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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ヤンキー聖女ちゃんは拳で異世界を救う。

掲載日:2026/02/26

 王都グランディア、大聖堂。

 国中から集められた魔力が、巨大な魔法陣に注がれていた。

「聖女召喚の儀、開始!」

 大司教ガブリエルの声が響く。


 魔法陣が輝きを増し、天井まで届く光の柱が立ち上った。これは王国に伝わる最古の儀式。滅亡の危機に瀕した時、異世界から救世主を呼び寄せる禁断の術。

 五百年ぶりの発動だった。


「来たれ、選ばれし聖女よ!」

 光が弾ける。

 誰もが息を呑んだ。

 現れたのは――

「……あァ?」

 黒髪ロングに金メッシュ。高い位置で結んだポニーテールが揺れる。目元には派手な赤いアイライン。耳には十字架のピアスが三つずつ。


 制服のスカートは明らかに規定より長く改造されており、口にはガム。

 そして何より、その目つきの悪さ。

 赤い瞳が、周囲を睨み回す。

「なンだここ。教会? キッショ」

 吐き捨てるような口調。

 大司教の顔が蒼白になった。


「せ、聖女様……どうか、この国を――」

「は?」

 ガムを噛む音が、静寂の聖堂に響く。

「誰が聖女だコラ」

 場が凍りついた。

 玉座に座る老王は目を見開き、隣に控える騎士団長は剣の柄を握りしめ、金髪の若き勇者は口をパクパクさせている。


「あの、えっと……」

 勇者が恐る恐る声をかけた。

「君が、召喚された聖女様だよね?」

「アタシは七星ユリア」

 ユリアは鼻を鳴らした。

「てめぇらの都合で呼んだんだろ? 用件だけ言えよ。帰りてぇんだ」


「し、しかし……」

 大司教が震える手で、古文書を開く。

「聖紋が……確かに、七つ星の聖印が……!」

 確かに、ユリアの胸元――改造制服の第二ボタンあたりに、淡く光る紋章が浮かび上がっていた。

 七つの星が円を描く、歴代最強の証。

「マジかよ……」

 騎士団長が呻いた。

「伝説の七星聖女が、こんな……」

「あァ? こんな、なんだよ」


 ユリアの視線が、騎士団長を射抜く。

「ビビってんじゃねぇぞオッサン。アタシは喧嘩なら付き合うぜ?」

「いえっ、滅相もございません!」

 騎士団長が慌てて頭を下げる。

 勇者が咳払いをした。

「あの、ユリアさん。状況を説明させてもらえますか?」

「……チッ」

 ユリアは舌打ちしながらも、腕を組んで聞く姿勢を取った。

「五分だ。五分で終わらせろ」


 勇者は額の汗を拭いながら、説明を始めた。

 この世界は今、魔王の軍勢によって滅亡の危機に瀕している。

 半年前、突如として現れた魔王ザルヴァトールは、圧倒的な力で大陸の三分の二を制圧。

 人間の軍隊は次々と敗北し、最後の砦である王都グランディアも、今や包囲されている。

「それで、俺が異世界から勇者として召喚されて……」

「待て待て」

 ユリアが手を上げた。


「てことは、お前も召喚組か?」

「はい。三ヶ月前に」

「で、負けてんのか」

「……はい」

 勇者の顔が曇る。

「魔王軍の呪獣には、特殊な呪いがかかっていて。俺の聖剣でも倒せるんですが、呪いを浄化できなくて……それで、聖女様を――」

「だから聖女じゃねぇっつってんだろ!」

 怒鳴り声が聖堂に響いた。

 ユリアは髪をかき上げる。


「いいか、アタシは普通の高校生だ。喧嘩は強いけど、魔法なんて使えねぇ」

「でも、聖印が……」

「知らねぇよ! 勝手に刻まれてんだよ!」

 その時。

 ――ゴォォォン。

 遠くで、鐘が鳴り響いた。

 警報の音。

 騎士が駆け込んでくる。

「魔王軍です! 東門に呪獣の群れが!」

 勇者の顔色が変わった。

「くそ、またか!」

 聖剣を抜き、走り出す。

 騎士団も続いた。


 ユリアは一人、聖堂に残される。

「……マジかよ」

 ガムを吐き出し、拳を鳴らした。

「面倒くせぇな、おい」



 王都東門。

 城壁の向こうから、黒い霧が押し寄せていた。

 呪獣。

 魔王が創り出した、呪いの化け物。

 狼のような姿をしているが、その体は黒い瘴気で覆われている。触れれば命を削り、倒しても呪いは残る。

「来るぞ! 陣形を保て!」

 騎士団長が叫ぶ。

 だが、呪獣の数は多すぎた。


 城門を突破し、なだれ込んでくる。

「聖剣解放――光よ!」

 勇者の剣が輝き、呪獣を斬り裂いた。

 一体、二体。

 だが。

「ぐあっ!」

 黒い瘴気が勇者の体を包む。

 呪いだ。

 聖剣で倒せても、呪いは消せない。

「勇者様!」

 騎士たちが駆け寄るが、次々と呪いに侵される。

 絶望的な状況。

 その時。

「――チッ」

 舌打ちが響いた。


 振り返ると、ユリアが立っていた。

 制服姿のまま、両手をポケットに突っ込んで。

「雑魚にやられてんじゃねぇよ」

「ユ、ユリアさん! 危険です、逃げて――」

「うるせぇ」

 ユリアは前に出た。

「弱ぇ奴が、泣いてんの見るとよ」

 ポケットから手を出し、拳を握る。

「ムカつくんだよ」

 呪獣が、ユリアに飛びかかった。

 黒い爪が、彼女を引き裂こうとする。

 だが。


「遅ぇ!」

 ユリアの体が、残像を残して動いた。

 次の瞬間、彼女は呪獣の懐に入り込んでいる。

「――浄化ァッ!」

 拳が、呪獣の腹に突き刺さった。

 ドゴォッ!

