魔王領産大根、帝都を席巻する(前半)
「……みんな、準備いい? ……お野菜、鮮度が命だよ。……加速、するね」
魔王領の滑走路(エリカが昨日空振りで平らにした更地)。そこには、魔王軍の飛竜が引く巨大なリヤカー十数台が並んでいた。積み荷はすべて、朝採れの『深淵大根』と『爆速トマト』、そしてシグルドの光を浴びた『極光レタス』だ。
「エリカ様、帝都までの高度維持結界、展開完了しましたわ!」 カトリーヌが指揮棒を振り、事務的な、しかし情熱的な笑みを浮かべる。
「……はぁぁぁぁぁっ!!」
――一回目、二回目。連続空振り!! エリカがリヤカー艦隊の真後ろで、空間を「押し出す」ように連続で叩いた。 ドォォォォォォォン!!! 凄まじい反動推進。リヤカー艦隊は轟音と共に浮上し、音速の壁をぶち破って帝都へと向かう。エリカはその先頭で、風圧を左右の空振りで逃がしながら、完璧な航路(空の道)を作り出していた。
わずか30分後。帝都『グラン・アウル』の広場に、巨大なリヤカーがパラシュート(魔王の魔法)を開いて次々と着陸した。
「な、なんだ!? 魔王軍の襲来か!?」 騒然とする衛兵たちを、エリカが片手で制す。
「……違うよ。……デリバリー、だよ」
リヤカーの蓋が開くと、そこから溢れ出したのは、魔界の魔力と勇者の光を凝縮した、見たこともないほど輝く野菜の山だった。 広場中に、清涼な大地の香りが広がり、瞬く間に市民たちが押し寄せる。
「うわぁ、この大根……透き通ってる!」 「このトマト、一粒で病気が治りそうなオーラが出てるぞ!」
カトリーヌが叫ぶ。「さあ皆様! これこそが魔王領と勇者が共同開発した、至高の食材『エリカ・ブランド』ですわ! ただし、一家族につき一本まで!!」
野菜は飛ぶように売れ、瞬く間に「黄金の塩」以来の経済的旋風が帝都を席巻した。 しかし、その様子を城の窓から、不気味な青い光を宿した瞳で見つめる老人がいた。
「……魔王と勇者が手を組み、野菜を売るだと? くだらん。……この世界のバランスを保つのは、食欲ではなく『支配』だ」
彼の名は、帝都の闇を司る『禁断の調味料研究家』にして、帝都魔導議会の裏ボス。
「……エリカ。その大根、私が『黒い香辛料(呪い)』で染めてやろう……」




