迷い込んだ王都:アイアンホールの門を叩け(後半)
「……ほう。説明してもらおうか、その右手に握っている我がギルドの残骸について」
オズワルドの巨体がエリカの視界を覆い、濃厚な紫煙の匂いが鼻腔を突いた。エリカは反射的に右手を背後に隠そうとしたが、そこには「取っ手が付いたままの分厚い木塊」がぶら下がっており、隠すにはあまりに巨大すぎた。
「ひ、ひゃあ……! ご、ごめんなさい! 扉がちょっと重かったので、少し本気で引いたら、その……付いてきちゃって」 「付いてきちゃっただと?」 オズワルドの眉間が深く刻まれる。周囲の冒険者たちから「おいおい、あの扉を素手でかよ」「化け物か、あの娘」という囁きが漏れ始めた。
「いいか、小娘。その扉は特注の耐魔オーク製だ。修理費、工賃、営業妨害……合わせて金貨一枚、一万アウル(AUR)だ。払えねえなら、今すぐ憲兵団に突き出してやる」
一万アウル。銅貨一枚(1C)しか持たないエリカにとって、それはもはや星の数と同じくらい現実味のない巨額だった。 「あ、あの……一アウルしかありません」 「…………」 ギルド内が再び、水を打ったような静寂に包まれた。オズワルドは呆れたように大きなため息を吐き、エリカの胸元でガタガタと震えているリノに目をやった。
「精霊連れか。……チッ、いいだろう。貴様の『中身』次第では、借金として登録してやる。おい、鑑定用の魔水晶を持ってこい!」
運ばれてきたのは、村にあるものより数段大きく、複雑な銀の台座に嵌められた透明な水晶だった。 「触れ。貴様の『能力位』で、どれだけ使い物になるか判断してやる」
エリカは喉を鳴らし、そっと指先を水晶に伸ばした。かつて村で水晶を粉砕した恐怖が過るが、隣でリノが「エリカさん、落ち着いて……深呼吸です」と耳元で囁き、冷たい指先でエリカの背中を支える。 エリカが、恐る恐る水晶に触れた。
キィィィィン!!
水晶の内部で、激しい火花のような光が踊る。 直後、浮き上がった文字は、ギルドの歴史上、誰も見たことのない異様な羅列だった。
【エリカ・フェルナンド】 レベル: 5 職業: 無(冒険者登録申請中) HP: 80 魔力: 50(Eランク/契約精霊による加算) 攻撃力: 測定限界突破(計測不能 / ERROR) 命中率: 2(最低保証値 / ※止まっている大根にも当たりません)
「…………は?」 オズワルドの口から、咥えていた煙草がポロリと床に落ちた。 周囲の冒険者たちが覗き込み、一瞬の沈黙の後、爆発的な嘲笑が沸き起こった。
「ぎゃはははは! なんだよこれ、命中率『2』だってよ!」 「攻撃力のバグは水晶の故障だろ。だがこの命中率は……おい嬢ちゃん、自分の足に躓いて自爆する才能でもあるのか?」
エリカの頬が、屈辱で真っ赤に染まる。下を向き、拳を握りしめる彼女の横で、リノが真っ青な顔でオズワルドを睨みつけた。 「わ、笑わないでください! 彼女の力は、扉を壊したことが証明しているじゃないですか!」
オズワルドは隻眼を細め、エラーを吐き続ける水晶とエリカを交互に見つめた後、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。 「……面白い。命中率『2』の破壊神、か。……いいだろう。一万アウルの修理代、貴様の『仕事』で返してもらうぜ。——まずはギルドの下働き、スライム討伐からだ!」




