銀河の闇を煮込む:エリカ、宇宙の調理師へ(前半)
「……おじさん、あっちの氷、溶かして。……お兄さん、光で消毒。……ルナお姉さん、杵で、お肉を柔らかくして」
エリカの指示が飛ぶ。 魔王ベルゼ・ブートが指先から放つ漆黒の業火が、月の北極に眠る氷の大地を焼き、巨大なクレーターを瞬時に「お湯」で満たした。 シグルドの聖剣が放つ浄化の光が、月面全体を殺菌し、ルナの銀の杵が重力を操作して、クレーター内の対流を完璧に制御する。
「ギィィィィィィッ!!」
襲いかかる『星喰い虫』。その巨体は月をも覆い尽くそうとするが、エリカは『大根丸』の切っ先を、虫の「眉間(と思われる空間)」に向けた。
「……一回目、空振りッ!!」
ドォォォォォォォォン!!!
真空すらも震わせる衝撃波。命中率「2」。剣は虫の硬い外殻に触れない。 しかし、発生した凄まじい「圧力の差」が、星喰い虫の巨体を宇宙の塵ごとクレーターの湯の中へと叩き落とした。
「二回目、三回目ッ!!」
エリカは空中で連続空振りを放ち、月面の重力場を攪拌する。 宙に浮く『月面大根』の破片が、空振りの渦に乗り、星喰い虫と共に巨大な「月面鍋」の中で踊り始めた。 虫が暴れるたびに、エリカの空振りがその運動エネルギーを「熱」へと変換し、肉を分子レベルで解きほぐしていく。
「……最後。……銀河の塩を、パラパラして……完成だよ」
エリカは、リヤカーから最後の「黄金の塩」を天高く放り投げた。
「……五度目の、空振りッ!!」
その一振りは、もはや月の引力すらも一時的に断絶させた。 黄金の塩は、エリカの空振りによって「光子レベル」まで細分化され、宇宙の闇を払いながら、クレーターのスープへと降り注いだ。
シュゥゥゥゥゥ……。
月面から、銀河を照らすほどにまばゆい「湯気」が立ち上る。 星を喰らうはずだった怪物は、今や一柱の「究極の出汁」となり、月面大根の滋養を吸い込んで、宇宙で最も芳醇な香りを放つ『星の煮込み』へと昇華された。
「……お待たせ。……宇宙のみんな。……お腹、いっぱいになろう」




