回をしているから声をかけてみることだ」


「はいっ、さっそく街を見てみようと思います!」


「あぁ、貴殿の進む道に幸あらんことを」


僕は胸の前に手を当て敬礼をする騎士に見送られながら街へと繰り出した。


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