少年、感動に震える
――貴方は夢を叶える権利がある。
学校の帰り道に立ち寄った本屋の雑誌コーナー、その中にあったゲーム情報誌にその言葉はあった。
断言されたソレに僕、清水雅紀は目を奪われた。
どうしても気になった僕は情報誌を手に取り、とあるVR型オンラインゲームの特集記事に目を走らせた。
VR型オンラインゲーム、Re:Dream.
サービス開始から2年が経った今でも成長を続ける、界隈注目のタイトルのようだ。
存在するNPCの全てがAIとして実際に生活する広大な世界をプレイヤーは巡り回ることができ、己の行動の全てが力とする潜在能力システムを宿す。
そして、新たに予想される大型バージョンアップ。
内容は書かれていないが、期待に溢れた記事内容となている。
(でも、お高んでしょぉ~……?)
内容を読んで高揚していた僕の気持ちが急激に冷めていった。
そう、VR型のゲームは従来の家庭用据え置きゲームと比べるとプレイするのに必要な機材費用が高額なのだ。
どんどんと落ち込んでいく中、記事を読み進めていった僕は驚愕した。
サービス開始2年記念と大型バージョンアップを目前に控え、公式が新規歓迎キャンペーンを開始するというものだ。
(えっ……!!嘘、こんなに安く……?企画も公式からだし、これなら!)
僕は驚きのあまり、目を見開き記事にさらに顔を近づけて食い入るように見つめた。
内容はRe:Dream.のソフトデータと新たに開発された安価版VRデバイスとのセット販売であった。
その後の行動は、自分でも驚くほど素早かった。
本屋を飛び出し、ATMから自分のありったけの貯金を下ろすと行ける範囲のゲームショップから大型家電量販店と様々なお店を巡った。
「……やった!」
一軒のゲームショップを出た僕の口から、喜びを噛み締めるように小さな声が漏れた。
やはりVRデバイスが安価で手に入るとあって、品薄状態となっていたが運良く手に入れることができた。
僕は買ったばかりのゲームが入った袋を抱きしめながら家へと走った。
これほどまでに物を買って胸が高鳴ったのはいつぶりだろうか。
「ろぐいん~ろぐいん~♪」
僕は家へとたどり着き、自室へと駆け込むと鼻歌を口ずさみながらデバイスの開封を始めた。
箱から取りだしたデバイスは面頬と瞳の部分を覆うバイザーを合わせたような外見である。
従来の物がヘッドギアタイプであったので、それと比べてしまうと耐久性の面では不安がある。
そしてデータ容量も安価版は心許ないのではあるが、ソフトをRe:Dream.以外は手を出すつもりが無いので値段には変えられないだろうという判断だ。
その以下にも近未来、といった外観に心を躍らせながら装着しソフトデータのインストールを始めることにした。
――ボディチェックケーブルを作動、ケーブル先端に付けられた吸盤を指示された各所へ。
VRデバイスからアナウンスが流れる。
僕はアナウンスに従い、ケーブルを四肢や胴体へ付けていく。
なんだか昔に学校でやった身体検査を思い出す。
――ボディ情報取得、脳波干渉システム起動。瞳を閉じてください。
脳波干渉システム、それはVR型ゲームの最大の売りであるといえる。
これはゲームプレイ時の体感時間を長引かせるものである。
大雑把な時間間隔の違いはリアルで1時間のところを向こうでは2時間に感じるといったものだ。
この画期的な発明は現在、様々な研究機関で利用されている。
この技術をゲーム開発関係者が見逃すわけもなく、今では世界中の多忙なゲームファン達を歓喜させている。
――接続完了、瞳を開け、設定を続行してください。
「お、おぉ~……」
アナウンスに従い瞳を開けた僕は、目の前の光景に驚きから溜め息にもにた声を出した。
ただひたすら青い空間、床も天井も壁すらも無い。
なんだかパソコンのデスクトップ画面へと入り込んでしまったような感じだ。
――RE:Dream. Now Loading.
――ソフトデータ取得、実行。
実行のアナウンスが流れた後、自分の足先に光る文字が浮かび上がった。
――Welcome to the New Dreamer.
ここから僕の冒険が始まるのだ。
そう思うと喜びに身体が打ち震えた。
ディスプレイを傍観しながら進んでいく物語ではなく、僕自身がこの手で掴むことのできる物語がそこにはあるのだ。
これがその第一歩である。
僕はそう思いながら歓迎の言葉が映し出された光の中へと足を踏み出した。