 鈍い音。

 呪獣の体が吹き飛ぶ――

 いや、違う。

 黒い瘴気が、爆ぜた。

 光に変わる。

 聖光が奔流となり、呪いを打ち消していく。

「な、なんだ……!?」

 騎士たちが目を見開く。


 呪獣は絶叫し、灰となって消えた。

 ユリアは拳を振り払う。

「一匹」

 そして、次の呪獣を睨んだ。

「次、誰だ」

 呪獣たちが、怯んだように後退する。

 だが、その目は狂気に染まっている。

 一斉に飛びかかった。

 五体、六体――

「まとめて来んのか」

 ユリアは笑った。

「上等じゃねぇか!」

 踏み込む。

 拳を振るう。


 一発ごとに、聖光が爆ぜる。

「浄化! 浄化! 浄化ァッ!」

 連打。

 ただ殴っているだけ。

 だが、その拳は確実に呪いを打ち砕いていた。

「――結界」

 ユリアが低く呟いた瞬間、赤い光が彼女を中心に広がった。

 違う。

 光ではない。

 威圧だ。

 圧倒的な力の差を、本能に叩きつける。

 呪獣たちが、動きを止めた。

「今だ!」

 騎士団長が叫ぶ。

 騎士たちが一斉に斬りかかり、呪獣を次々と倒していく。

 ユリアが倒した呪獣には呪いが残らない。


 だから、安全に倒せる。

「すごい……」

 勇者が呟いた。

「これが、聖女の力……」

「だから違ぇっつってんだろうがぁ!」

 ユリアの怒鳴り声が戦場に響く。

 だが、その拳は止まらない。

 次々と呪獣を浄化していく。

 十体、十五体――

 ついに、最後の一体が灰になった。

 静寂。

 王都を包んでいた瘴気が、霧のように晴れていく。

 騎士の一人が、呆然と呟いた。

「……殴って、浄化した」

「回りくどいの嫌いなんだよ」

 ユリアは鼻を鳴らした。

「魔法とか、めんどくせぇ」

 勇者が駆け寄る。


「あ、ありがとうございます! あなたがいなければ、僕たちは――」

「別にてめぇらのためじゃねぇ」

 ユリアは視線を逸らした。

「たまたま、暇だっただけだ」

 だが、その頬はわずかに赤い。

 騎士団長が膝をついた。

「聖女様……いえ、ユリア様。どうか、我々に力を!」

「……チッ」

 ユリアは面倒くさそうに髪をかき上げる。

「聖女って呼ぶな。ムカつく」

「では、なんと……」

「ユリアでいい。それか――」

 少しだけ、笑みを浮かべる。

「七星の姐さん、とかな」

 騎士たちが顔を見合わせた。

 そして。

「七星の姐さん!」

「姐さん、ありがとうございます!」

 口々に叫ぶ。

 ユリアは満足げに頷いた。

「よし。じゃあ次はどこだ」



 戦いの後、ユリアは城壁の上に座っていた。

 夕日が、王都を赤く染めている。

「……ここ、結構綺麗じゃん」

 呟きながら、新しいガムを口に放り込む。

 足音が近づいてきた。

 振り返ると、勇者だった。

「あの、邪魔してもいいですか?」

「勝手にしろ」

 勇者は隣に座る。

 しばらく、沈黙。

「……ユリアさんは、元の世界に、大事な人とかいますか?」

「あァ?」

 ユリアは眉をひそめた。

「なんだよ、急に」

「いや、その……俺、こっちに来て三ヶ月なんですけど」

 勇者は苦笑する。

「まだ、元の世界のこと、忘れられなくて」

「……そりゃそうだろ」

 ユリアはガムを噛みながら、空を見上げた。

「アタシだって、帰りてぇよ。明日、期末テストなんだ」

「えっ、マジですか」

「マジだ。数学とか絶対赤点だわ」

 二人で笑う。

 ふと、勇者が真顔になった。

「でも……ユリアさんは、強いですね」

「あァ?」

「その、心が。俺なんて、召喚されてすぐ泣きそうになったのに」

