勇者の来襲:聖剣は野菜を切るためにある(前半)
「……待っていろ、魔王ベルゼ・ブート! 貴様がこの地に張り巡らせた『緑の呪い(農園)』を、この僕が浄化してみせる!!」
魔王領の境界線。帝都最強の勇者シグルドは、愛剣『グラム』を抜き放ち、眼前に広がる広大な大根畑に向かって叫んだ。 彼の目には、エリカが耕した肥沃な土地が「世界を飲み込む暗黒の植物兵器」に見えていた。
「ハァッ!! 聖なる光よ、不浄なる大根を焼き払え!!」 シグルドが聖剣を振り下ろすと、まばゆい光の斬撃が大根畑へと突き進む。
その時。 光の斬撃の「数ミリ横」を、凄まじい風圧が通り抜けた。
「……ダメだよ。……それ、明日、お漬物にするんだから」
ドォォォォォォン!!
――一回目、空振り。 エリカが放った「逆方向の衝撃波」が、聖剣の光を霧散させ、シグルドの白馬を優しく(風圧で)後退させた。
「な、なんだ!? 僕の聖なる一撃が、ただの『風』に掻き消されただと……!?」
砂塵の中から現れたのは、麦わら帽子を被り、泥のついたリヤカーを引く少女だった。
「……お兄さん。……剣、キラキラしてて、かっこいい。……それ、千切り、できる?」
「せ、千切り!? 貴様、何を言っている! 僕は勇者だ! 魔王を倒し、この呪われた菜園を滅ぼしに来たのだ!!」
「……魔王おじさんなら、あっちで肥料混ぜてるよ。……お兄さんも、そんなところで暴れてないで、……キャベツの芯、抜くの手伝って」
「な、何だと……!? 魔王が……肥料を……?」 シグルドが視線を向けると、そこには首からタオルを下げ、鍬を持って「ここの土壌は窒素が足りんな」と部下に指示を出す魔王ベルゼ・ブートの姿があった。
「……お兄さん、お腹空いてるでしょ? ……聖剣さん、……ちょっと、貸して」
エリカが、無防備に(驚きすぎて)固まったシグルドの聖剣へと手を伸ばした。




