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空振り美食道〜大根一本で魔王と勇者を飼い慣らすまで〜  作者: 向陽葵
【第3部:魔王の裏庭と、禁断の大根編】

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80/90

農園の騎士団:聖剣で耕し、魔法で育てる(前半)

「……シグルドお兄さん、あっちのトマトさん。……光、当ててあげて。……お顔が、青いから」


「了解した、エリカ殿! ……聖なる光よ、トマトの糖度を極限まで高めよ! 『サンシャイン・ブラスト』!!」


 魔王領の開拓地。かつては悲鳴と爆音の戦場だったはずの場所には今、勇者シグルドが放つ聖剣の輝きが、巨大な温室を照らす「人工太陽」として降り注いでいた。  本来は邪悪を滅ぼすための奥義が、今は『エリカ農園』のトマトを赤く熟れさせるための光合成促進剤として使われている。


「おい、勇者! 光が強すぎるぞ! 我が最高傑作の『冥府ナス』が日焼けしてしまうではないか!」  魔王ベルゼ・ブートが、黒いマントをエプロン代わりにし、魔力の如雨露じょうろで水を撒きながら怒鳴る。


「うるさいぞ魔王! ナスのことより、この『空飛ぶトマト』たちの反抗期をなんとかしろ! 捕まえるのが大変なんだ!」


 二人の前を、翼の生えた『爆速トマト』たちが高速で飛び交う。魔王領の魔力を吸いすぎた野菜たちは、収穫されるのを嫌がって時速100キロで逃げ回るのだ。


「……あ。……逃げちゃ、ダメ。……美味しく、してあげるから」


 エリカが、リヤカーの取っ手から手を離した。


「――一回目、空振りッ!!」


 ドォォォォォォン!!


 エリカが空を薙ぐと、巨大な「空気の網」が発生。逃げ回っていた爆速トマトたちが、一瞬にして気圧の檻に閉じ込められ、リヤカーの中にポトポトと行儀よく収穫されていった。


「……二回目、三回目」


 エリカはそのまま、空中の「湿度」を調整するために連続で空振りを放つ。  命中率「2」。トマトには一撃も当たらない。  しかし、空振りの摩擦熱でトマトの表面がほんのりと温まり、朝露が蒸発して最高にツヤツヤとした状態に仕上がった。


「……おじさんも、お兄さんも。……仲良くしないと、……お昼ご飯、お野菜だけにするよ?」


 エリカの静かな一言に、人類最強の勇者と、魔界最強の魔王が同時に背筋を伸ばし、「失礼しました!」と唱和して農作業に戻る。


 だが、その平和な風景を、遠くの丘から見つめる影があった。  帝都から派遣された追加の調査員――聖教団の『食味審問官』である。


「……信じられません。勇者と魔王が、手を取り合って……大根を収穫しているなんて。これは、帝都に対する最大の裏切り……あるいは、新しい宗教の誕生ですわ」

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