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国境の盾は砕けない ~婚約破棄された辺境伯令嬢、生存第一に剣から銃に持ち替える~  作者: 薄氷薄明
第4章

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第41話 玉座の裁きと反逆者への銃弾




 王都奪還から、一ヶ月の月日が流れた。



 ハインリヒたちモルトケ軍による徹底した治安維持と、地下から救出された宰相たちの不眠不休の働きにより、死に絶えかけていた王都の行政機能は劇的な回復を遂げていた。


 破壊された兵站(ロジスティクス)網は再構築され、餓死寸前だった王都の民衆には、モルトケ領からの大量の支援物資が惜しみなく配給された。


 かつて「辺境の狂犬」と(さげす)まれていた彼らは、今や王都の民から「命の恩人たる鉄の騎士」として熱狂的な崇拝(すうはい)を集めていた。



 そして、極度の栄養失調に陥っていた国王も、アンジェリカの残した医療チームの療養(リハビリ)を経て、王としての威厳を取り戻すまでに肉体を回復させていた。


 王政の秩序が完全に回復した、ある晴れた日の朝。



 王城の大広間は、エルデラント王国の未来を決める『国家裁判(ステート・トライアル)』の法廷へと姿を変えていた。


 玉座には、見事に生気を取り戻した国王が、毅然(きぜん)とした態度で座している。


 その傍らには、ハインリヒをはじめとするモルトケの幹部たちと宰相が立ち並び、冷徹な眼差しで「罪人たち」を見下ろしていた。大広間の後方には、王都の代表者たる民衆たちも傍聴を許され、憎悪の目を向けている。



「……これより、国家反逆の罪に問われた者たちの裁きを執り行う」


 国王の威厳ある声が響き渡る。


 大広間の中央に引き立てられてきたのは、かつての豪奢な衣装を剥ぎ取られ、薄汚れた囚人服(ぼろぬの)を着せられた王弟、王太子、男爵令嬢、そして裏切り者の貴族たちであった。


 手枷(てかせ)足枷(あしかせ)をはめられた彼らの顔には、一ヶ月に及ぶ地下牢生活での疲弊と、死への恐怖が色濃く浮かんでいる。


「まず、大公よ。其方(そなた)は帝国と内通し、余を地下牢へ幽閉した上で、帝国軍を王都へ引き入れた。……弁明はあるか」


「弁明も何も! 私は国家存続のために帝国に恭順(きょうじゅん)したのだ! 病に伏せた兄上から、一時的に指揮権を預かったに過ぎん! 勝てない戦を避けた私のどこが罪なのだ!」


 未だに己の正当性を喚く王弟に対し、宰相が一歩前に出て、分厚い書類の束を叩きつけた。


「見苦しい言い訳を。貴方様が我が国の防衛機密を帝国に売り渡し、見返りとして『次期国王』の座を約束されていた密約書は、すでに王城の隠し金庫から発見されております」


「な、なに……っ!?」


「もはや弁護の余地なし。明らかなる国家反逆罪(ハイ・トリーゾン)です」


 動かぬ証拠を突きつけられ、王弟は膝から崩れ落ちた。



 続いて、国王の冷たい視線が、震え上がる己の息子――王太子へと向けられた。


「……愚息よ。其方はモルトケ家との婚約を公の場で一方的に破棄した。叔父の操り人形として王座にふんぞり返り、民が餓死する中で帝国将校と酒を飲んでいたそうだな。次期国王の器など、微塵もなかったということだ」


「ち、父上! 誤解です! 私は騙されていたのです! すべて叔父上が私を(そそのか)したからで……! どうか命だけは!」


 醜く這いつくばり、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして命乞いをする王太子。



 男爵令嬢は、悲鳴を上げてマクシミリアンやハインリヒの方へとすがりつこうとした。


「わ、私は何も関係ないんです! 私はただ、王太子殿下に愛されただけで! 私は何も……!」


 泣き落としで同情を誘おうとする令嬢だったが、マクシミリアンは冷酷に彼女の手を払い除けた。


「口を閉じろよ。男爵家では買えない宝石にドレス、アンタの部屋からごっそり出てきてるんだよ。 王太子だけでなく、帝国将校とも関係を持っていただろ? どこが無関係だ? 餓死した王都の子供たちの前で、もう一度同じ台詞を吐いてみやがれ」


「ひっ……!」


 マクシミリアンの底冷えするような殺気に当てられ、令嬢は泡を吹かんばかりに床にへたり込んだ。背後の民衆からは、「殺せ!」「お前たちのせいだ…!」という激しい怒声が飛び交う。



「……静粛に」


 国王が、玉座から重々しく立ち上がる。


 彼は深く息を吸い込み、肉親への情を完全に断ち切った、冷酷な裁き人の顔で言い放った。


「王として、余自身の不徳と甘さがこの事態を招いたことは否めぬ。だからこそ、エルデラント王国の未来のため、余の手で完全に腐りきった枝葉を切り落とさねばならん。

 ……大公と王太子は王位継承権を剥奪し極刑。共謀し国を売った貴族らの身分も剥奪し極刑とする。また、大公と貴族家の一族はすべての身分を剥奪とし、領地と財産を没収する。」



 そして、モルトケへ、絶対の死刑宣告が下された。


「……モルトケ辺境伯よ。極刑の執行を任せる。彼らの命をもって、餓死した民たちの無念を(とむら)うのだ」


「はっ。承知いたしました」


 ハインリヒが一歩前に出ると、周囲を固めていたモルトケの兵士たちが一斉にライフルの遊底(ボルト)を引く。


「貴様らを斬首の断頭台(ギロチン)にかける手間すら惜しい。広場へ連行しろ。……王都の民たちの前で、我がモルトケの『銃弾』をもって、罪人どもの心臓を撃ち抜く!」



 数時間後。


 王都の中央広場には、民衆の怒号を切り裂くように、無数の銃声が響き渡った。


 それは、保身のために国を売った愚者たちの無惨な末路であり、同時に、剣と魔法の旧体制から、鉄と火薬の近代兵器へと完全に主導権が移り変わった『新時代の号砲』でもあった。




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