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空振り美食道〜大根一本で魔王と勇者を飼い慣らすまで〜  作者: 向陽葵
【第3部:魔王の裏庭と、禁断の大根編】

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88/90

銀河の闇を煮込む:エリカ、宇宙の調理師へ(前半)

「……おじさん、あっちの氷、溶かして。……お兄さん、光で消毒。……ルナお姉さん、杵で、お肉を柔らかくして」


 エリカの指示が飛ぶ。  魔王ベルゼ・ブートが指先から放つ漆黒の業火が、月の北極に眠る氷の大地を焼き、巨大なクレーターを瞬時に「お湯」で満たした。  シグルドの聖剣が放つ浄化の光が、月面全体を殺菌し、ルナの銀の杵が重力を操作して、クレーター内の対流を完璧に制御する。


「ギィィィィィィッ!!」


 襲いかかる『星喰い虫』。その巨体は月をも覆い尽くそうとするが、エリカは『大根丸』の切っ先を、虫の「眉間(と思われる空間)」に向けた。


「……一回目、空振りッ!!」


 ドォォォォォォォォン!!!


 真空すらも震わせる衝撃波。命中率「2」。剣は虫の硬い外殻に触れない。  しかし、発生した凄まじい「圧力の差」が、星喰い虫の巨体を宇宙の塵ごとクレーターの湯の中へと叩き落とした。


「二回目、三回目ッ!!」


 エリカは空中で連続空振りを放ち、月面の重力場を攪拌かくはんする。  宙に浮く『月面大根』の破片が、空振りの渦に乗り、星喰い虫と共に巨大な「月面鍋」の中で踊り始めた。  虫が暴れるたびに、エリカの空振りがその運動エネルギーを「熱」へと変換し、肉を分子レベルで解きほぐしていく。


「……最後。……銀河の塩を、パラパラして……完成だよ」


 エリカは、リヤカーから最後の「黄金の塩」を天高く放り投げた。


「……五度目の、空振りッ!!」


 その一振りは、もはや月の引力すらも一時的に断絶させた。  黄金の塩は、エリカの空振りによって「光子レベル」まで細分化され、宇宙の闇を払いながら、クレーターのスープへと降り注いだ。


 シュゥゥゥゥゥ……。


 月面から、銀河を照らすほどにまばゆい「湯気」が立ち上る。  星を喰らうはずだった怪物は、今や一柱の「究極の出汁」となり、月面大根の滋養を吸い込んで、宇宙で最も芳醇な香りを放つ『星の煮込み』へと昇華された。


「……お待たせ。……宇宙のみんな。……お腹、いっぱいになろう」

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