横浜万博 第6話 短編版
9月、万博は無料招待券の効果で人が溢れ返っていた。
桜木町のゲートは長蛇の列。そんな喧騒を横目に、僕はバイトを休み、久美と一泊二日の新島へ向かった。
二人とも実家暮らし。親にはそれぞれ「友達と旅行」と嘘をついた。
フェリーで島に着くと、まだ夏の熱気が残っていた。原付を借りて海沿いを走り、静かなビーチで泳ぎ、写真を撮り合った。久美の髪も、海も、太陽もまぶしかった。
夜、ホテルの部屋で二人きりになると、久美から“あの匂い”がした。
一瞬だけ、中学のあの子の記憶がよぎる。
夜11時、僕は「星を見に行こう」と久美を誘った。
浜辺のひな壇に座ると、空には信じられないほどの星が広がっていた。流星がいくつも流れ、僕らはしばらく黙って空を見上げた。
ふいに久美が僕に覆いかぶさってきた。
髪がカーテンのように落ち、暗闇の中で彼女の顔は見えない。
彼女は僕の目を探るように覗き込み、やがて額が触れ、鼻が触れ、唇が触れた。
何を読み取られたのか分からない。
直子さんのことが一瞬頭をよぎり、不安が胸を刺した。
そのあと並んで星を見ながら、久美が言った。
「高校から続いてるカップル、もう私たちだけみたいよ」
なぜそんな話をするのか。
また不安がよみがえる。
「俺はずっと久美といたいよ」
「わたしも。でも未来は分かんないよね」
手を握り合うと、少しだけ安心した。
「タイムマシンで未来を覗いてみたいね」
「見たくないな。見ちゃったら、こうしていられないかも」
久美はそう言って笑った。
その笑顔を見て、僕は彼女を大事にしなきゃと思った。
新島から戻ると、夜のゲートで結城さんとの“報告会”が再開した。
「で、久美と直子さん、どっちがいいの?」
核心を突かれ、僕は苦笑いするしかなかった。
久美が好きだ。でも直子さんとも続けたい。
若さと愚かさが混ざった気持ちが、夜の静かなゲートに漂っていた。
僕はこの、ひと気のない夜の会話が好きだった。
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