重力の空振り:リヤカー、星の海へ(後半)
「……シグルドお兄さん、あの岩。……ちょっと、角を削って。……刺さると、痛いから」
「承知した! 聖剣奥義・『断罪の面取り』!!」 勇者の放つ光の刃が、リヤカーに衝突せんとする巨大な小惑星の角を、見事な職人技で削ぎ落とした。
「……次は、私の番。……四回目、五回目、連続空振りッ!!」
ドォォォォォォン!!!
エリカが宇宙の虚空を全力で叩く。 その瞬間、真空の中に「エーテルの壁」が発生し、削り取られた小惑星の破片をリヤカーの周囲に吸い寄せた。 「……冷たい岩さんに、……私の熱を、あげる」
エリカは『大根丸』の刀身を高速で「空振り共振」させた。 命中率「2」。岩には触れない。 しかし、一秒間に数万回の空振りが生み出す超高周波の振動が、小惑星の分子を激しく摩擦させ、岩自体を数千度の「天然の加熱石」へと変貌させた。
「な、なんてことですの!? 宇宙に漂うゴミ……いえ、小惑星を、一瞬にして『石焼き用の熱石』に変えてしまいましたわ!」 カトリーヌが、熱を帯びた岩石の周囲で、魔王領産の『深淵大根』を素早く並べていく。
宇宙空間。漆黒の闇の中、赤く熱せられた巨石の熱で、大根がジューシーに、かつホクホクと焼き上がっていく。 真空調理と石焼きのハイブリッド。 それは、地球(帝都)のどんな名店でも味わえない、星々のエネルギーを直接取り込んだ『宇宙おでん』の誕生だった。
「……最後。……月に、着地するよ!」
エリカは巨大リヤカーの「真上」を空振った。 その反動を利用し、リヤカーは月面の引力に抗うように減速。 ふわりと、銀色の砂を巻き上げながら、リヤカーは月面に降り立った。
目の前には、月の大地に深く根を下ろした、白銀に輝く『月面大根』の巨塔。 その葉はオーロラのように揺らめき、エリカたちを歓迎するように甘い香りを放っていた。
「……着いた。……ここが、大根さんの、ふるさと」
エリカが第一歩を記したその瞬間。 月の大根の影から、銀色のウサギの耳を持つ「月面の守護神」が姿を現した。
「……そこの人間。……私たちが一万年かけて育てたこの大根に、……何をするつもり?」




