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第1話

「今日もいい天気~」


アルコーン王国第三王女、アレクシア・デリア・アルコーンは庭園にある東屋でのんびりと午後のひと時を過ごしていた。四季折々の花が咲き乱れ、木々の木漏れ日の差し込むこの場所は彼女のお気に入りの場所だった。


「アレクシア、またここに居たの?」


声がした方にアレクシアが振り返れば、彼女の兄であるテオバルトが微笑んでいた。


「テオバルトお兄様、どうなさったの?」


アレクシアが不思議そうに声をかければ、テオバルトは困ったような笑顔を浮かべた。


「どうしたのじゃないよ。アレクシア、今日は仕立て屋が来る日でしょ?皆がお前を探してるよ。ドレスを仕立てるのに主役のお前が居なくちゃ始まらないでしょ?」


テオバルトにそう言われて、アレクシアはしまったというような顔をした。


「もう、そんな時間なの?大変、早く行かなくちゃ。お兄様、またね」


駆け出したアレクシアを見送りながら、テオバルトは綺麗な女性に育ったと思った。母親譲りの亜麻色の髪が風に靡きキラキラと輝いていた。アレクシア自身は兄達と違う髪色であることが少しだけ嫌らしいが、アレクシアの可愛らしい容姿には銀髪より、亜麻色の髪の方が似合うような気がした。もうすぐアレクシアの社交界デビューだ。今日はそのためのドレスを仕立てる日。テオバルトはその日が楽しみだった。


アレクシアが部屋に戻るとそこには母と数人の侍女、そして仕立て屋が待ち構えていた。


「遅れて御免なさい、お母様」


アレクシアは母、エルネスタに頭を下げた。エルネスタはしょうがない子ねといった感じで少しだけ微笑んだ。


「別にいいわよ。時間はたくさんあるし。ほら、貴女もこちらに来て布地を御覧なさいな」


エルネスタの前には既に数枚の布地が広げられていた。仕立て屋がニコニコと愛想のいい顔で布地を進め始める。


「最近の流行は桃色やら黄色やらの明るい色合いの物が多ございますが、姫様は髪の色が明るくてらっしゃり、肌も白うございますから、少し濃い目の色合いの方が似合われるかもしれません」


仕立て屋の言葉にエルネスタも頷いている。同じ髪色のエルネスタも濃い目の色合いのドレスを好んで仕立てるので、アレクシアにもその方が似合うと思っているのだろう。


「これなんかはいいんじゃない?」


エルネスタが指し示した布地は深緑色の生地だった。アレクシアの瞳の色と同じだ。


「えぇ、素敵だわ」


アレクシアはそう言ってその布地に触れた。手触りもよく、着心地も良さそうだった。


「それでしたら、その生地に錦糸で刺繍を施し、こちらの白い生地と合わせて仕立てましょうか。うるさくない程度にレースもあしらってもよろしいかもしれませんね」


仕立て屋はそう言いながらすらすらと紙にデザイン画を起こしていく。アレクシアはそれを少しだけわくわくしながら見守った。


「こんな感じで如何でしょう?」


出来上がったデザイン画は流行を取り入れつつも、古典的要素も残して、伝統を重んじる王族が好むデザインだった。


「あら、いいんじゃない?アレクシア、貴女はどう思う?」


エルネスタは気に入ったようだ。アレクシアも促されてデザイン画をよく見てみた。少しだけ、自分が着るには落ち着きすぎているような気がしないでも無かったが、自分に求められているのは歳相応の可愛らしさより、王族としての威厳だと理解しているので何も言わなかった。


「えぇ、私も気に入ったわ」


アレクシアがそう答えると仕立て屋はほっとしたような顔をした。王族御用達であると言っても毎回、この瞬間は緊張するらしい。アレクシアは職人というのも大変だなといつも思うのだ。


「それじゃあ、それを仕立てて頂戴。それから落ち着いた色合いのドレスを後何着か仕立てて貰えるかしら?デザインはさっきの系統で少し手を加える感じでいいわ。この子はこれから公の場に出ることが多くなるから」


「はい。畏まりました。精魂こめて仕立てさせていただきます」


エルネスタの言葉にアレクシアはいよいよだと思った。社交界デビューをするということはアレクシアが結婚の申し込みを受け付け始めたと宣言するようなものだ。二人の姉は物心付く頃には既に嫁いでいた。だから、アレクシアは自分にもすぐに相手が見つかるだろうと楽観視している節があった。



時は過ぎ、いよいよアレクシアの社交界デビューのために王宮にて舞踏会が開かれた。仕立て上がった深緑色のドレスを身に纏ったアレクシアは花のように美しかった。アレクシアはテオバルトのエスコートで会場に入った。普通の少女が素敵な殿方との出会いを夢想するようにアレクシアも期待に胸を膨らませていた。だが、どうにもどの男性もいまいちに見えてしまう。それもそのはずだ。兄達は女性の心を掴んで離さない美形揃い、性格もそれぞれ違っていて多種多様。アレクシアはそんな兄達に囲まれて育ち、無意識の内に自らの理想の男性像が兄達以上か兄達並に設定されてしまっているのだ。


アレクシアが若干気落ちして会場を見回していると、一人の男性が目に留まった。年齢は亡くなった父くらいだろうか?美形など兄達で見慣れているはずだが、それでも惹きつけらるような不思議な魅力があった。微笑みを浮かべ周りの人たちと談笑している彼からアレクシアは目が離せなくなった。


アレクシアがじっと見つめているとその視線に気づいたのか彼がアレクシアの方を不意に見た。彼はアレクシアに向かってにっこりとほほえんだ。その瞬間、アレクシアの胸がドキンと痛いくらい高鳴った。


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