魔王領産大根、帝都を席巻する(後半)
「……よし。……出汁、いい感じ。……大根さんも、幸せそうに泳いでる」
帝都中央広場。巨大な釜から立ち上る湯気は、もはや帝都全体を包む「救いの香り」となっていた。エリカは『大根丸』の背で、釜の中の温度を「空振り」による摩擦熱で微調整している。
その列の先頭に、不気味な笑みを浮かべた老人が現れた。 「ほほう、これが噂の……。娘よ、この老い先短い年寄りに、少し『刺激』を足させてくれんか?」
老人が懐から取り出したのは、どす黒く光る瓶。その中に詰められた『漆黒の七味』が、スープに投下されようとした瞬間――。
「……おじさん。……それ、大根さんの味、死んじゃうよ」
エリカの目が、鋭く細められた。 だが、老人は構わず粉を振りまいた。黒い粒子がスープの表面に舞い散る。
「ヒッヒッヒ! これを飲めば、帝都の民は皆、私の『味覚の奴隷』となるのだ! さあ、かき混ぜるがいい!」
「……ううん。……お外に、出てもらうね」
エリカが、釜の真上で『大根丸』を旋回させた。
「――三回目、四回目、連続空振り!!」
ドォォォォォォン!!!
釜の中の液体が、エリカの放つ真空の渦によって超高速で回転を始めた。 命中率「2」。スープそのものは一滴もこぼれない。 しかし、エリカは空振りの周波数を微調整し、「呪いの成分」だけが持つ魔力の波長を捉えた。
キィィィィィィィン!!
遠心分離の原理、そして空振りの共振。 スープに混ざりかけた黒い粉末だけが、重力に逆らって渦の中心から「弾丸」のように飛び出し、すべて老人の鼻の穴へと逆流していった。
「ゴフッ!? ゲホッ、ガハッ……!? な、ななな、なんという……! 私の『魂の隷属粉』が……脳に、脳に直接……っ!!」
「……おじさん。……自分で作ったんだから、……自分で食べなきゃ、ダメだよ」
裏ボスは自らの呪いによって、自分のことが「最高に美味しい大根」だと思い込む狂乱状態に陥り、そのまま衛兵(農夫兼任)たちに連行されていった。
「……あ、邪魔なもの、なくなった。……はい、お待たせ。……熱いから、気をつけてね」
エリカが配った大根汁は、これまで以上に透き通り、帝都の闇をすべて洗い流すような味がした。 広場を埋め尽くす万雷の拍手。 その光景を、カトリーヌが涙を拭きながら記録する。
「……借金完済どころではありませんわ。本日をもって、エリカ様は『帝都の食の守護神』として、歴史に刻まれました!」
だが、エリカはすでに次を見据えていた。 空になった釜の底。そこに残った「大根の根っこ」が、なぜか宇宙の彼方を指して光っていたのだ。




