墓地じゃなかった
暗い森を彷徨っていた。
鬱蒼とした森であり、昼間でも薄暗いであろう場所なのに、ましてや今は夜。月の光や星明かりなども届かず、数歩先もよく見えないくらいだ。
大きな木々にぶつかったり遭難したりも心配する状況だが、私の場合、怪我や命の危険だけはなかった。
なにしろ私は、幽霊なのだから。
とはいえ、幽霊だって孤独は嫌だ。幽霊の存在意義は、生きている人間を脅かしてこそであり、こんな誰も来ないような場所では、それも不可能。人々の生気に満ちた辺りまで、早く出る必要があった。
そんなことを考えながら、しばらく歩くうちに……。
「おっ!」
思わず声が出てしまう。
ようやく森を抜けて、広々としたところに出たのだ。それまでが真っ暗だっただけに、月明かり程度でもよく見えるように感じられる。
遠くまで見渡せるような、野っ原のような場所。ただし一面の広野というわけではなく、少し先には、連なる人工物も視界に入った。
金網のフェンスが張られていたのだ。右を見ても左を見ても続いているから、かなりの範囲らしい。
それほど広いフェンスなのだから、フェンスで区切られた境界の向こう側は、よほど特別な敷地なのだろうか。
少し興味を抱いて、フェンスに沿って歩いてみる。すると金網の一部が扉になっていた。
正式な出入り口にしては小さいから、正門ではなく、裏口の類いだろう。いずれにせよ、南京錠が付いているし、施錠されているようだ。
しかし、私は幽霊。その気になれば壁だって通り抜けられるし、鍵が掛かっていても問題はなかった。
扉の横には、看板みたいな金属板も見える。注意書きが記されているようで、暗いからきちんと読めないけれど、一番上の『立入禁止』という大きな文字は見てとれた。
また、最後に中くらいの大きさで書かれていた4文字。地名らしき2文字に『墓地』と続いているようだった。
「おお、ここは広大な墓地なのか!」
なんだか嬉しくなる。
深夜の墓地では誰も来ないかもしれないが、それでも朝まで待っていたら、いずれ誰か来るだろう。
そもそも雰囲気的に、墓地は幽霊に相応しい。しかも大きな墓地なのだから、ここで私が頑張って人を脅かし続ければ、心霊スポットとして有名になるかもしれない。
新規の心霊スポットを創設するなんて、幽霊冥利に尽きるではないか!
そんな気持ちから、私はその『墓地』に侵入して……。
「おかしいな? 墓石はどこだ……?」
敷地内をうろうろしても、それらしきものは見当たらない。
草地とコンクリートの地面が広がっており、ようやく人工的な構造物が見えてきても、倉庫みたいな建物ばかり。
「まさか、こんな味気ない倉庫に骨壷を仕舞い込むタイプか……?」
確か、ロッカー式納骨堂という呼称だっただろうか。建物内にロッカーみたいな収納棚が用意されていて、それがお墓となっている。そんなシステムの噂も聞いたことがあったから、その手の場所に迷い込んだのかと思いきや……。
それから1時間も経たないうちに、のんびり気分も終わってしまう。
「あっちだ! あっちに逃げたぞ!」
「どこだ? 見えないぞ?」
「見えないやつは、見えてるやつに従え!」
「発砲も許可する! ただし威嚇射撃のみだ!」
武装した一団が現れて、私を追い回し始めたのだ。
私は幽霊として、生きている人間を怖がらせる立場なのに、まさか逆に怖い目に遭わされるとは!
まあ幽霊である以上、たとえピストルや機関銃で撃たれても実害はないのだが……。
それでも気分的には嫌だし、やっぱり怖いのだ。だから頑張って逃げ回り……。
「あっ!」
いつのまにか反対側まで来たのだろうか。
敷地を囲むフェンスが見えてきたし、今度は大きな門のある場所だった。
おそらくは正面入り口なのだろう。こちらは照明でライトアップもされていて、門に掲げられた施設名もきちんと読める。
おかげで、ようやく私は気づいたのだ。最初の2文字は確かに地名だが、続く2文字は『墓地』ではなく『基地』だということを。
(「墓地じゃなかった」完)