「……別に」

 ユリアは髪をいじった。

「アタシだって、最初はビビったわ。変な服着たジジイに囲まれてよ」

「ははは」


「でもよ」

 ユリアは拳を握る。

「ビビってても、何も変わんねぇだろ。だったら、やれることやるだけだ」

 その時。

 城壁の下から、小さな声が聞こえた。

「……ねぇ、お姉ちゃん」

 見下ろすと、小さな女の子がいた。

 七歳くらいだろうか。ボロボロの服を着て、頬に傷がある。

「んだよ」

 ユリアが声をかけると、女の子は怯えたように後ずさった。

「あっ、ごめん」

 ユリアは慌てて声のトーンを落とす。

「……なんか、用か?」

「あの……」

 女の子は涙目で、小さな声で言った。

「お母さんが、動かないの」

 勇者の表情が変わった。

「案内してくれるか?」

 女の子は頷き、二人を路地裏に案内した。

 そこには、女性が倒れていた。

 服には、黒い染みが広がっている。


 呪いだ。

「くそ……呪いが、体に回ってる」

 勇者が歯噛みする。

「俺の浄化魔法じゃ、間に合わない……!」

「どけ」

 ユリアが前に出た。

「アタシがやる」

「でも、呪いを浄化するには――」

「うるせぇ、黙ってろ」

 ユリアは女性の手を握った。

 そして。

「――祝福」

 気合いの声とともに、淡い光が溢れた。

 温かい光。

 誰よりも優しい光。

 女性の体から、黒い染みが消えていく。

 呼吸が、安定する。

「……お、お母さん!」

 女の子が駆け寄り、母親に抱きつく。

 女性はゆっくりと目を開けた。


「……あなたは」

「別に」

 ユリアはそっぽを向いた。

「たまたま、通りかかっただけだ」

 女の子が、ユリアの服を引っ張った。

「ありがとう、聖女さま」

 その瞬間、ユリアの顔が真っ赤になった。

「せ、聖女じゃねぇっつってんだろ!」

「でも、お姉ちゃんが助けてくれたんでしょ?」

「そ、それは……」

 ユリアは視線を泳がせる。

「……弱ぇ奴が、泣いてんの見ると。ムカつくだけだ」

 女の子はきょとんとして、それから笑った。

「お姉ちゃん、優しいね」

「うるせぇ!」

 ユリアは立ち上がり、そそくさと歩き出した。

 勇者が笑いながら後を追う。

「ユリアさん、照れてますね」

「照れてねぇ!」

「でも、顔真っ赤ですよ」

「う、うるせぇ! てめぇ、ぶっ飛ばすぞ!」

 二人の掛け合いが、夕暮れの王都に響いた。



 その夜。

 王城の作戦会議室。

「明日の夜明けに、魔王軍本隊が王都に到達します」

 騎士団長が、地図を指し示す。

「おそらく、魔王ザルヴァトール自身が出陣するでしょう」

「……マジかよ」

 ユリアは椅子に座ったまま、足を組んだ。

「ラスボス直々かよ。チートすぎんだろ」

「今まで、魔王と戦って生き残った者は誰もいません」

 大司教が沈痛な面持ちで言う。

「圧倒的な魔力と、不死の肉体。そして何より――」

「絶望の呪い、だろ?」

 勇者が続けた。

「魔王の周囲にいるだけで、希望を失い、戦意を喪失する。そんな話を聞きました」

「最悪じゃねぇか」

 ユリアは舌打ちした。

「でも、やるしかねぇんだろ?」

「……はい」

 老王が立ち上がった。

「七星のユリア殿。どうか、我が国を――いや、この世界を救っていただきたい」

「チッ……」

 ユリアは髪をかき上げる。

「別に、てめぇらのためじゃねぇからな」

 そして、拳を握った。

「ただ、ムカつくんだよ。弱ぇ奴を虐めるクソ野郎が」

 その瞬間、胸元の聖印が輝いた。

 七つの星が、まるで呼応するように光を放つ。

「魔王なんて、ぶっ飛ばしてやる」

 

