月の守護神:餅つきならぬ、大根つき(後半)
「……五回目、ッ!!」
エリカの最後の一振りが、月面の静寂を切り裂いた。 宙に浮いていた数万の大根おろしの粒が、真空の渦に吸い込まれるように一箇所に集まり、ルナの『銀河の杵』が作り出した「月の餅」の上に、粉雪のように降り積もる。
「……できた。……『月面おろし餅・銀河仕立て』。……お姉さん、食べて」
「バカな……。私の神器による連撃を、すべて『おろし』の回転エネルギーに変換したというの? ……そんなこと、物理的に、……いや、美味しい匂いがする……ッ!」
ルナは耐えきれず、ヘルメットのシールドをエリカが作った「空気のドーム」の中で開いた。 一口、その白銀の塊を口にする。
「…………っ!!」
ルナの脳裏に、一万年の孤独な監視任務が、温かいおでんの湯気に包まれて消えていく幻覚が見えた。 餅の圧倒的な粘りと、エリカが空振りで細胞を「目覚めさせた」大根おろしの鮮烈な辛み。そして、黄金の塩が引き出す月の魔力の甘み。
「……美味い。……一万年、これを待っていた気がするわ……」 月の守護神の目から、真珠のような涙が零れ落ち、無重力に消えた。
「……よかった。……お腹が、仲良くなったね」
エリカが微笑んだその時。 月の裏側から、太陽の光をも飲み込む巨大な「影」が這い出してきた。 それは、宇宙の始まりからあらゆる星の栄養を吸い尽くしてきた食害の根源――『星喰い虫』。
「ギィィィィィィッ!!」
その巨大な顎が、月面大根……そして、それを守るエリカたちを丸呑みにしようと迫る。
「……あ。……あのお虫さん、……すごく、出汁が出そう」
エリカは『大根丸』を鞘に納めず、逆に力強く握りしめた。 月面の重力をすべて空振りで味方につけた彼女の周囲で、銀色の砂が龍のように舞い上がる。
「……シグルドお兄さん、魔王おじさん、ルナお姉さん。……みんなで、宇宙で一番大きな『お鍋』、作ろう?」




