表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国境の盾は砕けない ~婚約破棄された辺境伯令嬢、生存第一に剣から銃に持ち替える~  作者: 薄氷薄明
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/65

第37話 死の雨と黒鋼の突破口




 王都の夜空を、無数の摩擦音が引き裂いた。


 ヒュルルルルルッ――という、空気を切り裂く不気味な風切り音。


 王都に駐留する帝国軍の将兵たちが、何事かと頭上を見上げた瞬間。分厚い石造りの城壁の『内側』で、文字通りの地獄が顕現した。


 ドゴォォォォォンッ!!


「ぎゃああああっ!?」


 防壁を完全に無視して天から降り注いだ『迫撃砲(モルタル)』の雨が、帝国兵が密集する兵舎の屋根を容易く貫通し、内部で無慈悲に炸裂したのである。



***



「報告しろ! 城門が破られたのか!?」


 王城の本陣。凄まじい爆音と地鳴りに、帝国軍総司令官ジークス大将は玉座から立ち上がった。


「違います! 城壁は無傷です! 敵の砲撃は、分厚い城壁を飛び越えて、我々の頭上から正確に……ああっ、第三兵舎に直撃! 弾薬庫(アーセナル)誘爆(ゆうばく)しました!」


 ジークス大将は、窓の外で次々と火柱が上がる王都を見下ろし、愕然(がくぜん)と立ち尽くした。


(馬鹿な……。大砲というものは、直進する徹甲弾(てっこうだん)で城壁を壊すための攻城兵器ではないのか!? なぜ、壁の裏に隠れた我々の座標(ポジション)を正確に狙い撃てるのだ!)


 旧来の軍事常識が、音を立てて崩れ去っていく。


 防壁という『盾』を完全に無力化する曲射弾道(パラボラ)。さらに、モルトケの砲兵隊アンジェリカたちは、祖父母から得た正確な地図を元に、百門の大砲の着弾タイミングを合わせる『|効力射《TOT(同時弾着射撃)》』を行っていた。


 民間人の居住区を完全に避け、帝国兵の密集陣地(キルゾーン)だけを面で制圧していく。


 わずか数分の砲撃で、八万の帝国軍の指揮系統(コマンド・ライン)は完全に崩壊し、連絡用の早馬すら爆風で吹き飛ばされ、部隊は完全に孤立(アイソレート)していた。



***



「砲撃停止(撃ち方待て(シー・ファイア))! ……ガンツ隊、突入開始!」


 丘の上からのアンジェリカの通信を、有線式の魔導具(トランシーバー)で受け取ったガンツは、城門の前まで肉薄していた装甲馬車(そうこうしゃ)の扉を蹴り開けた。


「突撃隊(|アサルトチーム》)! 工兵(エンジニア)を前に出せ! 城門を吹き飛ばすぞ!」


 装甲馬車から飛び出した重武装の歩兵たちが、城壁の上で混乱している帝国兵に対し、機関銃による苛烈な制圧射撃サプレッション・ファイアを浴びせる。


 その分厚い弾幕の傘の下をくぐり抜け、モルトケの工兵たちが王都の巨大な正門に、大量の指向性爆薬ブリーチング・チャージを設置した。


「点火! 伏せろッ!」


 轟音と共に、難攻不落を誇ったエルデラント王都の正門が、内側へと吹き飛んだ。


「突入! 市街戦(CQB)に移行する! 路地裏の残敵掃討(クリアリング)を徹底し、交差点を十字砲火(クロスファイア)で封鎖しろ!」


 ガンツの怒号とともに、一万のモルトケ歩兵が、煙を上げる城門から王都の市街地へと雪崩れ込んだ。


 彼らは単なる烏合の衆ではない。訓練された近代歩兵として、数名一組の分隊(スクワッド)単位で動き、互いの死角(ブラインド・スポット)を補い合いながら、旧態依然とした剣や槍で向かってくる帝国兵を、路地という路地で一方的に(ほふ)っていく。


「民間人の居住区には絶対に弾を撃ち込むな! 射線を考えろ!」


 ガンツ部隊は、民間人を巻き込まないよう精密な射撃統制を維持しつつ、街の区画を一つずつ、機械的なまでの正確さで制圧していった。



***



 正門の爆破と、砲撃の混乱。


 王都の全戦力がその『正面の狂騒』に釘付けになっている最中。王城の裏手に流れる、暗く冷たい王都の地下水路(下水道)



「……親父のド派手な花火のおかげで、裏口はガラ空きだぜ」


 汚水の中を音もなく進む、黒装束に身を包んだ五百の精鋭部隊。


 その先頭を歩くマクシミリアンは、水面に反射する松明の光を見上げ、笑みを浮かべた。


 彼らの手には、発砲音の出るライフルではなく、静音性に優れた鉄製の(クロスボウ)と、刃を黒く塗った軍用ナイフが握られている。


「いいか、野郎ども。ここから先は隠密行動(ステルス)だ。見張りの帝国兵は、声を上げる前に喉笛を掻き切れ。……目指すは王城の西塔(タワー)地下、国王陛下の牢獄だ」


 祖父母の完璧な先導(ナビゲーション)により、彼らは城の最も手薄な防衛線を抜け、裏切り者の王太子がはびこる王城の中枢へと、致死の毒のように静かに浸透していく。



***



「……くそっ! 何が起きている! 前線からの伝令が一人も上がってこんぞ!」


 王城の玉座の間で、ジークス大将は血の気が引くのを感じていた。


 正門からの圧倒的な火力制圧(ファイア・パワー)。頭上から降り注ぐ死の雨。通信網を持たない帝国軍は、各部隊が孤立し、各個撃破されていた。


 ジークスは、ここで一つの残酷な事実に気づく。


(この戦いは、城の奪い合いなどではない。……奴らは、旧時代の我々を『一方的な殺戮(さつりく)俎上(そじょう)』に載せているのだ)


 エルデラント王都を舞台にした、近代戦術と中世兵法の激突。


 それは、圧倒的な技術格差パラダイム・シフトがもたらす、無慈悲な蹂躙(じゅうりん)の始まりであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