少年、はじめての邂逅
「む?やはり新しい冒険者が来ていたか」
扉の先から現れたのは群青色の布地が鮮やかな鎧を着込んだ騎士風の男であった。
「えっと、あの……」
男を前にして僕はなんといったら良いのか分からずにいた。
「そんなに緊張することはない。しかし、次から次へと…・・・不思議なものだな、冒険者とは」
「あっ、ありがとうございます……あの、貴方は?」
困惑しながらも、どうやらこの場に居たことを怒られたりするわけではなさそうだと少し安心しながら答えた。
「私か?私は右も左も分からないであろう新米冒険者たちの案内役をしている東国の騎士だ」
「サポートプレイヤーの方なんですねっ、あの、まだ始めたばかりで……よろしくお願いします!」
優しい人も居るものだと、僕は嬉しくなりその場で腰を折り挨拶をした。
「ぷれいやー?ふむ、何か勘違いしているようだが、私は貴殿ら冒険者と違って、この地で生を受けた者だ。何と言うのだったか……冒険者たちの言葉では『えぬぴーしー』と言うようだぞ」
その言葉に僕は驚愕した。
この流暢に僕と会話をする騎士の男は中に人間が入っていない。
所謂NPC、ノンプレイヤーキャラクターだというのだ。
人工知能が搭載されているとは聞いていたが、その技術力は僕の想像を遥かに超えていたようだ。
「そうだったんですね……僕とあまり変わらないように見えたので……」
「確かに外見的な違いは殆ど無いと言っていいが、私たちと貴殿ら冒険者たちとでは違いがあるのだ」
そう言って男は話を始めた。
この世界で生きるNPC達は簡単に言うと、このRe:Dream.の世界で生きているのだ。
僕らが現実でしているような生活を、この世界で生きているNPCたちは営んでいる。
その一方で冒険者たちはその営みから外れた存在である。
冒険者はこの世界へ生まれた時から今の姿、僕らがキャラメイクをして作られたこの姿で生まれる。
それが異質な存在と糾弾されるのかと思えば、そうではないようだ。
多くのこの世界の住人は冒険者たちを神秘的な存在と認識しているという。
突然として世界へ現れ、己の目的のために行動する。
時には強大なドラゴンや魔物を倒す為に武器を振るい、時には想像もしなかったような出来栄えの品物を作り出す。
この世界の住人から見て神がかり的な行動を起こす冒険者たちは、文字通り神の使いのような扱いだそうだ。
昔から冒険者を題材とした御伽噺なども作られ、突然と現れる僕らに対して『そういうもの』なのだと素直に受け入れてくれるという訳だった。
「なんだか随分と持ち上げられているような気もします…・・・」
そんな英雄的な行動をとった先人たちとは違い、駆け出しの僕としては気後れをする。
いつかはそのような名声を受けてみたいものではあるが……。
「なに、貴殿がこの世界へ来て間もない事は分かっている。その為に、私がこうして此処に居るのだぞ」
そう言って誇らしげに胸に手を当てて騎士の男は言う。
その姿がなんとも様になっていて威厳を放っている。
(カッコイイなぁ……なんていうか、本物の騎士だ……)
「では、私について来ると良い。まずは貴殿に最小限の装備を見繕うとしよう。素手のままでは心許なかろう?」
騎士の男は僕の方を向くと目じりを少し下げた優しい表情で言った。
「はいっ……!ありがとうございます!」
僕は少し前を歩き出した騎士の広い背中を眺めながら、これからの冒険へと胸を馳せながら最初の部屋を出た。