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抱擁  作者: 渡辺志郎
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前編

 五月の、午後から雨が降った日だった。放課後、わたしは友人の由希と真奈美と、涼ちゃんと(とも)ちゃんと教室に残ってトランプゲームの大富豪をしていた。涼ちゃんは涼という名前で、友ちゃんは友一(ともかず)という名前で、二人は男子である。いつもこのメンバーで大富豪をするのだ。

 もともとは、高校一年生の頃にクラスでの席が近かったわたしと由希と真奈美の三人グループだった。グループができあがったあと、学校行事のキャンプがあり、その中で行動班が決められるのだが、その行動班がわたしたち三人グループと涼ちゃんと友ちゃんだったのだ。そうして五人のグループができあがったのだ。それからは学校以外でもよく集まって、由希の家でテレビを観ながら談笑したり、涼ちゃんの家でテレビゲームをしたり、カラオケボックスに行ったりボーリング場に行ったりした。すごく楽しかった。自分が理解されて、逆にみんなのことがわかっていくことも、嬉しかった。由希は考えることが好きで、大富豪とかチェスとかには強かった。涼ちゃんも由希に一目置いていて、逆にわたしと真奈美はあまり考えて行動しないので小ばかにするようなことをよく言っていた。でも悪い感じはしなくて、面白かったから特に気にはしなかった。友ちゃんは何を考えてるのかよくわからないけど、面白いことを言ってよくみんなを笑わせていた。今日も、自分の机の上で二段のトランプタワーを作って、上の段を指して「由希の立場ここ」と言った。次に下の段を指して「理奈と真奈美ここ」と言って、そのあと教室の天井を指して「俺らあそこ」と言って笑わせていた。高校二年生になったときは由希と真奈美が同じクラスだったが、他はそれぞれ違うクラスになってしまった。それでも、放課後や休日に集まるのは変わらなかった。そして高校三年生になり、また全員が同じクラスに戻ってきた。よかった、とみんな安心した。みんな、自分たちの間にある友情を信じきっているくらい、仲が良かったのだ。

 由希が8のカードを出して、場のカードを流した。そのあとにエースを二枚重ねて出した。涼ちゃんが「これはあがるパターンだな」といった。涼ちゃんの言う通り、由希はそのあと2のカードを三枚重ねて出して、8のカードを一枚出して、最後に4のカードを出してあがった。涼ちゃんと友ちゃんは笑いながら悔しがって、わたしと真奈美は感心していた。わたしと真奈美はあまり考えずにカードを出すので、勝敗はほとんど運任せなのだ。たまに勝って大富豪になっても、その次には大貧民になっている、なんてこともよくあった。でも由希は大富豪のままで、その後も勝ち続けた。わたしと真奈美は貧民と大貧民を行ったり来たりしていた。五時半くらいになったところで、みんなで帰ることになった。下駄箱で靴を履き替え、傘を持ってきていなかったわたしは少し強い雨を眺めながら濡れて帰ることを覚悟していると涼ちゃんが、

「俺の傘でかいから、入りなよ」と言って、傘の中に入れてくれた。

 由希が「ラブラブじゃん」とか言って茶化したので、わたしも「そうだよ、ラブラブだよ」と言っておどけて見せたけど、内心は少し恥ずかしかった。涼ちゃんも、いつになく目を逸らして話していたので、それがまた恥ずかしかった。友達相手に、何を緊張しているのだろう。そんな感じのままで、最寄りの駅に着いた。みんなが傘を閉じて、ばさばさと水を弾く。わたしは少し改札へ向かったところで、みんなが来るのを待った。みんなが揃うと、改札を通って下り方面のホームへ向かった。全員下り方面の電車に乗るのだ。電車に乗ってからは、もういつも通りだった。隣の駅で由希と涼ちゃんが降りて、その次の駅でわたしが降りて、友ちゃんを見送った。これでわたしたちの一日は終わりだ。あとは、明日を待つだけだった。

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