 翌朝。

 王都の城門前に、黒い軍勢が現れた。

 数え切れない呪獣と、骸骨兵士。

 そして、その中心に――

「――来たか」

 魔王ザルヴァトール。

 漆黒のローブに身を包み、赤い瞳で王都を見据える。

「人間どもよ。降伏するなら、今だ」

 その声は、空気を震わせた。

 絶望の波動が、王都全体を包む。

 騎士たちが、膝をつき始める。

 勇者でさえ、剣を握る手が震えている。

「く、そ……体が……」

「弱ぇな、お前ら」

 ユリアだけが、平然と立っていた。

「この程度で、ビビってんじゃねぇよ」

 彼女は城門を開け、一人で歩き出した。

「ユリアさん、危険です!」

「うるせぇ」


 ユリアは振り返り、笑った。

「アタシは喧嘩なら、負けねぇんだよ」

 そして、魔王の前に立つ。

「よォ、魔王とやら」

「……ほう」

 魔王は興味深そうにユリアを見た。

「我が呪いに侵されぬとは。貴様が、召喚された聖女か」

「聖女じゃねぇっつってんだろ!」

 ユリアは怒鳴った。

「アタシは七星ユリア。てめぇをぶっ飛ばしに来た!」

 魔王は笑う。

「面白い。だが、貴様ごときが――」

「うるせぇ!」

 ユリアの拳が、魔王の顔面に突き刺さった。

 速い。

 誰も見えなかった。

 だが、確かに。

 魔王の体が、吹き飛んだ。

「――ッ!?」

 魔王軍が、騒然となる。

 魔王は地面に叩きつけられ、ゆっくりと立ち上がった。


「……見事だ」

 口元から、黒い血が流れている。

「五百年ぶりに、痛みを感じたぞ」

「そりゃどーも」

 ユリアは拳を鳴らした。

「次は、もっと痛ぇの行くからな」

「ならば――」

 魔王が手を掲げる。

「全力で相手しよう!」

 黒い魔力が、空を覆った。

 呪獣が、次々と現れる。

 百体、二百体――

「結界」

 ユリアが呟いた瞬間、赤い光が爆発的に広がった。

 威圧。

 圧倒的な力の差。


 呪獣たちが、動きを止める。

「今だ、行け!」

 勇者が叫んだ。

 騎士団が一斉に突撃する。

 ユリアは魔王に向かって走った。

「浄化ァッ!」

 拳が、魔王の腹に突き刺さる。

 聖光が爆ぜる。

「ぐ……ああああっ!」

 魔王の体から、呪いが剥がれていく。

「な、なんだこれは……我が呪いが……!」

「てめぇの呪いなんて」

 ユリアは笑った。

「アタシの拳で、全部ぶっ飛ばしてやる!」

 連打。

 浄化、浄化、浄化。

 拳を振るうたびに、聖光が輝く。

 魔王の体が、徐々に透明になっていく。

「馬鹿な……我は、不死の……」

「不死? 知らねぇよ」

 ユリアは最後の一撃を放った。

「――浄化ァァァッ!」

 拳が、魔王の胸を貫いた。

 爆発的な聖光が、空を覆う。

「ぐああああああああっ!」

 魔王の絶叫が響き渡り――

 そして、消えた。


 黒い魔力が霧散し、呪獣たちが灰になる。

 静寂。

 王都を包んでいた絶望が、晴れていった。

