魔王領開拓史:衝撃波で耕す100万ヘクタール(後半)
「……みんな、お野菜の邪魔。……お空に、帰って」
空を埋め尽くす鋼鉄の害虫、アビス・ローカスト。その鋭い顎が、蒔いたばかりの種を狙って急降下する。 だが、エリカは『大根丸』を構えず、あえて鞘に収めた。
「……六回目。……粉々、パンチ!!」
エリカが虚空に向かって、拳を突き出した。 ドォォォォォォン!!! 空振りの衝撃波が、空気の層をミル(粉砕機)に変える。 命中率「2」。彼女の拳はどの虫にも当たらない。しかし、空振りが引き起こした「超高周波の共振」が、虫たちの鋼鉄の外殻を内側から粉々に粉砕した。
「ギチッ……ギギギッ!?」 数万匹の害虫が、一瞬にしてきらめく「黒い粉末」へと姿を変え、雪のように大地に降り注ぐ。
「……七回目。……土の中に、混ざって!」
エリカは今度は地面に向かって掌を叩きつけた(空振り)。 バシュゥゥゥン!! 凄まじい風圧が、降り注いだ害虫の粉末を土壌の奥深くまで押し込む。深淵大根の魔力と害虫のタンパク質が、空振りの圧力で強制的に「発酵・分解」され、暗黒の荒野は一瞬にして、黄金色に輝く超肥沃な土壌へと作り替えられた。
「な、なんだこれは……。種を蒔いてからまだ数分だというのに、もう芽が出ているぞ!」 魔王ベルゼ・ブートが驚愕に目を見開く。
エリカの空振りが大地に与えたエネルギーと、深淵大根の生命力が共鳴し、荒野のあちこちから瑞々しい緑の芽が猛烈な勢いで突き出してきた。 それは、絶望の地と呼ばれた魔王領が、世界最大の「穀倉地帯」へと変貌した瞬間だった。
「……リノ。……明日には、お野菜、食べられそう」
「エリカさん……これはもう、開墾っていうか、天地創造ですよ……」 リノは、芽吹いたばかりのキャベツ(魔導種)の成長速度に戦慄しながらも、その瑞々しさに目を細めた。
こうして、魔王領はかつてない平和と、そして「供給過多」という新しい問題を抱えることになる。 だが、その豊かさを聞きつけたのは、近隣の国々だけではなかった。 「……報告します! 魔王領の急激な緑化を『環境テロ』と見なした帝都の聖教団が、勇者を派遣しました!」
「……勇者? ……その人も、お腹、空いてるかな?」 エリカは、新しく育った大根の葉をかじりながら、地平線の彼方に光る「正義の剣」をのんびりと見つめていた。




