表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

【短編】その他の短編

墓地じゃなかった

作者: 烏川 ハル
掲載日:2026/03/23

   

 暗い森を彷徨(さまよ)っていた。

 鬱蒼とした森であり、昼間でも薄暗いであろう場所なのに、ましてや今は夜。月の光や星明かりなども届かず、数歩先もよく見えないくらいだ。

 大きな木々にぶつかったり遭難したりも心配する状況だが、私の場合、怪我や命の危険だけはなかった。

 なにしろ私は、幽霊なのだから。


 とはいえ、幽霊だって孤独は嫌だ。幽霊の存在意義は、生きている人間を(おど)かしてこそであり、こんな誰も来ないような場所では、それも不可能。人々の生気に満ちた辺りまで、早く出る必要があった。

 そんなことを考えながら、しばらく歩くうちに……。


「おっ!」

 思わず声が出てしまう。

 ようやく森を抜けて、広々としたところに出たのだ。それまでが真っ暗だっただけに、月明かり程度でもよく見えるように感じられる。

 遠くまで見渡せるような、()(ぱら)のような場所。ただし一面の広野(こうや)というわけではなく、少し先には、連なる人工物も視界に入った。

 金網のフェンスが張られていたのだ。右を見ても左を見ても続いているから、かなりの範囲らしい。

 それほど広いフェンスなのだから、フェンスで区切られた境界の向こう側は、よほど特別な敷地なのだろうか。

 少し興味を(いだ)いて、フェンスに沿って歩いてみる。すると金網の一部が扉になっていた。

 正式な出入り口にしては小さいから、正門ではなく、裏口の(たぐ)いだろう。いずれにせよ、南京錠が付いているし、施錠されているようだ。

 しかし、私は幽霊。その気になれば壁だって通り抜けられるし、鍵が掛かっていても問題はなかった。

 扉の横には、看板みたいな金属板も見える。注意書きが記されているようで、暗いからきちんと読めないけれど、一番上の『立入禁止』という大きな文字は見てとれた。

 また、最後に中くらいの大きさで書かれていた4文字。地名らしき2文字に『墓地』と続いているようだった。


「おお、ここは広大な墓地なのか!」

 なんだか嬉しくなる。

 深夜の墓地では誰も来ないかもしれないが、それでも朝まで待っていたら、いずれ誰か来るだろう。

 そもそも雰囲気的に、墓地は幽霊に相応しい。しかも大きな墓地なのだから、ここで私が頑張って人を(おど)かし続ければ、心霊スポットとして有名になるかもしれない。

 新規の心霊スポットを創設するなんて、幽霊冥利に尽きるではないか!

 そんな気持ちから、私はその『墓地』に侵入して……。


「おかしいな? 墓石はどこだ……?」

 敷地内をうろうろしても、それらしきものは見当たらない。

 草地とコンクリートの地面が広がっており、ようやく人工的な構造物が見えてきても、倉庫みたいな建物ばかり。

「まさか、こんな味気ない倉庫に骨壷を仕舞い込むタイプか……?」

 確か、ロッカー式納骨堂という呼称だっただろうか。建物内にロッカーみたいな収納棚が用意されていて、それがお墓となっている。そんなシステムの噂も聞いたことがあったから、その手の場所に迷い込んだのかと思いきや……。


 それから1時間も経たないうちに、のんびり気分も終わってしまう。

「あっちだ! あっちに逃げたぞ!」

「どこだ? 見えないぞ?」

「見えないやつは、見えてるやつに従え!」

「発砲も許可する! ただし威嚇射撃のみだ!」

 武装した一団が現れて、私を追い回し始めたのだ。


 私は幽霊として、生きている人間を怖がらせる立場なのに、まさか逆に怖い目に遭わされるとは!

 まあ幽霊である以上、たとえピストルや機関銃で撃たれても実害はないのだが……。

 それでも気分的には嫌だし、やっぱり怖いのだ。だから頑張って逃げ回り……。


「あっ!」

 いつのまにか反対側まで来たのだろうか。

 敷地を囲むフェンスが見えてきたし、今度は大きな門のある場所だった。

 おそらくは正面入り口なのだろう。こちらは照明でライトアップもされていて、門に掲げられた施設名もきちんと読める。

 おかげで、ようやく私は気づいたのだ。最初の2文字は確かに地名だが、続く2文字は『墓地』ではなく『基地』だということを。




(「墓地じゃなかった」完)

   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