魔王領開拓史:衝撃波で耕す100万ヘクタール(前半)
「……みんな、種持った? ……いくよ。……瞬きしたら、……おいていくよ?」
魔王領の荒野に、エリカの声が響く。背後には、戸惑いながらも大量の野菜の種を抱えた魔王軍の兵士たち、そして「畑仕事も法の執行のうちだ」と自分に言い聞かせるザイルが並んでいた。
「エリカ殿、準備は整った! 我が軍の精鋭たちが、貴殿の風を待っているぞ!」 魔王ベルゼ・ブートが、なぜか麦わら帽子(魔導強化済み)を被って号令をかける。
「……はぁぁぁぁぁっ!!」
――一回目、二回目、連続空振り!! エリカが大地ではなく、その「十センチ上の空間」を地面と平行に薙いだ。 ドゴォォォォォン!! 猛烈な真空の引き込み現象が発生し、カチカチに固まっていた暗黒の土が、まるで巨大な波のように一斉にめくれ上がった。
「三回目、四回目ッ!!」 エリカはリヤカーを掴んだまま、爆風の反動で荒野を音速で駆け抜ける。彼女が通り過ぎた後には、完璧に耕され、空気がたっぷりと含まれたフカフカの畝が、地平線の彼方まで出来上がっていた。
「今だ、種を蒔け! エリカ殿の風に遅れるなッ!!」 魔王の叫びに合わせ、兵士たちが空振りの余波による「微風」に乗せて種を散布する。
しかし、その平和な農作業を妨げるように、大地の底から不気味な震動が伝わってきた。
ギチギチギチギチ……ッ!!
「……あ。……土の中から、……悪い匂いがする」
地割れから姿を現したのは、体長数メートル、鋼鉄のような外殻を持つ巨大なバッタの群れ。伝説の食害獣『アビス・ローカスト』。一晩で国一つの作物を食い尽くすと言われる、農業の天敵だった。
「ぬおっ!? これは古代の害虫! 我が庭の深淵大根すら食い荒らそうというのか!」 「……ダメだよ。……それ、私の大根。……私の、ご飯」
エリカの瞳から光が消え、調理の殺気が「害虫駆除の殺気」へと切り替わった。
「……五度目の空振り。……まとめて、堆肥になれ!!」