「……勝った?」

 誰かが呟く。

「勝ったんだ!」

「魔王を倒した!」

 歓声が上がる。

 騎士たちが、ユリアの名を叫ぶ。

「七星の姐さん万歳!」

「聖女様万歳!」

「だから聖女じゃねぇっつってんだろうがァ!」

 ユリアの怒鳴り声が響いた。



 それから一週間。

 王都に平和が戻った。

 ユリアは城の庭で、ガムを噛みながら空を見上げていた。

「……そろそろ、帰れるのかな」

 呟く。

 足音が近づいてきた。

 振り返ると、あの時の女の子だった。

「お姉ちゃん!」

「おう」

 ユリアは手を上げた。

「母ちゃん、元気か?」

「うん! お母さん、もう大丈夫だって!」

 女の子は笑顔で、花束を差し出した。

「これ、お礼」

「……おう」

 ユリアは花束を受け取る。

 そして、女の子の頭を撫でた。

「元気でな」

「お姉ちゃん、どこか行っちゃうの?」

「ああ。アタシ、ここの人間じゃねぇから」

 女の子は涙目になった。

「寂しい……」

「泣くなよ」

 ユリアは笑った。

「アタシは、弱ぇ奴が泣いてんの、嫌いなんだ」

「……でも」

「大丈夫だ」

 ユリアは女の子の涙を拭いた。

 淡い光が溢れる。

 祝福。

「てめぇは、もう弱くねぇ。だから、笑ってろ」

 女の子は頷いて、笑顔になった。

「ありがとう、聖女さま」

「……」

 ユリアは顔を背けた。

 頬が、真っ赤だ。

「……うるせぇよ」

 

 その夜。

 大聖堂で、帰還の儀式が行われた。

「ユリア様」

 大司教が頭を下げる。

「本当に、ありがとうございました」

「別に」

 ユリアはポケットに手を突っ込んだ。

「たまたま、暇だっただけだ」

 勇者が前に出た。

「ユリアさん。俺、あなたのこと、一生忘れません」

「おう」

 ユリアは拳を差し出した。

「元の世界に帰っても、負けんなよ」

「……はい!」

 二人は拳を合わせた。

 そして、魔法陣が輝き始める。

「では、お元気で――」

「待った」

 ユリアは振り返った。

「一つだけ、言わせろ」

 全員が、息を呑む。

 ユリアは笑った。

「――アタシのこと、聖女なんて呼ぶなよ。七星の姐さんだ」

 その言葉を残し、ユリアは光に包まれた。

 

 ――そして。

 七星ユリアは、元の世界に帰還した。

 気づけば、自分の部屋。

 ベッドに座り、窓の外を見る。

「……夢、だったのかな」

 呟きかけて。

 胸元を見た。

 そこには、淡く光る聖印。

 七つの星が、まだ刻まれていた。

「……マジかよ」

 ユリアは笑った。

 そして、新しいガムを口に放り込む。

「まあ、いいけどな」

 拳を握る。


 明日も、いつも通り。

 喧嘩して、怒鳴って、でも誰かを守る。

 それが、七星ユリアの生き方だ。


 ――聖女は今日も、拳で世界を救う。


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