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空振り美食道〜大根一本で魔王と勇者を飼い慣らすまで〜  作者: 向陽葵
【第3部:魔王の裏庭と、禁断の大根編】

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月の守護神:餅つきならぬ、大根つき(前半)

「……お姉さん、こんにちは。……その棒、すごくいい音がするね」


 エリカは、ルナが構える『銀河の杵』を見つめて呟いた。その杵は、一振りで彗星を砕くと言われる月面最強の神器だ。


「褒めても無駄よ、侵入者。この『月面大根』は宇宙の核。これを抜くことは、星々の死を意味するの。……立ち去りなさい、さもなくば……くわよ?」


 ルナが杵を地面に叩きつける。  ドォォォォォン!!  月面の重力が乱れ、リノたちがフワフワと無様に宙に浮き上がる。


「……死んじゃうのは、困る。……でも、食べないのも、もっと困る。……だから」


 エリカが、腰の『大根丸』ではなく、リヤカーから一本の「未調理の深淵大根」を取り出した。


「……勝負しよ。……お姉さんが搗くなら、私は、おろすね。……美味しい方が、勝ち」


「……面白いじゃない。私の餅つきより、おろし大根の方が美味いと言うの?」


 月面のクレーターを舞台に、宇宙規模の調理対決が幕を開けた。  ルナが銀の杵を高く掲げ、月面大根の「核」を収めたうすへと振り下ろす。その動きは光速。


「――月光、一閃ッ!!」


 対するエリカは、月面の鋭い岩の角を「おろし金」に見立て、手に持った大根を叩きつける――のではなく、その数ミリ上で、手を激しく震わせた。


「……一回目、二回目……連続空振りッ!!」


 ドゴォォォォォォン!!!


 命中率「2」。大根は岩に触れない。  しかし、エリカが生み出した「超高速の真空の揺らぎ」が、大根の細胞を一つ一つ、芸術的に削り取っていく。  低重力の影響で、削られた大根おろしが雪のように月面に舞い、銀色の光を反射してダイヤモンドダストのように輝いた。


「な、なんて美しい……! おろし金を使わず、宇宙の『揺らぎ』で大根を削るなんて……!」  カトリーヌが、浮遊する大根おろしを慌ててボウルで回収する。


「……三回目、四回目」


 エリカの空振りは止まらない。  今度は、ルナが杵を振り下ろすたびに生じる「衝撃波」のエネルギーを、空振りで受け流して調理の熱源へと転換した。


「……お姉さんのパンチ、……いい隠し味。……ありがとう」

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